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関係性を深める

※この記事は2020年に別媒体で記載したものを転載した内容です。

「薬なんて飲まないよ、だって嫌いだもの。もう来ないでくれる。」

これまで外科医としてキャリアを歩んできた僕にとって、医師-患者関係は、「手術をして欲しい」という明確な目標を持って来る患者さんに対してコミュニケーションが始める関係性だった。自分のことなり、自分の病院を知って信頼をして来てくれている。

一方で在宅医療の現場では「特に必要ない」と本人は思っている中、病院やケアマネジャーさん、家族の判断で介入がはじまることがある。必要ない人として本人とコミュニケーションを始めることはこれが初めてなのかも知れないと思った。

僕からいくら話をしても頑なに薬を飲もうとしてくれなかった。
「まぁ飲みたくないなら仕方ないですよね」傾聴の姿勢で引いてはみたが、医師としては確実に内服した方が生活の質が上がることがわかっているものだった。シンプルに医師が嫌い、薬が嫌いという信念の下で、明らかに不利益になるような態度を取っているのだ。

僕はなんとか関係性を深めたいと思ったが、どこから手をつけるのかが分からなかった。在宅領域で長く理学療法を行っていたチームメイトと介入していく中で、時間をかけてお話をしてもらおうと思い自分が訪問する30分前には家に行ってもらって話をしてもらうことにしていった。

彼はいつの間にか仲良くなっていて、少しずつ患者さんの心が氷塊していく中で明らかに僕らチーム全体にも信頼を置いてくれていると思えるようになった。最終的には薬を飲んでもらい、生活の質を上げることが出来た。

僕は初めて、医師の処方内容や技術の高さではなく、関係性を深めることで診療の質があがるという経験をすることができた。
裏を返せば関係性の質を深めない限りは、診療の質を高く出来ない可能性のある症例だった。

関係の質ってなんだろう?
お話をしている関係性から「ちょっとデートに行きませんか?」と一歩深いコミュニケーションになる瞬間に人と人の間にはどんな感情が生まれて推移しているんだろう。今回の症例を通して、そんな関係性の推移が医師-患者関係でも、彼氏-彼女関係でも、すべての関係値で起きるわけだが、どうやったらその関係値をスムーズに変えることができるのか。そんな疑問がわいてきた。

Dialogue in the SHIP

2021年12月18日、僕が運営するヘルスケアコミュニティ【SHIP】は、対話をテーマにしたイベント「Dialogue in the SHIP」を渋谷ヒカリエで開催された。

テーマは「関係性を深める」。
僕はゆるスポーツの主宰者で、マイノリティ・デザイン等の著作でも有名な澤田智洋さんと対話をして、関係性について考える機会をもらった。
対談の詳細はこちらのSHIPの記事をご覧ください。

話の中では

他にも小杉湯の三代目オーナー平松裕介さん、建築家のアタカケンタロウさん、クルミドコーヒーの影山知明さんたちがSHIPのメンバーと「関係性を深める」をテーマに対談あり、どれも素晴らしい内容だった。

全てのセッションを通して共通して言える大事なことは、関係性は固着させないこと、動かし続けることが重要なのだと思った。

関係性は深まる

澤田さんの話の中で以下のような言葉をいただいた。

一個の対話の中で、立場をくるくる回転させることはとても大事だと思っています。
200人の障害を持つ人に会いに行った時でいうと、基本的に僕は弟子で、相手は師匠です。それは、相手が10代であろうと同じことです。でも、逆に相談されることもあるんです。たとえば「広告の人なんでしょう? 自分はこういう活動やってるんだけどPR が下手でさー……」と相談されます。そのような場面では「それはこうすればいいんじゃないですか」と逆に教える立場として話します。このように、いまの立場にこだわらずにどんどん立場を変えていくことを意識すると良いと思います。
ひとつの対話でのルールを自分で決めておくと、立場が偏らないようになると思います。たとえば「1時間に1回は立場を回転させる」とルールを決めておけば「いまは医師に寄りすぎてるな、ここからは患者側に回ってみよう」と立場の偏りに自ら気づき、立場を回転できるようになるのではないでしょうか。

関係性を固着させてしまうことで、関係性がそれ以上深まらなくなるという現象は確かにあると思う。
例えば、医師-患者関係だ。その関係性で固まってしまうと、僕が患者さんに何か弱音を見せるみたいなことがあったら嫌だと思う。だから、どんなに辛い日でも頑張って笑顔を見せないというプロフェッショナリズムとも言える感じになるが、その関係性の中で深まるものと、そもそも人間として関係性を深めようと思うと、立場を変えてみるような作業が必要なのかも知れない。
医師としてではなく、飲み友達として会えたら良かったと思えるような患者さんとも沢山会える。その残念な感じは医師としてこれ以上は踏み込めないような関係性のラインがあって、それを超えられない感じがするからなのだろう。

直近では、診療所の関係の質が診療の質などアウトカムに結びつくのではと思い色々と研究を重ねているところだ。
その中で、関係性が深めようと、何か積極的に対話を進めるようなWSを仕組んだりするのだが、本来的には協働するプロジェクトなどを通して、立場が変わったり(例えば医師と看護師の関係性が、BBQの準備をするときは看護師さんが調理係、医師が着火係のように違う立場で協働作業を行う)することを通して、新しい関係性を感じることで、関係性は深まっていくのかも知れないと思うようになった。

人と人って他人同士だからとても難しいことだけど、関係性という距離感をより意識することで見えてくることもあるよね。

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