いっしゅ/ 一守藍

ライティング / 文筆 / エッセイ / 秘書 / SIS / 早稲田 / 大阪 / https://indigoish.wixsite.com/mysite

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最近の記事

トイレ代行サービス - ショートショート -

新生児とともに帰宅した妻は、トイレが苦痛で仕方がないという。産後の傷におしっこがしみる、ビデと消毒がしみる、そもそも歩くのがつらい、などなど、口は達者だ。 「あなた、わたしの代わりにトイレに行ってくれない?1回100円で、お小遣いアップするから。ね?」 産院で紹介された、尿道装着チップの話か。 カプセル型のチップは、飲むと数時間で膀胱に到達するようにできている。膀胱と尿道をつなぐ器官である、内尿道口をふさぐように装着されるらしい。 「チップはあるのか?」 「1セット、もらって

    • ワタシがイタメテきたからよ - 傷心を誇る -

      「気持ちいい〜!なんで痛いところ分かるん?ランちゃん、さすがやわ」 タイ古式マッサージが好きで、ランちゃんのマッサージ店に10年近く通っている。タイではマッサージは国家資格なので、資格を持っているタイ人の腕はいいことが多い。今年還暦を迎えるランちゃんは、とりわけ上手だ。 「ワタシがイタメテきたからよ。ワカイヒト、ちしきでツボおす。ワタシ、ケイケンでツボおす。じぶんがイタくなると、あいてのイタミもワカル」 なんだか、深い。 心に傷を負ったときも、専門家の話で癒やされることも

      • きみにつくる物語

        絵本作家になることが夢だった。イソップ物語のような、少し教訓を含んだ内容で、生きていくために必要な心が育つ、そんな絵本を書きたかった。でも、私は絵を描くことがとても苦手だ。いまどき、文字だけの物語を採用するような募集は少ない。 そんな私を絵本作家にしてくれたのは、我が子だ。5歳になる上の子はとてもやんちゃ。たくさんのことを学んでいる最中だ。悪いことをしたときに、頭ごなしに叱っても、怒られた、という思い出しか残らない。 何がどう悪かったのか、どうすべきだったのか、自分で考えて

        • 緑みたいな人間 - 十人十色 -

          夕焼けや、朝焼けの空は、太陽から順に、 赤橙黄緑青藍紫黒と色が変わっていき、 星が広がる。 多様な色が存在しているにも関わらず、 ナチュラルなグラデーションで、 境界線は見当たらない。 このなかで鍵となる色は、 緑だと思う。 黄から青という強い色の変化を、 とても狭い範囲で違和感なく 溶け込ませているから。 赤から黄も大きな変化ではあるが、 その範囲は広く、グラデーションになるには 十分に見える。 この美しい色の変化を描こうとしても、 私の技量では緑のところで わざと

          白みそ丸もち - 再現できない味 -

          私には8年間、お正月がきていない。80歳を機に、祖母がおせち料理を作らなくなったからだ。 祖母の作るお雑煮は、白みそに丸もちが入った、関西では一般的なもの。だが、お店のそれに比べてとても甘く、濃厚で、野菜の風味がたくさん効いていて、家庭を感じるやさしい味が、美味しくてたまらないのだ。幼い頃からその味でお正月を迎えてきた私にとって、祖母のお雑煮のないお正月は、新年がきた気がしない。 あの味を再現したくて、本人に何を入れていたのかと聞いても、 「そりゃぁ、みつばとか、ねぎやん」

          白みそ丸もち - 再現できない味 -

          その道の花束

          月12日以上、看病に使われていく有給休暇。下の子が熱を出し、治ったころに上の子が熱を出す。 4回目の保活を終え、ようやく育休復帰ができたと思ったのも束の間、慣らし保育も重なり、数ヶ月のうちに有休は尽きた。 スマホの画面に「保育園」と通知が入れば、たまの出勤時も即刻お迎えだ。 新卒から9年間勤めた職場に退職届を提出したのは、少し前のこと。多くの人が経験すると、頭では分かっていても、気持ちは現状維持を求めてしまう。 「大変だよね。辞めちゃうのは寂しいけど、子どもたちもすぐに大き

          その道の花束

          心の成長 - 失わなくても -

          「金魚すくい」の看板が、子どもたちの目を引く季節。 生き物を飼うことで子どもの心が成長する、という話はよく聞く。大切にするということ、愛着をもつということ。究極は、お世話をしないと死んでしまうという悲しみや、戻ってこない命の重みを経験することが、心の成長に繋がると解釈されているのだと思う。教育目的で飼われるなんて、生き物の立場からしたら、迷惑な話だろうけども。 私は昔、ハムスターを飼っていた。10匹は飼っていた。10歳からの8年間で、1匹ずつ飼育していたはずなのに、10匹も

          心の成長 - 失わなくても -

          またねと種 - 気づけない最後 -

          祖父が救急車で病院へと運ばれたのは、2019年の末のことだった。末期の大腸がんで倒れ、歩行もままならず、要介護の認定を受けた。 「また会いに行くね」 退院後、施設で暮らすことになった祖父に、私は電話をした。 またね、という言葉には、水分が含まれていると思う。次回がある、という確信や期待。 またね、に含まれる水分量は、相手との関係性によって変わる。その相手に対して、次回を期待する気持ちが大きければ大きいほど、またね、で心はうるおう。心のなかで水を欲していた種は、待ってましたと

          またねと種 - 気づけない最後 -

          母がくれた時間 - 当たり前を贈る -  

          透きとおるように穏やかな顔をして隣で眠る。その安心しきった表情を眺めれば、どんな苦労も吹き飛んでしまう。そっと頬にキスをし、床を軋ませないようつま先で歩いてパソコンへと向かう。 四半世紀以上歳下の2人にこんなにも入れ込むようになるとは、学生時代のわたしが知ったら驚くでしょう。子育てをする上で、諦めることはたくさんあります。体型、美容、健康、睡眠、仕事、お金、恋愛、人付き合い、自分の時間。それでも、この小さな生きものたちが可愛くて大切で、この手で守りたくて仕方がなくなってしまう

          母がくれた時間 - 当たり前を贈る -  

          小さな象徴 - 未来のためにできること -

          「あ、すみません。あの、オムツ替えの台がここにしかないらしくて、、すぐ出ていきますんで」 お店の人に案内されたという男性は、女性トイレで目が合うなり、慌てて私にそう言いました。 「ゆっくり替えてください。私も子どもが2人います。大変ですよね」 「すごいなぁ。本当は、もう1人、ほしいと思っていたんですけど、うちは無理そうです」 男性は、慣れた手つきでオムツを替えると、小さな子どもを連れ、その場をあとにしました。 よく、未来を変えるのは「よそもの、わかもの、ばかもの」だといいま

          小さな象徴 - 未来のためにできること -

          酸っぱい仕事 - 競争より共存 -

          海も山もない。高層ビルで縁取りされた空を見上げて言う。 「ここにはなんでも揃ってる」 学生時代の私は無敵だった。大阪から上京し、ひとりで生きることに抵抗がなく、なんの根拠もない自信に溢れていた。山手線の駅ごとに異なるメロディーに、環状線のメロディーを重ねながら、都会の音たちに恋をしていた。どこへでも行ける気がした。 でも、ハタチを過ぎたころからだろうか。慌ただしい社会の波に、自分がのまれるようになった。やるぞと決め、競争の渦に飛び込んだ元気が、もがく過程で少しずつ失われていく

          酸っぱい仕事 - 競争より共存 -

          名字と名前 - 多様性を考える -

          現時点で、私の名字は4回変わっています。今の日本の制度において、母子家庭で育った人の多くは、この運命にあるのではないでしょうか。 だからといって、特に困ったことはありませんでした。強いていうなら、通帳やパスポートの変更と、転校のたびに所持品の名字の書きかえが発生したことくらいです。いじめられることもなく、先生とも、友人とも、幼いころからファーストネームで呼びあう文化のなかで生きてこられたのは、母の配慮のおかげかもしれません。 「〇〇さん、じゃなかった、ごめん、●●さん」 名

          名字と名前 - 多様性を考える -

          無意味な雑談の意味 - Ska vi fika? -

          お迎えの帰り道、公園へと引っぱられていく。いつもは「お腹すいた」とまっすぐおうちに帰りたがるのに、今日はいうことを聞かない。 こんなとき、時間がないとイライラしてしまう。でもふと、なにかお話したいことがあるのかもしれない、と感じて、「少しだけね」とついていってみた。 私に、フィーカという習慣がついたのは中学生のころ。母は私と過ごす時間を大切にしてくれいた。 フィーカは、スウェーデンの生活習慣で、同僚や友人、恋人や家族とコーヒーを飲みながら会話を楽しむ休憩時間をいう。雑談は、

          無意味な雑談の意味 - Ska vi fika? -

          母の日のにんじん

          「にんじん」 想定外の答えだった。 今まで私が母に贈ったプレゼントのなかで、一番嬉しかったものだという。 我が家の母の日は年2回。5月の第2日曜日と、私の誕生日だ。 「生まれた日のこと、自分では覚えてないやろうけど、私はハッキリ覚えてるんやで。めっちゃ頑張ったもん。お祝いされるべきなのは私や」 それらしくもある、無茶苦茶な母の思想のもと、私は育った。 でも、にんじんをあげた記憶はない。 当時、私は5歳だった。 母の日だからといって、家事育児を休めるわけではない。だからその

          母の日のにんじん

          伝える、ではなく、伝わる

          3歳児神話を信じていた私は、子どもがうまれたら、小さいうちはずっと子どものそばにいて愛情を伝えるべきだと思っていました。 3歳児神話とは、"3歳までに母親の愛情にたくさん触れなければ、その後の成長に悪影響を及ぼす"という考えです。かつては女性の就労を否定する理由にされてしまうことがありました。 でも、子どもが生まれて、気がついたのです。母親からの愛情に限る必要はないということ。そして、育児は3歳まで頑張ればいい、わけではないということに。 1日の大半を泣いて過ごす赤ちゃん。

          伝える、ではなく、伝わる

          ライティングと文芸歴

          ライティング *ネーミング/ キャッチコピー *WEB/ 冊子/ インタビュー *文筆/ 秘書 受賞、入選 2024 日本勤労青少年団体協議会 / エッセイ 佳作 2022  牛乳石鹸 / 川柳 1126(いい風呂)賞 2022  産業振興財団 / ビジネスコンテスト 最優秀賞 2021  日本勤労青少年団体協議会 / エッセイ 佳作 2021    セリスタ / 川柳 佳作 2021    日本チェーンドラッグストア協会 / 川柳 入選 2020  第一生命保険 / サラ

          ライティングと文芸歴