British Pub Aaron
階段を降りて地下にある入り口を入る。
文字通り隠れ家のようなパブのカウンターで、ギネスをちびちび飲みながら金城一紀の『フライ・ダディ・フライ』を読んでいたら、不覚にもちょっとほろっとしてしまった。
アーロンという店名は、おそらくはエルヴィス由来なんだろう。直接聞いて確かめたことはないけれど。
いつもながらマスターのケイ氏が注ぐギネスのグラスはうっとりするほど美しい。
カウンターに置かれたパイントのグラスを、泡が落ち着くまで眺めて待つ至高の時間。
ただ、ギネスのサーバーの温度設定はかなり低め。
おそらくは4度から6度前後かなぁと思って、一応聞いてみたら、5度だという。
やはり、日本人のビールの嗜好に合わせての温度設定らしい。
やっぱりちょっと低いですね・・・と言うと、イギリスとかだと喉越しよりも香りを楽しむので10度前後が普通なんでしょうけど・・・日本では・・・、とマスターもやや歯切れが悪い。
ギネスはジョッキの生中のように冷たい喉越しを楽しむものではないのにねえ。
そーゆーのを求める方は大人しくスードラとかを飲めばいいのに。
最近はこのカウンターの角の席が、心地よい読書空間。
マスターのケイ氏は無理に話しかけてきたりせずに、基本的に放っておいてくれる。
そのケイ氏が、電子書籍っていいですよね、とつぶやくように言うので、それ!それですよ。なにしろ紙の書籍のように限りある居住スペースを侵略しないのが最高にいいんですよね、特に転勤族で引っ越しの多いワタシみたいなのにはと。
おそらくですね、今後紙の書籍は フイルムカメラやLPレコードのように、僅かな趣味人の為の贅沢な道楽の分を残して、徐々に世の中から消え去ると思う。
もし今このkindleに入っている電子書籍をぜんぶ紙の本にしたとするならば、部屋の床が抜ける、というのは流石に大袈裟だが、ちゃちなカラーボックス等ならまちがいなく底板から棚板まで全部崩壊してしまうだろうと。
だから電子書籍は素晴らしい。
他のお客さんが入ってきて、ケイ氏がそちらに行ったのでkindleの画面に目を戻す。
大切なものを守る、ということについて。
舜臣の台詞が、ことごとく胸を打つのだ。
かっこいいってのは、こういう事をいうんだよなぁ。