オールの小部屋から④ 「PRIZE-プライズ-」と「オペラティオ」
みなさん、こんばんは!
お盆のあいだずっと校了作業をしていた「オール讀物」9・10月合併号がついに書店に並びました。
第169回直木賞については「オールの小部屋から②」に書きましたので、今回は、9・10月号から始まった新連載2作、村山由佳「PRIZE-プライズ-」と真山仁「オペラティオ」を紹介したいと思います。
いずれも「いま、ここ」に生きている私たちの心を掴んではなさない、ひりひりするような力作です。
村山由佳さんの「PRIZE-プライズ-」は、作者ご自身の言葉を借りると、
「直木賞が喉から手が出るほど欲しい女性作家の物語」
この強烈な1行紹介だけで、俄然、読みたくなりませんか? しかも「文藝春秋」「日本文学振興会」「直木賞」すべて実名で描かれます。もっと言えば「山本周五郎賞」も「吉川英治文学新人賞」も「大藪春彦賞」も「本屋大賞」も出てきます(関係者の方、すみません!)。
著名な文学賞はもはや公器なのだから、いまさら「直本賞」とか「直廾賞」にしてもしかたない――こういう気持ちで〝実名報道〟しております。ちなみに雑誌「オール讀物」もそのまま登場しておりまして、告白すると、私、
連載小説の第一回が載っている「オール讀物」
という一節が「プライズ」第一回の中に出てきたとき、緊張のあまり原稿を読む手がふるえました(笑)。
といって、単なる露悪的な、暴露趣味の小説でないことは、お読みになればすぐおわかりいただけると思います。どんな人にも存在する承認欲求、「私はここにいる」と知ってほしい、認めてほしい、褒めてほしい――こうした感情に筆を尽くして肉薄してゆく小説です。読み進めるうち、誰もが、自分の中にも「天羽カイン」(主人公の女性作家)はいる、と感じるのではないでしょうか。
これまでご自身の体験を踏まえて『ダブル・ファンタジー』『ミルク・アンド・ハニー』といった作品を生み出してこられた村山さん。軽井沢に暮らす「天羽カイン」は、もしかして村山さん自身なのか――さまざまな読み方のできる衝撃の新連載です。
編集者のわがままで、何としてもこの「プライズ」第一回を〈直木賞発表号〉に掲載したいと思い、村山さんに無理をお願いしてきました。そんな真剣な打ち合わせが佳境に入ったさなか、会社から呼び出しがあり、編集長の内示を受けたのも、何かの巡り合わせのような出来事でした。
真山仁さんの「オペラティオ」は、爆発寸前にまで充満した世の中への怒り、ちょっとした火種があればいつ爆発してもおかしくないキナ臭い空気を的確に捉えた渾身の社会派小説です。すでに2年前に元総理が暗殺されている状況下で、衆人環視のもと、汚職の渦中にある現職大臣が暴漢によって刺殺されます。容疑者はそのままアーミーナイフで自死。現場には「ざまあみろ!」と記された紙片が残されていました。
政治とは、約束――。
こう若者たちに説く政治シンクタンクの主宰者がいるいっぽうで、
政治とは怒りだ。
こう大衆を煽って憚らない過激政党の幹部もいる。彼は「上級国民をぶっ潰せ!」とシュプレヒコールをあげて喝采を浴びます。異様な雰囲気の中で陸続する政治家暗殺。これは単なる通り魔殺人か、それとも――!?
真山さんの小説ではおなじみ暁光新聞のエース記者・神林のほか、新ヒロインの公安調査官・長谷川晶も事件の謎に挑みます。
マイナカード不安、増税、ガソリン高騰、政治スキャンダル……国民の怒りが沸点に達しつつあるまさにいま、真山さんのアンテナが「何か」を捉え「オペラティオ」を生み出したと言えるでしょう。
私が真山さんと初めてお仕事をご一緒したのは「週刊文春」デスク時代。初の本格ノンフィクション『ロッキード』を連載することになった真山さんの取材チームに私も加わったのです。沈黙を貫いてきたロッキード事件の関係者が、なぜか真山さんの前では重たい口を開く――。真山さんの取材力、もっと言えば〝人たらし力〟に、正直、驚きを禁じ得ませんでした。同時に、新聞、雑誌、テレビ等のメディア関係者から真山さんが尊敬を集める理由の一端がわかった気もしたのでした。
今回の「オペラティオ」にも、真山さんの取材力が大いに反映されています。本来なら会うこともできないような人たちが力を貸してくれて、連載の準備を進めてきました。今後、小説のストーリー展開はもちろんですが、真山さんにしか描けない奇跡のディテール(玄人好みかもしれませんが)を味わっていただけたらと思います。
(オールの小部屋から④ 終わり)