洪水の影響で線路修復中、だと?【ウィーン旅行振り返り編3】
世界一周旅行でもなく長期留学でもなく、1週間程度の旅行でそこまでする必要はないと思いつつも、一人旅で頼れるのは自分だけなので、情報収集の一環として出発前に、外務省の「たびレジ」に登録した。
紛争地帯にでも行かない限り、安全情報メールが配信されることはないと思っていた。
しかし通知は突然やって来た。
確か9月の初め頃だったと思う。オーストリア西部で大雨が降り洪水が発生したらしい。ヨーロッパは乾燥しているイメージがあったので、急に大雨とか洪水とか言われても正直ピンと来なかった。その上、普段、災害大国日本で暮らしているため、幸か不幸か「大雨洪水警報」の文字は見慣れている。本当に申し訳ないが、今すぐ危機感をあおられるものではなかった。
メールの内容にざっと見た私は「出発までまだ日があるし、雨もいつかは止むでしょう」と気楽に考え、メールをごみ箱に移動した。
後に、私の旅がこの洪水の影響を受けることになるなんて、これっぽっちも想像していなかった。
今回ウィーンを拠点にオーストリア国鉄(OBB)を利用して、日帰り旅行をした。目的地はウィーンから南へ約200キロの場所にあるグラーツだ。グラーツはオーストリアの人口第2の都市ではあるものの、ザルツブルクやハルシュタットなどと比べると、ややマイナーというか、訪問の優先順位が下がる都市かもしれない。
とはいえ、石畳の旧市街(こういう雰囲気、大好き)は世界遺産に指定されているし、旧市街から少しだけ離れた場所にある、こちらも世界遺産のエッゲンベルク城には、豊臣秀吉時代の大阪城下を描いた屏風が部屋の装飾に用いられていて、日本人としては一目見ておいてもよい場所だと思う。
事前にOBBアプリをダウンロードし、早めに購入すると安くなると聞いていたチケットはちょうど1カ月前に購入完了。(とさらっと書いてみたが、本当はアプリのダウンロードさえ少し緊張した。)
OBBのアプリは出来がよく、英語が苦手な私でもほとんど迷うことなく操作できたし、なにより購入後のフォローアップがしっかりしているのに驚いた。例えば、日本を出発する数日前にOBBから届いたメールには、次のような内容が書かれていた。
「グラーツ駅では現在、4番線と5番線のエスカレーターが工事中です。代わりに1番線と北側のトンネルをご利用ください。ホームへのアクセスルートが長くなっています。お時間に余裕を持ってご利用ください」(自動翻訳機にかけて内容を把握)。
エスカレーターの工事なんて予告なしに始まって終わりそうなものなのに、こんな細かいことまで通知してくれるのかと、少し感動した。
さて、日本からウィーンに到着し、順調に日程を消化していると、OBBからまたメールが入った。「ウィーン - ザルツブルク間の緊急でないご旅行は延期されることをお勧めいたします!」少し前の降った大雨の影響で線路に土砂崩れや浸水が発生、その復旧作業に数カ月を要するということだった。特にウィーンとザルツブルクを結ぶ西部線のダメージは大きいようだった。
いよいよグラーツ日帰りの旅、当日。残念ながら朝から小雨が降っていた。列車は時間通りに出発し(直前にホームの変更はあった)、少々の眠気と闘いながら左右の窓の外に広がる風景を眺めていた。民家、緑色の牧場、草を食む羊たち、ひまわり畑、トウモロコシ畑など、晴れていればもっと心を揺さぶられただろうなと思ったが、天候ばかりはどうにもならない。黙って現状を受け入れる。
出発して1時間ほどたつと、列車はヨーロッパ最古の山岳鉄道と言われるゼメリング鉄道(世界遺産)の区間にさしかかる。峠の中をくねくねと進むので、ややスピードを落としての走行だが、乗っている分には「ヨーロッパ最古」とか「世界遺産」を感じることはなかった。
グラーツが近づくにつれ、窓の外に川が見えてきた。調べると、ムール川というらしい。ドナウ川の支流の支流だそうで、水は茶色く濁り、今にもあふれそうなほど、水位は上の方まで達していた。それが少し前の洪水の影響なのか、その日の雨の影響なのかは分からなかったが、多分両方の影響なのだろう。
電車は予定通り到着。雨は出発した時よりも強くなっていたが、駅前からトラムに乗り換えて、予定通りエッゲンベルク城から観光をスタートした。午後になると傘を差さなくていい程度に雨は上がったが、ぐずぐずした空模様で、なんとなく足取りは重く、撮った写真もパッとしなかった。ちぇっ。
夕方、ウィーンへ戻るため、再びトラムに乗ってグラーツの中央駅へ。実は朝到着した時に、構内においしそうなプレッツェルを売っているお店があったので、買って帰って翌日の朝食にしようと考えていた。しかし、駅へ着くと目当てのお店は既に閉まっていた。時計を見ると17時を少し過ぎたところだった。閉まるのちょっと早くないか?
帰りの便は遅延した。結果的に30分の遅延で済んだのだが、OBBから遅延のお知らせメールが何度も届いて、もしかして私が置かれている状況って相当深刻なの? と必要以上に心配してしまった。
私が予約していた便は、その1本前か後の便(おそらく空港まで接続していた便)と統合されたようで、車内はスーツケースを持った大勢の乗客で混雑した。
ダイヤが乱れたおかげで、購入時に指定していた座席は、自動的に無効となったが、込み合う車内でなんとか座席は確保できた。(列車に乗り込んだとき、自分の車両が見つからず狭い列車内を往復、また泣きそうになった)
列車は、ヨーロッパの鉄道に多いとされるコンパートメント席。知らない人と向かい合わせで2時間半。腰をずらして足で組もうものなら、うっかり向かいの人に触れてしまいそうだった。外は暗いし、ウィーンまでの距離がやたら長く感じられた。
普段日本にいても鉄道の旅行をしない私にとっては、長い1日だった。グラーツからウィーンに戻るだけなのに、遅延に次ぐ遅延、いつになれば出発するのか分からない、おまけに座席も見つからずない。そんな気疲れもあって、ウィーン中央駅に戻ると、ほっとしたというよりも疲労がずっしりとのしかかった。何か夜ご飯を買って帰ろうと思ったが、スーパーはとっくに営業時間を終えていて、日本から持ってきた非常食(インスタント味噌汁など)で夜をしのいだ。
実は、鉄道関連の不安は最終日まで付きまとった。ウィーン市内から空港までは再び鉄道を使っての移動する予定だったので、何時の便に乗ろうかと、前々日あたりからグーグルで検索し、かつ駅を通るたびに時刻表を観察していた。
すると構内の時刻表には、私が乗ろうと考えていた便の横にCanceledという文字が表示されていた。これも大雨と洪水の影響の一つだった。明日(最終日)も運行休止のままなのか、それとも予定通りなのか。インフォメーションや公式ウェブサイトで調べればわかるかもしれないが、そんな高度な技術は私にはない。再び不安が募る。急遽、プランBとしてバスで空港へ移動することを検討した。
幸い、空港行きバスの乗り場(中央駅南口にあるINTERSPARというスーパーの前当たりで、分かりにくくはないが目立たない)は把握していたので、当日電車がキャンセルになっても、そこからバス停へ移動すれば予定時間には空港に着けそうだった。
と、ここまで準備しておきながら、最終日は結局、1本早い列車に乗った。予定よりは少し早かったけれど無事空港に到着した。
今回私が旅先で経験した30分程度の遅延やあらかじめ通知された運休などは、鉄道の旅に慣れている方にとってはトラブルのうちに入らないだろう(でも私にとっては大ごとだった)。むしろ、イレギュラーな状況が発生した時に、どれだけ素早くプランBを発動させられるかまで織り込んでおくのが、鉄道旅の極意というものなのだろう。
今回の旅は全体的に、鉄道周りが何かとスムーズにいかなかった。鉄道を使った移動にいい思い出ができるよう、私はまず鉄道の旅に慣れることから始めなければいけない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?