えそらごと
ナカギンザセブンは魔窟だ。
薄暗い路地裏の天井部分から微量のアスベストが検出されたとかで、完全防護のマスク姿の女性が、何かを採取して計測しているのを横目に、奥へ奥へと進む。
なんだあれは、風の谷の何かか。
その魔窟のなかほどに、文字通りお母さんが出してくれるおばんざいを肴に呑める店がある。
瓶ビールは赤星。
温玉ポテサラなどつまみに、しばらく手酌で小さめのグラスに注いでは呑み、注いでは呑みを繰り返し、日本酒へ。
土佐のお酒
南
あのね、こうやって手をかざすと、お酒が美味しくなるのよ、とママが真顔で言うので、
どうかしちゃったのかな?とやや不安にかられたのだけれど、当人はいたって真面目にカウンターの上のお猪口にハンドパワーを送っている。
ほら、ね?違うでしょ?
まあ、なんというか、うん。
言葉を濁して入口の方を見るとさっきのナウシカおばさんがまだウロウロしている。
またひとつ、魅力あふれる裏路地が死んだ。
行こう、ここももうじき再開発に沈む。