TikTok前身musicallyの初期グロース戦略およびコミュニティの作り方
ByteDanceは2017年に米国のmusical.lyを買収し、これをTikTokに改名した。このTikTokの前身とも言えるmusical.lyの創業者にして、現在ByteDanceでプロダクトのトップを務めるAlex Zhuさんが2016年に4つのインタビューで語った内容から、プロダクトについての思想やグロースの方法について見ていきたい。
B2BからB2Cへ
Q. あなたは上海に戻る前に米国でSAPに勤めていて、エンタープライズ(企業)向けソフトウェアに携わっていたと聞いている。それが今では最もクールで最も伸びているコンシューマー向けのカンパニーをリードしている。musical.lyの大ヒット、このムーブメントはスナップチャット以来だ。エンタプライズの人がどのようにしてmusical.lyのリーダーになったのか?
A. SAPのエンタープライズ向けソフトウェアに長年費やした。エンタープライズは良いビジネスだが、セクシーさが足りない。僕はセクシーな男になりたかった(笑)。僕の情熱は常にコンシューマビジネスにあった。デザインやコンシューマ視点のアプローチで、企業向けソフトウェアのデザインについて考える、というようなことをやっていた。そして2013年には、私はSAPで教育のFuturist(未来予測者)をやっていた。新しい技術が教育がどう変えていくかの未来予測をした。リサーチをしたり、記事を書いたり。Futuristというとファンシーな肩書きに聞こえるが、実は簡単な仕事だった。テントの中に座り、小さな水晶玉で未来を予測する。2020年に人工知能。2022年に拡張現実。未来の学校では個人化されたカリキュラム。簡単だ。結構得意だった。50%の確率で正しく、50%の確率で間違っていた。ラッキーなことに、未来からやってきて、アレックス、お前は間違っていると言ってくるやつは誰もいない。Futuristでいることは簡単だから、すごく飽きてしまった。テントの外に出て、私は鍛冶屋になりたかった。大工になりたかった。漁師になりたかった。私はDoer(実行する者)になりたかった。マーケット、エンドユーザーの手元に届ける具体的なモノが欲しかった。
教育アプリから、musical.ly着想まで
1ビリオンドルアイデアを思いついた。教育を変革させることだ。TwitterとCoursera(オンライン教育サービス)を組み合わせ、モバイルでショートなコンテンツを提供する。知識について学んで、シェアするUGC教育プラットフォーム(UGC=User Generated Contents, Userがコンテンツを作ること)。誰でも先生になれて、みんなから学べる。7か月かけて開発したが惨めな失敗に終わった。
この教育アプリのために「コーヒーの歴史」について語る3分の長さのコンテンツを作った。3分で全て学べる、短く簡潔なコンテンツというコンセプトだったからだ。Googleで情報収集し、内容を録音したものの、自分の声や喋り方が気に入らず何度もやり直し、2時間かかった。コンテンツを作るコストと、そのコンテンツを消費することからくるhappiness、効用の間には大きなアンバランスがあった。そこまで見たくないが、それを作るにはものすごい労力がかかる。コンテンツはめちゃくちゃ軽くないといけないし、制作と消費は時間単位ではなく分単位でできないといけないということを学んだ。
ある日、Mountain Viewからサンフランシスコに向かう電車内で高校生の行動を観察していた。50%の人が音楽を聞いていた。残りの50%は動画や写真でセルフィーをとり、スタンプを載せ、シェアしあっていた。そこに着想を得た。
教育よりエンタメの方が簡単だ。なぜなら教育は人間の性質に逆らうが、エンタメは人間の性質に沿うからだ(笑)スタートアップが人間の性質に逆らうことは難しい。YouTubeが教育プラットフォームからスタートしたらこれほど大きくならなかった。YouTubeはエンタメからスタートしたからこれほどスタートし、多様性を帯び、今では教育の目的で利用するユーザーもたくさんいる。
ターゲットは若者、特にティーンに据える
A. 新しいSNSをヒットさせるためには、若者、特にティネージャーをアーリーアダプターにさせる必要がある。彼らは時間がたくさんあって、とてもクリエイティブだ。学校の授業ではYouTubeを教育の一環で使っていたりする。全員が動画作成・編集のプロだ。プロダクトが、学校の小さなグループを惹きつけることに成功し、彼らに学校やSNSで話題にしてもらえれば、プロモーションにお金がかからない。musical.lyは今日まで1ドルも使っていない。
Q. 最初から西側諸国でヒットになるプロダクトだと分かっていたのか?それとも、中国でもトライはしたのか?
A. 中国版と英語版のアプリを用意した。アプリストアにリリースしてみると、ダウンロードとリテンションが中国では悪く、米国はめちゃくちゃ良かった。それで中国版は削除し、米国版にフォーカスすることにした。
Q. それは中国マーケットには既にたくさんの競合がいたから?YYなどの動画配信サービスなど。
A. ユーザーベースの構造に理由があると思う。先ほども言ったように米国のティーネージャーはめちゃくちゃクリエイティブで、かつ時間もある。15時に学校が終わったら、そこから先は全てSNSに時間を費やす。SNSはLife(生活、日常)をシェアするプラットフォームだ。中国では学生は勉強しかしないのでLifeがない(笑)
中国からアメリカの高校生にプロダクトを届けられるのか
Q. 中国のチームで、中国で全部作っている。アメリカの高校生、ティーネージャーと話している。どうやって彼らとそんなに近い距離にいて、耳を傾けることができるのか。コミュニティとユーザー、二つの目線で聞きたい。これはグロースにとってクリティカルなはずでしょ。
A. そうだね。いくつかの視点から話したい。まず、多くの中国人がアメリカの文化について良く知っている。こんにち、中国のSNSを見に行くと、多くの人がアメリカの大統領選挙について語って議論している。中国の選挙よりも、アメリカの選挙についてもっと語る。中国には選挙がないからね(笑)
また、多くの若い人がアメリカに行って学ぶ。そのあとFacebookとかGoogleとかで数年働いたあと、中国に戻る機会を探す。彼らがシリコンバレーのインサイトやテクニックを中国に持って帰ってきてくれる。
最後に、ユーザーとすごく近い距離にいないといけない。我々はParticipatory Design(ユーザー参加型デザイン)と呼んでいる。最初から、エンドユーザーをデザインのプロセスに巻き込む。musical.lyの数百のユーザーとWeChatで繋がっていて、日々会話している。 プロダクトについての会話だけでなく、冗談を言い合ったり、普通の会話もする。アメリカのティーン・カルチャーに浸ることが大事。全てのデザイン、特に重要なデザインはコードを書く前にまず最初にユーザーに見せてフィードバックをもらっている。
最初期のユーザーはハックで獲得
Q. 教育プラットフォームからmusical.lyへのピボットはamazingだ。それでもゼロユーザーから初めて、物凄いコミュニティを作り上げることを成し遂げてきた。どうやってただローンチしてからそれをなしえた?
A. 最初期はたくさんのハックがあった。当時アプリストアには秘密があって、アプリの名前をめちゃくちゃ長くできた。アプリストアの検索エンジンは、キーワードとかより、アプリ名により多くのウェイトを置いていた。そこで、Make awesome music video for Instagram, Facebook Messenger, ~~~~。という風にmusical.lyのアプリ名をめちゃくちゃ長くした。そうやって最初のトラフィックは検索からきた。
SNSの成長に欠かせない3ステップ理論
また、ユーティリティ(利便性)にフォーカスする必要があった。例えばInstagramの最初のユーザー1.0は、フィード、いいね、コメントのためにInstagramを使ったのではない。彼らは素晴らしいフィルターのためにInstagram使った。そのフィルターを使って撮った写真を他のSNSに投稿した。ユーザーやコンテンツのクリティカル・マスを迎える前はユーティリティにフォーカスしないといけない。musical.lyはバックグラウンドに音楽を加えることができるというユーティリティがあった。十分なユーザーを獲得したら、コミュニティを作り始める。コミュニティ作りはかなりうまくやれたと思っている。
このようにアプリは3つのステージを通らないといけない。
最初のステージはユーテリティ。次はコミュニティにフォーカス。新しいユーザーはアプリ上で友達がそんなにいない。そのため、コミュニティに頼らないとけない。知らない人との交流にフォーカスしないといけない。多くのユーザーを獲得した後には、リアルな友達も使っている可能性が高くなる。そこで、ソーシャルグラフができ、リアルの友達と交流させることができるようになる。
Instagramがフィルターという利便性を提供しながら、初期にTwitterの肩に乗りながら成長していった話は「No Filter -The Inside Story of Instagram」でも頻出する。ハックのための長いアプリ名が「既存のSNSで使えるミュージック・ビデオが作れる」であったように、動画に音楽を重ねてミュージックビデオが作れるというのが、musical.lyが初期に提供した利便性であった。
以下の記事に出てくる、mixchannelのように、画像の加工・収集をするアプリからSNS化していくというのも同じ話だろう。
石井リナ的未来予想図 加工アプリからSNSを目指すべき?|石井リナのインスタジェニック至上主義(連載17)
ふと思うのは、SNSサービスを作るより、画像加工アプリや画像収集サービスでユーザーを集めてSNS化した方が勝ち目があるのではないかということです。また、ユーザーの時間を奪取できるのではないかということです。
なお、コミュニティからソーシャルへというベクトルは、TikTokは「SNSデパート化」の夢を見るかという記事でも書いたが、個人的な肌感覚だがまだ「友達と繋がるSNS」には完全になりきれていないようにも思う。
リップシンク(口パク)にフォーカスした背景
Q. あなたのツイッターアカウントを過去数年前まで遡ってみたら、初期のmusical.lyは、あなたがBurning Man(アメリカの砂漠で行われるイベント)で撮っている動画や、ビーチで撮っている動画などが見られた。動画投稿サイトから、今のmusical.lyのアイデアはどのように得て、どう進化していったのか?
A. App Annie(アプリ分析ツール)でmusical.lyのグロース・カーブを見てみると、最初の半年は成長はあったものの、それはゆっくりなものだった。ちなみに当時のmusical.lyの機能や特徴は、今のmusical.lyのそれとほぼ変わっていない。大きなターニング・ポイントが2015年の初めにやってきた。Value Proposition(提供するコアな価値)をシフトさせた。
最初は、人々はおそらく、カメラ・ロールから動画をアップロードし、音楽をバックグランドに持ってくるだろうと思っていた。実際その時は50%の動画がカメラ・ロールからきていた。このようなかたいユースケースがあった。ただそのアプローチの問題が、頻度が十分ではない。人々が毎日行うものじゃない。習慣がない。週ごとになってしまう。習慣がないと、グロースはない。我々は、どのようにして、動画制作を習慣化させることができるかを考えた。人々は日中、家にいる時にアプリを開く。どうやって、そのような人々がその環境で動画を投稿できるようにするか。これが多くの動画プラットフォームにとって課題だった。動画投稿に適した良いシナリオがなかった。2014年の終わりに、プラットフォーム上の不思議な現象に気が付いた。既にキャッシュが尽きかけていて非常にタフだった時期だ。毎週木曜日の夕方に必ず、musical.lyのダウンロード数が跳ねていた。要因を突き止めようとGoogleでたくさんのリサーチをした。アメリカで「Lip Sync(口パク)バトル」という人気のテレビ番組があり、それが毎週木曜日に放映されていた。視聴者は番組後にアプリストアにいき、リップシンクを探すのであった。そこでmusical.lyがたくさんダウンロードされた。成功していないプロダクトを成功させるために、機能を追加することは助けとならないことを学んだ。1つのプロダクトは、コアな機能が1つあること、それがキラー・フィーチャーになることで成功する。グロース・カーブを変えるためには、Value Propositionを変えないといけない。ジェネラルなミュージックビデオメーカーからリップシンクアプリにValue Propositionをシフトさせた。ユーザーが登録する前に、リップシンクの動画を紹介しそれがメインのユースケースであることを示した。次に、ユーザーがmusical.lyに登録後は、最も良いコンテンツが表示されるようにした。ユーザーのフィードには人的に選出した動画を集めた。
教育アプリからmusical.lyという動画アプリにピボットした話はもしかしたら知っている人もいたかもしれないが、実はmusical.ly自体も"動画アプリ"の枠内でピボットをしていたというのは驚きであった。Lip Syncバトルという番組が存在しなかったら、今のTikTokも無かったかもしれないと思うと面白い。
また、musical.lyがデータドリブンであったこともこの話から伺える。「口パクアプリは絶対面白い!流行るはずだ!」という流れで作ったのではなく、たまたま口パクからの流入が多かったデータを見て、プロダクトのコア・バリューを"口パク"に転換させた。これはdely株式会社が、あらゆるジャンルの動画をテストする中でたまたま料理だけ数字が異常値に跳ねたことを理由に、料理にフォーカスを決めたという話を思い出す。
クラシルの堀江は、料理動画にたどり着くまでに美容・コスメ・ファッション・ペット・DIYとさまざまなカテゴリーの動画をFacebook上で配信し、どの動画がもっともパフォーマンスが高いかを定量的に測った。すると、料理動画がもっともよく観られていたためレシピ動画サービスの準備に踏み切った。
「優れた起業家は何を考え、どう行動したか」-第三章 プロダクトを作り、ユーザー検証する- より
musical.lyが最初から今のTikTokのような、世界中の素晴らしいコンテンツが発掘され、みんなに届けられるショート動画プラットフォームを作ろうとしていたら失敗していたであろうことも示唆に富む。目指す場所の理想の姿があっても、まずは入り口で強力なドライバーを見つけることが重要であり、動画プラットフォームの場合、たまたま口パクというのが一つの正解であった。ニッチな領域で独占し、そこからスケールせよというピーター・ティールの教えとも多少通じるところがある。「ショートムービー x 音楽」というアイデアだけなら思い付いていた人もいたかもしれないが、musical.lyの凄さは、幸運にもこの"口パク"という最初のキラーコンテンツを発見することができた点であろう。
コミュニティ作りは国家作りと同じ
Q. ミュージックコミュニティについて聞きたい。Baby Arielとかはmusical.lyで500万人のフォロワーいる。
↓Baby Ariel
Q(続き). どうやって育てたのか?Instagramスター、Snapchatスター、YouTubeスターなどがいて、彼らが各プラットフォームからリクルートされあっているような世界で、どのようにユニークなコミュニティを自ら作り上げることができたのか?
A. コミュニティを作り上げることは、国家や経済を運営することと似ている。コミュニティを運営するために、経済政策から学べることが多い。初期に、0からコミュニティを作ることは、新しい土地を見つけるようなものだ。まずその土地に名前を与えてあげる。アメリカ、と。経済、人口を作り上げ、ヨーロッパからアメリカに人を移住させたい。Instagramがヨーロッパで、Facebookがヨーロッパだ。どうやって移住させるのか?ヨーロッパの経済はとても発展している。あなたの新しい土地では人口は少なく、活動は少なく、経済もない。ヨーロッパの問題は、ソーシャルクラスが固定化されていることだ。ドイツ、フランスなどの平均的な市民はソーシャル・クラスの階段を登れる機会がほぼゼロだ。いま新しい土地ができた。最初はCentralized、中央集権化された経済を作る必要がある。富の分配の観点からは、富の大半が少数のパーセンテージの人々に配布され、まずその人たちを確実に豊かにさせないといけない。その人たちがヨーロッパから見たときにロールモデルとなり「平凡だった奴がアメリカに行っていきなり富豪になったぞ、俺も同じようにできるはずだ!」となる。たくさんの人がアメリカに移住し、人口が増え国が成長する。そしてすごく大事なことは、同時にDecentralize、分散化もしないといけないことだ。アメリカンドリームを持つことは良いことだが、ただの夢で有る限り、人々は夢から覚めてしまう。チャンスがないと思ってしまう。リッチになるために来たけど、数週間、数ヶ月後にリッチになれないと分かる。トラフィック・モデルをdecentralizeし、平均的な人に機会を与え、満足させないといけない。ミドルクラスが台頭するようにしないといけない。
一見抽象的な話をしているように見えて、今のTikTokのプロダクトにはこの概念が完全に具体化されて落とし込まれている。日本のTikTokでいうと、まずエリカ・マリナ姉妹をはじめとする、ザ・ティックトッカー的な人たちが2017年の終わりから2018年前半にかけて出現した。エリカ・マリナ姉妹以外にも、莉子さん、成瀬さん、一時期国内でフォロワー数 1位にまで上り詰めた当時小学6年生Hinataさん、など数十人のTikTokerが誕生した。このような初期の日本のTikTokで人気になった人たちは、他のプラットフォームではそこまで有名じゃなかった、あるいは無名だった人もいるだろう。これがAlexが言う、小さなグループに富を集中させた時期と言えるかもしれない。そしてここからが、Decentralization、分散化だ。比較的初期に参入し知名度を獲得したTikTokerだけが永遠に固定化されるわけではなく、次から次へと毎日新しいTikTokerが誕生してくる。2020年の今はTikTokerがあまりにも多すぎて追えきれないくらいだろう。この初期のCentralization、中央集権と、その後のDecentralization、分散化による富(知名度)の分配を可能にしたのが、次のTikTokの秀逸な仕組みだろう。2019年正月にバズった記事を復習しよう。
さて、TikTokではなぜ、無名の人でも数百人に動画を見てもらえるのか?
これは、新規の動画を、全TikTokユーザーで負担しあって見ているからである。
「オススメ」から動画を次々に見ていると、基本的にはバズった動画しか出てこないが、10〜15回に一回は、いいね数がゼロや数個しか着いていないような「新規動画」も紛れ込んで流れてくる。この仕組みを発明したことが、TikTokの真骨頂。
一見、普通の仕組みだが、これをYouTubeで再現することは不可能である。YouTubeでは10分〜20分の動画が多いので、新規のつまらない動画を皆で分け合うことが成立しない。だって、素人の動画編集に不慣れで内容も洗練されていない10〜20分の動画を強制的に見せられたら、苦痛でしょ?動画の途中で流れてくる数十秒の広告ですらイライラするんだから!そんなことをユーザーに強要したら、ユーザーが一瞬でYouTubeを離れていくに違いない。
しかしTikTokでは15秒のショートムービーが前提だ。例えつまらない動画がたま〜に流れてきても、それを視聴することの負担は小さい。15秒のうち、せめて最初の7秒は見てみて、面白くならなさそうなら途中で辞めて次の動画に進んでしまってもよいだろう。
強制的に少なくとも数百人に閲覧してもらう機会が与えられ、そこでの反応が良く最後まで視聴される比率が多かったり、ファン登録ボタンが押されたり、いいねがたくさんついたりすれば、さらに多くの人に閲覧されるよう、(TikTokを運営する)ByteDanceのAIが、その動画をますます押し上げてくれるのだ。
つまり、新規の動画を強制的に数百名に見てもらって、面白い動画が埋もれてしまわずに、すくい上げるようなプロセスが確立しているのがTikTok。
だからこそ、無名の人でもしょっちゅうバズっているし、底辺YouTuberが登録数を稼ぐために1〜2年と下積みの修行をしているうちに、あっという間に有名TikTokerになってしまうのである。
(中略)
AIエンジニアの間では、新規投稿者(TikToker)のデータが少ない時に、誰に「オススメ」すればよいのかAIが判断できないことは「コールドスタート問題」として知られている。15秒というショートムービーの特性を生かして、これを人間介在型(Human-in-the-loop)の仕組みで解決したのがByteDanceの凄み。「ByteDanceはAIがすごい」と言う人がいるけど、この人間介在の仕組みの発明の方がはるかにすごい。
このTikTokの、無名な人でも動画さえ良ければバズれる仕組みの強さは尋常じゃなく、時には以下のような下克上をも巻き起こす。
じゅんやさんは2018年頃からおすすめ欄にたまに出てくる、短いネタ系の動画を投稿するお兄ちゃんという感じで、乱立するTikTokerのうちの1人にすぎなかったと記憶している。
彼はプロフィール欄に「TikTok王におれはなる!!」と記載し、ふざけていると思っていたら、本当にTikTok王になってしまった。(なお、これはTikTokの仕組みに加えて、グローバルのオーディエンスが掛け合わさって生まれた下克上であった。彼の動画が1M(100万)再生を超えてくるようになったのは、海外からも注目が集まりだしてからだ。コメント欄には海外からのコメントも多く見られる。)
このようにして、一部の人にとってヨーロッパからの移住先に過ぎなかったアメリカが、いつの間にかヨーロッパをも凌ぐ大国となり、ヨーロッパの富裕層よりも多くの資産を築き上げる富豪が出てくる。
もちろん、YouTubeにだって新陳代謝はある。どの時期に人気を獲得したかでYouTuberは世代分けされたりする。世代分けの方法にはいろんな説があるが、例えば水溜りボンドさんは第1世代から第7世代までを世代分けしている。
僕は第4世代の、ヒカル・禁断ボーイズ・ラファエル ・ピンキーなどからなるNextStage黄金期のあとにYouTuberが好きになった。人によっては第1世代のヒカキンから入った人、第3世代の東海オンエアから入った人、コロナ禍に芸能人世代から入った人もいるだろう。以下の記事では水溜りボンドとは違った角度で世代分けがされていて、背景の解説もついているのでおすすめだ。
ただ、数年単位で新陳代謝が起きていくYouTubeと比べると、数日、数週間単位で人気TikTokerが生まれていくのがTikTokだ。間隔が短すぎてもはや第xx世代という概念が通用しない域だ。
インフルエンサーによるマネタイズ手段が大事
Q. 中国ではビリオンドルのバーチャルギフト(投げ銭)がライブ配信を通して費やされていると聞いた。USでもここ2、3年で始まると思う?musical.lyでもバーチャルギフトのビジネスが始まる?それか、USでは広告ビジネスがメインになっている。Instagram、YouTube、Snapchat、Facebook、全部広告ビジネスだが、広告とバーチャルギフトのバランスについてどう思う?
A. まず、広告ビジネスというのは素晴らしいビジネスだと思う。ユーザーの嗜好データに基づき広告を導入することはスケーラブルだし、営業をしなくてもいいし、自動で、ユーザーの体験をそこまで損なわない。そのため、広告ビジネスは将来絶対サポートしたいことだ。だが同時に、musical.lyのキーとなる力は、インフルエンス(影響力)だ。インフルエンサーを産み出し、他のSNSのインフルエンサーも惹きつける。彼らの影響力をバーチャルギフトを通してマネタイズできる。だが目的は、会社にお金を生むことではない。目的はクリエイターに十分なインセンティブを与えるマネタイズのエコシステムを作ることだ。YouTubeのやり方に似ていると思う。YouTubeが大成功したのは、パートナーシップに起因する部分があると思う。今でも多くの我々(musical.ly)のユーザーがYouTubeで投稿するのは、お金が得られるからだ。ユーザーが新しいSNSにいくときに最初に求めるのはFame(名声、評判)だ。それを手に入れたらFameでは足りない。マネタイズしないといけない。インフルエンサーにとって最も収入を生み出すプラットフォームが一番Stickyなプラットフォームとなる。
最近5億円を調達して話題になった音声配信アプリのstand.fmが思い出される。note記事で、調達資金の使途について言及されている。
ただ表現が出来て楽しい、で終わりではなく、収益化ができることでの、長期でファンの方との関係性を作れる場作り、それを実現するための配信者還元の原資。
有名人の獲得に力を入れすぎてはいけない
Q. ケイティ・ペリー、レディ・ガガ、セレーナ・ゴメスなど、世界の大物ポップスターが参加しミレニアル世代と繋がり宣伝もすることが当たり前になってきている。誰が一番最初にmusical.lyにジョインしたのか、また今、この人が使っているなんて信じられない!と思う人は?
A. 私が覚えている最初のビッグ・アーティストはジェイソン・デルーロ。musical.lyおよびlivelyで非常にアクティブだった。たくさんのミュージック・ビデオやミュージック・キャンペーンを作ったり、スタジオからダンスしている姿を配信した。多くのアーティストが参入した。レディ・ガガの参加は個人的にとてもエキサイティングだった。彼女の個性やパーソナリティが好きだったからだ。そこからさらに多くのアーティストが参加するにつれ追えなくなった。トップアーティストはプラットフォームの成長に寄与したが、アーティストをプラットフォームに参入させるために多くの時間や労力をかけるべきではないと思っている。なぜなら、トップアーティストは過程ではなく、結果に過ぎないと考えている。プラットフォームが毎日のマジョリティの人々のニーズを満たすと、プラットフォームはスケールできる。そうするとアーティストは遅かれ早かれやってくる。複数のアーティストがいるというだけで繁栄するプラットフォームは存在しない。
リップシンクアプリから、総合動画プラットフォームへ
Q. 僕たちはカラオケが大好きだ。Techcrunchチームもいくけど、毎晩やるものではない。musical.lyが一過性の通り過ぎるブームではないと言える理由について教えてほしい。
A. まず、musical.lyはカラオケアプリではない。カラオケはたしかにエンタメの面白い1形式であるが、問題点が2つある。1点目は、たくさんの人がカラオケをやりたくても、カラオケを上手にこなし、シェアしたいと思える人は全体の10%未満の人だろう。2点目は、カラオケを中心にビデオコミュニティを作ったら、全ての動画は、人が歌っている光景になる。それはビジュアルの観点からは多様性がなく、つまらないものになる。musical.lyはリップシンクからスタートした。リップシンクは誰でもできる。そして動画が完璧で、有名人のように思える。また、リップシンクの良いところは、いろんなことができる点だ。コメディ、ダンス、様々なことができる。リップシンクはコンテンツ制作のハードルを下げることで、初期の人気を得ることができた。ただ、musical.lyはリップシンクにとどまるものではない。去年の7月にアプリストアでナンバーワンになってから、コンテンツやユースケースの多様化は我々にとってめちゃくちゃ大事だ。musical.lyはより普遍的なプラットフォームに進化しないといけない。プロダクトが0から1にいく時は、非常に具体的である必要がある。ある特定のニーズを非常に良く解決する必要がある。一度1に達し、1からxに成長するには、キャンバスになる必要がある。空白のキャンバス上でいろんなことが起きてほしい。リップシンクや音楽関連の動画の比率が下がっている。
このカラオケとの比較は非常に示唆に富む。カラオケ動画を、ビジュアルの観点からは多様性がなくつまらないもの、としているが、これは個人的にはライブ配信にも言えることだと思う。有名なライブ配信アプリで配信主の部屋に入ると、配信者の顔がドアップで、コメントに返信する形で喋っていくが、単調に感じるし、どの部屋に入っても似たような感じだ。最近日本のTikTokにもライブ配信機能が付いた。それらはつまらないとまでは思わないが、それでもやはりおすすめ欄の動画の方が圧倒的に満足度が高く感じてしまう。もちろん、たまにコメント返しがめちゃくちゃ面白く、ずっと見ていたいTikTokerもいるのだが。17LiveよりもTikTokの方が人気がある(?)のは、もしかしたらそういう理由もあるかもしれない。
Q. でも結局、音楽に紐づいている。本当になんでもできる、カスタマイズ性があるSnapchatやInstagramと対抗できるほど柔軟性を保てるの?
A. 過去数ヶ月のデータから、リップシンクや音楽関連の動画の比率が下がっている。コメディ、スポーツ、ファッション、メイクなどの動画が増えている。また、より多くのコンテンツプラットフォームを提供する。Livelyというライブ配信アプリもローンチした。
Q. 音楽まわりのところを楽しんでいるのは分かった。でもそのトレンドから抜け出せずに行き詰まっているとは思わない?初めてmusical.lyを見る人の多くが「これは口パク、ダンスのアプリだ」と思い「私は口パクやダンスしたくない」と思うはずだ。一方でスナップチャットならなんでもできる。なんでmusical.lyは2年後に消えないと言えるのか?
A. SNSにとって最も重要な資産は、コンテンツ自体ではなく、ソーシャルグラフにある。ソーシャルグラフ分析を実施し分かったことが、デイリーアクティブユーザーのうち25%がコンテンツクリエイターであった。コンテンツクリエイターがたくさんいるため、彼らはアプリ上で繋がる。今、musical.lyはアメリカ、イギリス、他ヨーロッパ諸国を中心に拡大し、ユーザーを数多く獲得し普及したため、多くのユーザーがリアル世界の友達とmusical.ly上で繋がっている。このソーシャルグラフを元にいろんなことができる。
Q. 親の参入が多くのティーン向けSNSに死をもたらすのを観てきた。親が参入すると子供はもうそのSNSを使いたくなくなる。その問題にどう対処している?
A. 親はmusical.lyに対してかなりポジティブな印象を抱いている。musical.lyをクリエイティブなプラットフォームであると捉えているからだ。子供が毎日時間をかけて非常にクリエイティブなコンテンツを作るところを親は見ている。
Q. もしかして親はmusical.lyを使うに足るクリエイティビティに欠けるから使ってないって言ってる?
A. 実は多くの親が子供と一緒にmusical.lyをやっている。学校の先生と一緒にやることもある。家族や学校とも絆を深められるのだ。
Q. それこそもうクールじゃないように感じるコンテンツだ。化学の先生がダンスをしているアプリをなんで使いたいと思うんだ?
A. musical.lyがそのような課題を乗り越え前に進むために鍵となるのは、musical.lyのトラフィック・モデルがよりパーソナライズされたものになることだ。年齢、嗜好によって異なるパーソナライズされた体験をする必要がある。親の体験と子供の体験は異なる。
この1年後にmusical.lyが、AIにより個人に最適化されたニュースを届けるToutiaoを運営していたByteDanceと手を組み、musical.lyをTikTokというプロダクトに脱皮させ、上記のビジョンを実現させていったことがご存知の通りだ。この物語は、去年書いた以下の記事をご参照ください。
(※ 余談だが、SNSに精通しているとされている(?) 元TechCrunch記者でありVCに転じたJosh Constine氏はこの後も個人的な恨みでもあるのだろうかいうレベルで執拗にAlexを攻め続け、観客席の皆からもういいだろとなだめられてしまうw Clubhouseについて最初に記事にしたのも彼だ。)
長くなってしまったので、インタビューはこのへんで終わらせたいと思う。テレビの代わりに、毎日TikTokの恩恵を授かっている1ユーザーとしては、musical.lyがこのように成長してきた話には感謝・感激の気持ちでいっぱいだw
SNSやC向けプロダクトについてTwitterでも発信しています(@ishicorodayo)
※ インタビューのソースは下記に載せておきます。複数の動画から関連する箇所をバラバラに抽出し組み合わせているので、一つの動画内容だけではこのnoteのQ&A通りにはなっていないことはご了承ください。