【小説】廃屋ネイル(1/8)
会社は飛ぶ鳥跡を思い切り濁して辞めてやった。
午後二時、唐突に勢いよく立ち上がり事務所を出た。電話が鳴り続けていたがそんなのは無視だ。ロッカーにあった私服を紙袋に詰め込んで制服のまま更衣室を出た。出る間際に見えた姿見に映った自分はかなりイタかった。
ピンクのチェックのベストにベビーピンクのリボンタイ。ほうれい線の目立ち始めたくすんだ肌の四十二歳が似合う格好ではない。このセレクトをした責任者はこの残酷な事態を予測できなかったのだろうか。いや、予測したのだ。きっとわかっていてそう