熊野で世界遺産に浸かる①
今回は温泉の事を書きます。一人旅をするようになって、候補地を選ぶ際、遺跡のある地域であること、それに加えてできれば温泉のあるところを探すようになりました。自然とそうなっていったのですが、温泉にグッとハマったのは思えば4年前和歌山県熊野の湯の峰温泉温泉に行ってからのように思います。
それまで別府温泉や、草津温泉、道後温泉等色々な温泉地に旅行に行くことはありました。まだ、20代、30代前半だったり、入浴後の身体の変化に鈍感だったためか、温泉地への旅行はどちらかというと温泉地の風情を楽しむことが目的として強かったです。
熊野は自分の興味のある旧石器時代や縄文時代の遺跡がある訳では無いのですが、たまたま休みのあった1泊2日くらいで行ける行ったことのない場所として選んだような気がします。ただ、宿泊地を考える上で、湯の峰温泉を選んだのは、漫画家のつげ義春さんの世界に少し憧れがあり鄙びた温泉に行ってみたかったからでした。
■新潮社のHPよりhttps://www.shinchosha.co.jp/book/132812/
また、もう一つ行きたくなった理由として、好きな漫画家の近藤ようこさんが「説経 小栗判官」という漫画を描いていて、この中で湯の峰温泉が出てくるのです。これは中世の口承文芸という説経師が語る物語なのですが、そのストーリーの中で主人公小栗が一度殺され、蘇生するも餓鬼の姿に身をやつし何とか湯の峰温泉にたどり着き、湯の峰温泉で元の身体を取り戻すというお話なのでした。また、熊野が世界遺産に登録された際に参詣地の一つとして、湯の峰温泉の小栗判官が浸かったつぼ湯が世界遺産の一部とされていると知りました。世界でも浸かれる温泉の世界遺産はここだけと言うではないですか。京都からでも移動時間は長いですが、これは行かなければと思ったのです。
■角川HPよりhttps://www.kadokawa.co.jp/product/301410001054/
熊野へ
大学生の頃、映画監督の青山真治監督の映画「路地へ」を見て、作家中上健次の世界観や、それに伴って熊野の山の奥深さとともにそれを分断するかのように国道を車が走り続けるシーンが印象的でした(この時の音楽が僕の好きなアーティストの大友良英さんの電子音。それがまた異界に誘われるよう)。
紀伊田辺で熊野本宮大社まで2時間ほど、バスは川を遡ってどんどん山深いところを走り始めます。途中で能や歌舞伎でも取り上げられる「安珍と清姫」の舞台を通ったり、なかへち美術館を通るくらいであとはただただ川沿いの平地が少ない山深いところを走ります。映画で見たあの光景のようだと感じていました。そして、その終点に開けた熊野川のほとり熊野本宮大社にたどり着くのです。
熊野本宮大社のバス停に着いてから、一旦バスに乗り換え、熊野本宮大社を横目に通り過ぎる形で6キロくらい奈良県側の発心門王子から熊野古道を歩きました(ビギナーの最短ルート)。僕も山深い飛騨の生まれなんですが、歩いてみると、全体的に人が少なく、静寂に包まれて山が自然が近い印象があります。また、森の湿度が高い。和歌山が産んだ才人南方熊楠がこもって粘菌の調査をしてただけあります。古道は整備されていたので歩き易かったですが、熊野詣自体が修験道の性質を持っていることもあり、熊野の持つ人を受け付けない自然の雰囲気がしました。昔の人は命懸けでこの道を遥か奈良県大峰奥駈道からもひたすら歩いてきたと思うと、山を抜けて憧れの熊野本宮大社が見えた時は、お手軽に行ってきた僕なんかより感慨ひとしおだったでしょう。
GW明けの平日ということもあってか、ほとんど人に会わなかったです。それがまた良かった。
暫く歩いた後のお茶屋さんでの紫蘇ジュースが染みました。
その日は結局遅い時間になったため、本宮には参らずバスに乗って湯の峰温泉まで行き、予約していた民宿あづまや荘にチェックイン。ここは露天風呂はないですが、シンプルな昔ながらの湯治場のような内風呂のみと、宿の佇まいです。自家源泉が魅力です。また、近くにある系列の老舗あづまや旅館のお風呂も利用できるのも売りです。
まずは内風呂に入って汗を流します。浴室は結構ボロボロの印象、でも強い硫黄臭。硫黄で金属が錆び付いてるのがわかるため、腐食し易いんでしょう。僕が入った時は白い湯の花が舞う、透明に近い熱めのお湯、硫黄臭強めといった感じでした。後から調べると、時間によって白い濁り湯になることもあるそうです。温泉の強い魅力のみに特化したコスパのよい鄙びた宿なのでした。
■あづまや荘の内湯。含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 ■温泉ソムリエぐっちさんの記事よりhttps://www.travel.co.jp/guide/article/12854/2/
内湯に入った後、汗が止まらず暫く休憩して、次はあづまや旅館のお風呂に行きました。建物からしてコレは歴史ありそうな当たりの宿。入ると女将さんが帳場で上品に挨拶して下さいました。早速浴室へ行くと、総槇造りの江戸時代の湯治場にタイムスリップしたかのような素晴らしい雰囲気。そして再び硫黄の香りの世界へ。ここの内湯は大きめの内湯と一人分の小さな浴槽と、露天風呂、天然のスチームサウナがありました。お湯は少し熱めの小さな湯葉のような湯の花舞う極上湯で、特に1人用の源泉100%の湯を自然に冷ました浴槽は白く濁り、小さいながらも一番心地よかった記憶があります。スチームサウナなんですが、当時サウナが苦手で、サウナが好きになった今思えば少しでも体験しておけばと悔やまれます。
■あづまや旅館の内湯 含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 ■温泉ソムリエぐっちさんの記事よりhttps://www.travel.co.jp/guide/article/12854/2/
その日は沢山歩いて、温泉で炊いた美味しいご飯を頂いてあっという間に寝てしまったのでした。
それにしても、こんな火山のない所で90℃以上の硫黄臭のある高温泉があるのが不思議でなりませんでした。聞いた話では1400万年前の和歌山の南半分をすっぽり覆うような超大型のカルデラ火山がありその噴火の余熱だとかで、1400万年の余熱って想像つきにくいですが、地球の活動のスケールに驚くばかりです。
■民宿あづまや、あづまや旅館公式HP https://www.adumaya.co.jp/
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