笑福亭笑瓶さんに捧げます。
むかし昔。
ハタチちょいの頃。
彼がこう言いました。
「今度、ツレ(友達)にジブン紹介するわ」
えっ。
えっ。
うれピー!!
↑
嬉しすぎて鼻ピー鳴る。
だってだって、友達に紹介してくれるっていうことは……
本気度マックスやおまへんか。
彼は言った。
「で、そいつに『彼女、どんな子?』て聞かれたからさ〜〜〜」
うん。
なんて答えたん。(ドキドキ)
「『前歯がちょっと出てんねん』言うてん」
ん?
チミは私という人間を第三者に伝える際に、
第一情報として『前歯がちょっと出ている』ことを選択したんだね。
人の思考とは面白いものである。
情報処理の仕方は人それぞれ、みんな違ってみんないい〜byみすゞ。
今の時代はタブー化されているが当時『前歯がちょっと出ている』ということは、ルッキズムの観点からするとネガティブ要素に他ならなかった。
つまり美醜で言えば「醜」。
しかし、彼の性格を考えるに彼の思考の中では私という人間の『前歯がちょっと出ている』ことは単なる一つの情報であり、それがたまたま最も大きな情報であったにすぎな・・・
いや、もっと他にあるやろ。
悦子の情報、もっと他にあるやろがい。
(心の中だけでツッコむうら若き悦子)
彼は言った。
「ほんならそのツレがな、『前歯が出てるっていうことは……』」
なに?
『古手川祐子みたいな感じ?』
って。
人の思考とは面白いものである。
情報処理の仕方は人それぞれ、みんな違ってみんないい〜byみすゞ再び。
今の時代はタブー化されているが当時『前歯がちょっと出ている』ということは、ルッキズムの観点から見るとネガティブ要素に他ならなかった。
つまり美醜で言えば「醜」。
しかし、その友人にとってはさにあらず。
『前歯がちょっと出ている』ことはむしろチャームポイントとしての情報であり、当時「前歯がちょっと出ている女優部門」があったとしたなら多分トップクラスの可愛らしさを誇っていた古手川祐子さんを連想して・・・
予想外の展開やな、おい。
小さい頃からコンプレックスだった、でかい前歯が
まさかの古手川祐子に変換される日が来るとはな。
その友人の脳内には、あの可憐でちょっぴりコケティシュな古手川祐子の映像が浮かんでるわけですわ。
だめだ。
もう会えない。
その友人とやらには会えません。
古手川祐子のビジュアルを思い浮かべている人の前に、とてもじゃないがこの顔で出て行く勇気はないのである。
で、チミは、友人に何と答えたのだね。
「う〜ん……似てるかも知れへんけど、ちょっと違うかも〜」
否定せんかい。
何をモゴモゴ濁しとんねん。
そこはちゃんと否定せな。
いやいや、彼女、古手川祐子系の出っ歯ちゃいますねん。
つて。
彼女の出っ歯は
笑福亭笑瓶系の出っ歯ですねん。
つて。
そうなんです。
私、笑福亭笑瓶系の出っ歯なんです。
初めて人にそう言われたのは、80年代ど真ん中。
私は高校生だった。
笑福亭鶴瓶さんの深夜番組『突然ガバチョ!』が大ヒット。当時の若い世代はみんな夢中で見ていたものだった。
その番組で一躍ブレイクした1人が、鶴瓶さんのお弟子さんである笑瓶さんだった。
ある日、クラスの誰かが
「いっしゃん(当時の私のあだ名)、笑瓶に似とるな」
て言うた。
え!どこ似とる?
「口元」
口元。
「いや、目元かな」
目元。
「輪郭」
輪郭。
「雰囲気」
全部やないかい。
と言いながらもしかし私は感慨深かった。
コンプレックスだったでかい前歯が、こういう風に認識される日が来るんだねと。
いや、正確には歯だけではなく、全体まるっと似てたのだが。
当時うちらは花の現役女子高生。
同級生の女子たちは、ミポリンとかキョンキョンになるべく日々努力をしていたものだ。
が、私は。私自身はミポリンやキョンキョンにはなれないことを知っていた。
それは見た目云々を超えたもの、〝そこを目指さない〟というアイデンティティっつ〜かなんつ〜か。
つまり
ミポリンやキョンキョン、また彼女たちを信奉する女子たちは〝あっちの世界〟の女子。
私は〝こっちの世界〟の女子。
その間には暗くて深い河がある。
ローアンロー ローアンロー 振り返るなローロー
ゆうてね。
あれは男と女の間だったが、女と女の間にも暗くて深い河はある。
「笑瓶に似とるな」と言われて拒否する女子はあっち側。
受け入れる側はこっち側。
その河の暗さ深さは果てしなく。
伝わってますか、この感じ。
先進めます。
やがて私は高校を卒業し、上阪。
とある広告制作会社にコピーライターとして入社した。
配属されたチームは、新人の私が入ってコピーライターが2人となり中堅のグラフィックデザイナーが2人、合計4人編成。
そのデザイナーの1人の男性がお笑いリーダーみたいな陽キャの人で、
「俺、お笑いわかってる感」を醸しながら常に大声でパーパー喋り散らかしているちょっと暑苦しい人だった(←30数年越しの悪口)
新人である私は、早く仕事を覚えること、そして早くチームの人たちと打ち解けることを目標に日々の勤めをこなしていた。
ある日、件のお笑いリーダーが話しかけてきた。
「ジブン、誰かに似てるよなあ〜〜〜?」
え、そうですか。
「うん。ここまで出てるんやけどなあ~~~」
と、本来なら手刀で喉元をトントンとするところを、おでこをトントンとするお約束ボケに
「いや、上すぎ!上すぎ!それやったらもう出てもてるがな~~~笑」
とひとりツッコミで処理しながら
「今まで誰かに似てるって言われたことない〜〜〜?」
と聞いてきた。
なので、
あ、それでしたら、まあ……笑福亭笑瓶とかですかね。
と言った瞬間
「それや〜〜〜!!」
と小躍りして喜ぶお笑いリーダー。
「笑瓶やん!!笑瓶に似てるんやん!!あ〜〜〜スッキリした~~~!!」
それは良かったです。
「ということは」
何でしょうか。
お笑いリーダーは、最高のキメ顔を作ってこう言った。
「今日からお前の名前は、笑瓶だ」
私の、会社での立ち位置が決まった瞬間だった。
お笑いリーダーの広報スキルはえげつなかった。
めっちゃ言いふらしよんねん。
おかげでその日のうちに、私は社内中で「笑瓶」として認知された。
以降、たくさんの先輩方が「ショーへー」「ショーちゃん」「ショー」など、親しみを込めて呼んでくれた。
余談だが、いつしか「笑福亭笑瓶の妹」という設定も生まれた。
「笑福亭笑瓶の妹」。
かつて河合奈保子が
「西城秀樹の妹」
として売り出したが、お察しのようにそれとは 若干 大いに意味合いは違っていた。
兎にも角にも
「笑瓶似」というアイテムのおかげで、私は新しい職場でスムーズに人間関係を築くことができたのだった。
20代の濃密な時期を「笑瓶」と呼ばれて過ごした私は、笑福亭笑瓶さんに擬似兄と思うほど深いシンパシーを勝手に感じていた。
それから幾年月が流れ、私は演芸の道に入り、さらに長い年月の後。
ご縁が巡り巡って、今月、カメラマンの佐々木芳郎さん(※1)に私の運営するラジオ(※2)でインタビューさせていただく機会を得た。
お話しの中で、佐々木さんと笑瓶さんとのエピソードが飛び出し、笑瓶さんのあまりにも可愛らしいお人柄に思わず大笑いした。
私は笑瓶さんとは実際にお会いしたことがなかったのだが、唯一の接点であるエピソードを打ち明けている。
「私、昔、笑瓶さんに似てるって言われてたんですよ」
と。
その収録が、つい先日の2月13日(日)。
音源の公開を25日(土)に控えた22日(水)。
笑瓶さんの突然の訃報が流れてきたのだった。
佐々木さんも大いに驚かれ、すぐさまご自身のFacebookに追悼文をあげられおられた。
その記事がこちら。
ラジオで飛び出した笑瓶さんとのケッサク話が綴られています。
読んでね。
【撮影:佐々木芳郎氏】
下記添付は、件のラジオ番組です。
追悼の思いを込めてアップします。
笑瓶さんの亡くなるわずか数日前に語られた佐々木さんの貴重なお話し、ぜひお聴きください。
例の私の打ち明けコメントもあるからね。
よろしくね。
「がちんこ給湯室」入り口はこちらから⏬
後半はジャーナリスト立花隆さんとのお仕事について。興味深いお話しが満載です。
(※1)
●佐々木芳郎さんプロフィール●
1959年大阪府生まれ。関西大学商学部中退。80年写真事務所フォトライブを設立。82年大阪・梅田コマ劇場「ラ・マンチャの男」の舞台撮影でマスコミ界デビュー。83年マガジンハウスの特約カメラマンとなる。週刊文春、週刊現代などさまざまな雑誌で活躍。2006年からは米朝事務所専属カメラマン。現在はアイドルからローマ教皇まで、あらゆるジャンルの人物撮影や取材、書籍及び雑誌の企画・編集・執筆を行っている。
『インディオの聖像』(文:立花隆 写真:佐々木芳郎)誕生秘話⏬⏬⏬
●「現代ビジネス」記事●
https://gendai.media/list/author/yoshiro.sasaki
(※2)
スタエフラジオ「がちんこ給湯室」
演芸作家・石山悦子がお客様をお招きして、そのひととなりやお仕事についてゆるりとお聞きする番組です。
●これまでのお客様●
#1 Yおかん
#2 十三シアターセブンイベントプロデューサー・福住恵さん
#3 漫才師・美ユルさん
#4 落語家・桂かい枝師
#5 漫才師・浮世亭三吾師
#6 タロット師・シバトモさん
#7 アニヨメ
#8 お笑いマジシャン・ビックリツカサさん
#9 夢人塔代表・浅尾典彦さん
#10 落語家・桂三扇さん
#11 松竹芸能タレント・小川恵理子さん(前編)
#12 松竹芸能タレント・小川恵理子さん(後編)#13 落語作家・高田豪さん
#14 落語家・笑福亭羽光師
#15 落語作家・今井ようじさん(前編)
#16 落語作家・今井ようじさん(後編)
#17 伝説の放送作家・疋田哲夫先生(第1話)
#18 伝説の放送作家・疋田哲夫先生(第2話)
#19 伝説の放送作家・疋田哲夫先生(第3話)
#20 カメラマン・佐々木芳郎さん(第1話)
#21 カメラマン・佐々木芳郎さん(第2話)
#22 カメラマン・佐々木芳郎さん(第3話)
#23 カメラマン・佐々木芳郎さん(第4話)
#24 カメラマン・佐々木芳郎さん(第5話)
#25 カメラマン・佐々木芳郎さん(第6話)
#26 カメラマン・佐々木芳郎さん(第7話)
○聞き手:石山悦子(演芸作家)○
Twitter
https://twitter.com/tunpachi817
▪️受賞歴
☆第11回 落語協会台本大賞
☆第1回、第3回岩井コスモ証券presents上方落語台本大賞 他
▪️噺家(桂吉弥・桂かい枝)×作家(米井敬人・石山悦子)のユニット「ハナサクラクゴ」稼働中
▪️漫才台本 NHKラジオ『上方演芸会』 お笑いライブなど 漫才台本書き下ろし
▪️落語台本、浪曲台本書き下ろし
▪️メディア出演
2022 『ABCラジオプロデューサー上ノ薗公秀・ウラカタラジオ』 2022 ABCラジオ『伊藤史隆のラジオノオト』 他
▪️イベント出演 2020 トークライブ『演芸作家・事情聴取!』〔十三シアターセブン〕 2020『第1回関西ライターズリビングルームオンライン』 2022『門戸寄席 笑福亭羽光~新作落語フィーチャーの会』 他
▪️講師 2020『賞ねらってこ!落語台本書き方講座』講師 〔十三シアターセブン〕 2021『日本笑い学会オープン講座』 他
▪️コラム、演芸台本(一部有料)更新中
https://note.com/ishi817/