ドラクエウォークが行動変容を起こした理由〜医療者はもっと熱狂を生み出そう〜
※本記事は2021年に別媒体で作成したものを転載した内容です。
2021年末に開催されたデジタルヘルス学会学術大会の中で、毎年恒例のクリエイティブ分科会の座長を務めさせてもらった。
デジタルヘルス学会、今年のテーマは「デジタルヘルスラヴ」だった。自分が好きな領域を好きなだけ語ろう、そんなメッセージが込められていると解釈した。(あまり実行メンバーの会議に参加できずテーマの決まった経緯を知らない、関係者の皆様参加できずすいません!)
ぼくとデジタルの出会いはファミコンだ。
物心ついたときから家にファミコンがあったファミコンネイティブ世代で、ビッグタイトルであるドラクエの成長と共に自分も成長し、人格形成に大きな影響を受けてきたといっても過言ではない。
そんなドラクエが2019年にウォーキングをテーマにしたスマホアプリゲーム「ドラゴンクエストウォーク(以下DQW)」をリリースした。医師として人々の健康に貢献したいと思っているが、「人に歩いてもらう」という行為はとても難しいことであり自分が医師としては到達できないことだと思っていた。
そんな中でドラクエを使ったウォーキングアプリで、まんまとぼく自身が歩いてた。歩きたいからやり始めたわけではなく、ドラクエの新作やりたいからという理由で始めた。これは健康を増進することを目標にドラクエが仕掛けてきたものに違いないと思い、スクエニのチームに登壇依頼をすることにした。
ダメもとでお願いしたが、先方も医療分野への関心は高いとのことで前向きに進めてくれることに。
デジタルヘルスラヴのテーマで第一想起したイベント案、自分が大好きだったドラクエと健康をテーマにお話ができる舞台が整った。
とても楽しみにしていた12月23日がやってきた。
DQWのプロデューサーの柴さんと対談させてもらうこととに。
以下は対談の内容をまとめてもらった記事
(代表的なところをいくつか抜粋させてもらいました。電撃オンラインさんが一番詳しくレポートしてくれています、サクッと読みたい方はファミ通がおすすめ。)
多くの医療者からは後半部分、ウォーキングのログをどう医療活用するかというあたりの食いつきが良かったが、医師でありアプリも作成したことのある自分の立場からすると一番おもしろかったのは頭の部分。
DQWはもともと「歩くことや旅行が大好きだった中年男子」が自分が楽しいと思えることを実装した、プロダクトアウト思考で出来たアプリだという点だ。
対談させてもらうまでは、「ウォーキングアプリ流行っているし、ドラクエと掛け合わせたら健康の市場も含めて売れるんじゃないの」というマーケットイン思考で出来ているものだと勝手に思っていた。
ここに僕が患者さんに行動変容を促しきれなかった理由があるのかも知れない。僕自身が「別に歩くことが好きじゃない」のだ。
僕自身が患者さんにお話しをするときに、ナチュラルに「(歩くことって嫌だと思うんですけど)歩いた方が健康にいいんで是非歩いてほしいです」と心の中の( かっこ)書きをつけてお伝えしていたのだと思う。
柴さんは真逆のアプローチだった。
歩くことが大好きな中年男子が、同世代に歩く喜びを伝えるために作成しているのだ。対談の中でも最大の失敗は「ゲームユーザーとウォーキングユーザーのモチベーションを混ぜて考えてしまったこと」ともお話している。僕は単純にウォーキングが嫌いな人にゲームの要素を加えてモチベーションをすり替えたらいいんじゃないかと思っていた。
このあたりはポケモンGOの研究の中でも指摘されている。外的報酬系は次第にモチベーションが枯渇していき、どこかで内的モチベーションに切り替えないと辞めてしまうということだった。
例えば、数学が苦手な子どもに数学のテストで100点を取ったら1000円あげると外的報酬刺激を与えると短期的には頑張るだろうが、根本的には「数学が好きになって、自分から勉強したいと思う」状況を作り出さなければいつかは枯渇してしまうわけだ。
歩くことも同様、ゲームでインセンティブがついても、最終的には「歩くことって気持ちいいし楽しいなー」とならないといつかは歩かなくなってしまう。
ここを突破するアプローチはただ一つで、歩くことって気持ちいいし楽しいなと思っている人がもっと歩きたくなるように思えるコンテンツにしていくことなのだと思った。
DQWは社内でも「不発に終わるのでは」と疑問視されていたようだ。結果としては1000万DLを超える大ヒット作品に。記事内に記載があるが、40代男性がメインユーザーで、◯歩以上歩いているほど熱狂を生み出している。
この熱狂の源泉はドラクエというコンテンツの強さだけではなく、そもそも「歩く」ということに熱狂的な面白さが隠れていて、それを見事にコンテンツと融合させていった「歩くことが大好きな中年ドラクエプロデューサー」だからこそ生み出せたものなのかも知れないと思った。
マーケットインでやっていたら上手くいかなかったのかも知れないな。
僕自身が熱狂的な好きな健康行動をもつことで、初めて患者さんに熱狂的な思いを届けることができるのだと思った。
僕らは本当に誰かに届けたい健康行動があるなら、本当にそれにのめり込んで熱狂的な発信をするべきなのかも知れない。もちろん、医療者としてエビデンスは大事にしないといけないので、そこのバランスが大事だよね。
一つだけ、大事な教訓を載せておくよ。
「科学的に正しいからと言って、患者さんが選んでくれるとは限らない!」
柴さんと対談させてもらって、医療的に正しいことをつい僕らはやってしまうけど、人が動くかどうかって正しさじゃなくて、面白さ・楽しさ、もっというと快楽なんだと思う。
僕らはそこのスイッチを押しながら、健康的な行動を勝手にとってもらうような設計をすることになるのだと思うけど、それってまずまず高尚な倫理観を求められる話だよなーと思った。
ゲームが処方される日が来るといいなと思うけど、その日までにはゲーム業界と医療職が一緒になって自浄作用のある状態を作る必要がありそうだ。