スポーツ市場で職業コーチが増えるには
最近、アメフト系SNSで話題になった、コーチの有償・無償論について、経済学の見方から論じたくなり書いてみました。裏トリはなし。用語も分かりやすくラフに。ただの小論で学術性はありません。気軽にお読みくださり、議論の種にしてください。
結論
スポーツの有償コーチング市場を拡大し、職業コーチが増えるためには、
・学生チームの財政力アップかコーチング費用を肩代わりする。
・協会も積極的に自前のお金を増やして、学生チームに回す。
・有償コーチングの必然性を高める、または必然性を感じてもらう。
・無償コーチの動向はあまりかかわりがない。
ふたつの疑問
職業としての有償コーチング市場が拡大しないのは、
①何が足りないのかという点と
②無償コーチの存在のためだろうかという点
について気になり、書き始めました。
以下、学生チームへのコーチングサービスを想定して、市場の拡大に何が足りないか考えてみます。
何が足りないのか
一般に、無償サービス市場を有償化する際に、重要なのは需要の力。需要サイドに購買力があり、需要に量がないと市場が成立・拡大しません。
スポーツコーチング市場は、供給が需要を作り出す市場ではありません。一般に需要が弱いと考えられます。
需要がどう弱いのか
(仮定)学生チームには、年間300万円のコーチングを購入できる財政力がないと思っています。(「職業」としての額として仮に300万円)
学生チームの数が少ないスポーツでは、財政力のあるチーム数も少なくなり、有償コーチングへの需要の総量が少ない。
購買力をどうつけるのか:強い策
無い購買力をつけるのが再分配または共済。寄付やクラウドファンディングは一時的で長続きしないと思います。
たとえば、協会が選手登録費を高くするなどして財源を確保し、協会が所属全チームに有償コーチを派遣する。コーチング費は協会が払う。
<=選手の応益負担>
なぜ協会かというと再分配には『強制力』が必要なためです。
サービス市場は成立しなくても、労働市場ができ、コーチングで食べられる人は増えます(収入増のためには副業をする)。
ついでにいえば、社会人選手もこの選手登録費アップに協力した方がいいでしょう(競技力底上げ)。
選手は減るだろうか
競技コストは上がりますが、優れたコーチのもとで練習ができます。フェアとは言えます。ただし、コーチングの質の確保の問題が生じます。
しかし、問題点もあります。もともと部費が高い場合に、登録費(競技コスト)をあげると選手が減るかもしれないという懸念です。
それとも質が上がれば、選手は増えるのでしょうか。この判断にはデータが必要です。選手が減ることは、一番さけるべきだと思います。
購買力をどうつけるのか:弱い策
弱い策としては、支払能力の低い学生に代わって、各チームのOBや関係者でコーチ費300万円を毎年負担する。
<=関係者の応能負担>
多くのチームで一斉におこなえば、参加チーム数に応じてコーチング市場が大きくなります。
全体組織が動かないと市場は大きくならない
実際には、上記のプランを両方組み合わせるのがいいかもしれません。
ポイントは、協会などの全体組織も動かないと、コーチング市場は一部の財政力のあるチームだけの限定されたものになり、拡大しないと思われることです。
無償コーチについて
無償コーチとは、コーチングサービスを金銭契約にもとづかずに提供する人です。私的な市場外の取引です。
無償といっても、自分の時間と知識を提供しているので、提供者にコストが発生していないわけではありません。家事、育児、介護などのシャドウワークと同様です。
無償コーチの動機は、一般には「利他心」と、またはコーチング自体が楽しいことによります。
有償コーチが必要と認識されているか
買い手から見て、無償サービスが求められるのは、上記のように購買力がなくて買えない場合のほかにもうひとつあります。
それは、有償サービスである必然性が弱い(と思われている)場合です。
市場が成立するためには、買うのが当然、あるいは有償の方が質がよい、という認識が広く行き渡っている必要があります。
無償コーチを禁止すると
このまま、たとえば協会が無償コーチングを禁止するとどうなるでしょう。
無償で提供ができない状況になると、サービスを市場に求める動きがおこります。
しかし、この方法をとっても、学生チームの購買力が高くなるわけではないので、市場は小さなままです。
高いコーチングの質で市場をつくる
有償サービスの質が無償よりも高ければ、有償サービスは市場化されるでしょう。
たとえば、有償コーチの指導を受けないと一切勝てない、ほぼ勝てないという状況があれば、勝ちたいチームは有償コーチングを需要します。
しかし、スポーツは複雑系であるので、コーチング内容が違うだけで常勝化できるかどうかは不透明です。
また、チーム財政力の問題がそのままであれば、コーチング市場は小さなままでしょう。
無償コーチを有償コーチにする
では、無償コーチにお金を与えて、有償化するのはどうでしょう。
たとえば、勝率のよいチームのコーチは必ず報酬をもらうようにする(成功報酬)を義務づけます。
これで有償コーチは増えますが、購買力の問題は解決されていません。
やはり学生チームにお金を(需要サイドの解決)
以上、かんたんに疑問点の周辺を考えて来ましたが、有償コーチング市場を拡大するためには、はじめに仮定した、学生チームに財政力がないという需要サイドの解決が重要と思われます。
協会も積極的に自前のお金を増やして、学生チームに回すことを考えるといいでしょう。
一方、はじめの仮定が違っていて、学生チームに財政力がある場合には、有償コーチングの必然性を高める、または必然性を感じてもらうことが重要です。
無償コーチの動向は、有償コーチング市場の成立と拡大にはあまりかかわりがなく、それよりも需要者数と購買力の問題かと思われます。
ところで、この記事は無料ですが、有料記事の販売を阻害しているのでしょうか?
もし、無償コーチング自体が楽しいものだとすれば、それを禁止するわけにもいきません。
有償コーチの市場拡大には、協会などの全体組織がコミットして、当面は市場の育成・保護が必要になると思われます。
補足
最近、アメフト系SNSで話題になった、この有償無償コーチの議論を、いま経済学を専攻しているスポーツ選手に、ぜひ卒論で研究してほしいです。とても面白いテーマだと思います。
今回はふれませんでしたが、無償サービスを提供するコーチの動機をボランタリー経済学の中に検討すると大変面白いです。
無償サービスに関心のある学生さんには、フィランソロフィーの経済学、ギフトの経済学、利他性、連帯経済、NPO経済、ケア、などを調べると色々分かります。
おわり