地球最後の高利貸し
高利貸しに必要な素質。
アホを借りる気にさせる口八丁と、金を返さないアホを殴りつけるタフネス。
「両方の素質を持っている俺は最も優秀な高利貸しなわけだ。テイラー大統領?」
大統領執務室には9人のSPが白目を剥いている。
この国で一番偉い老いぼれの髪を掴む。
「き、貴様。こんなことしてただですむと」
その顔面を鷲の紋章が刻まれた執務机に叩きつける。合衆国万歳!
「いいかい、テイラー大統領。クスリ欲しさにアシのつかない金が必要だったのはわかる。だが俺から金を借りたのなら、大統領令にこう加えるべきだ。”アラン・ブリッツから借りた金は必ず返せ”ってな」
テイラー大統領の鼻から一筋の血が流れる。
「ひ、ひと月待ってくれ!」
「そう言うと思ったよ」
大統領にドロップキックをくらわせる。老いぼれの巨体は窓ガラスを突き破って見えなくなった。
「へえ、優しいのね」
熱っぽい視線。隣の女からだ。
「ああ、一か月待ってやった。その間に5回殺されそうになったけど、約束は絶対だ」
ショットを飲み干し、カウンターに叩きつける。
「ようこそ、取り立て日!」
この一月はほぼ全ての顧客から取り立ててまわった。イカれたギャングにクソのギャンブル狂。FBIから大企業の社長まで。
残りは大統領と何人かの曲者。それが終われば晴れて引退。夢に見た永遠の安息日。
『緊急速報です』
常にアメフト中継を流しているバーのTVが退屈なアナウンサーに代わったため、誰もがTVに目を向けた。
『ソ連が我々合衆国に向けて核を発射しました』
賑やかなバーが静まり返る。
『我々は決断しなければならないのです。核報復の口火を切るのか否か』
なんてことだ。あのアホは実についてない。世界を終わらせる男になるとは。
だが約束は約束だ。核の雨が降ろうとも世界が終わろうとも、金は必ず取り立てる。
ジャケットを羽織ると、女が名残惜しそうに声をかける。
「どこへ行くの?」
「ホワイトハウスだよ。くそったれ」
【続く】