DOPEMAN
トヨタのプリウスを見かけて、その中にイカした黒人のギャングスタがいるとは誰も思わないだろう。ましてや、ダッシュボードの中にクラックが詰まっているなんて。
高級スーツを着た記者に聞かれたことがある。「何故クスリを売るんですか?」決まっているだろ。生きるためだ。
街区の角にフードを目深に被った男が立っている。男はスマホのケースをはずしたりつけたりしている。その手元はおぼつかない。初客のようだ。
男の前に車を停める。
「乗れ」
男は無言で後部座席に乗り込む。
しばらく無言で街区周辺を走る。男はフッドの景色が物珍しいのか静かに外を眺めている。
「ここらへんは初めてか」
「ああ、そうだな」
白人の声色。後部座席を見る。
「……おい」
咄嗟にブレーキを踏み、車を停める。
「あんた、ジョン・マッケナ大統領か」
その顔は見覚えがあった。アメリカ合衆国第46代大統領。
「は、はは。まさか、おい。大統領がヤク中か?」
「違う」
大統領は静かに呟く。
「私は売人側だ」
そう言って静かにグロッグ17をとりだす。鈍色に光る銃口。間違いなく本物。
「こりゃ驚いた」
銃口に額を押し付ける。
「大統領がわざわざ殺されに来るなんてな」
大統領は片眉をあげる。辺りの家々からAK-47を向けられていることに気が付いたようだ。
「ここはあんたの国じゃない。俺の街だ」
大統領は口の端を歪め、銃を放り投げる。
「噂通りだな。売人の王。ジョー・エル」
「噂になっている時点で俺は三流だ」
「だが事実君は捕まっていない」
「……あんた、何が目的だ?」
大統領は足を組みなおし、煙草に火を点ける。
「核を密売する」
紫煙を吐き出す。
「君に協力して欲しい」
目と目がかち合う。嘘は言ってないし、俺を嵌めるつもりならわざわざ大統領本人が出張らないだろう。
「イカれてるな」
「かもな」
「嫌いじゃないぜ。けどお断りだ」
当然の話。俺はイカれてるけど馬鹿じゃない。
問題は俺に拒否権があるかだが。
【続く】