なぜ相続が注目されてきているか
最近、相続についていろんな記事がニュースサイトに出てきます。
半分は広告なのですが、それだけではなく実は国家の政策として重要な施策が絡んできています。今回はこのうちの相続登記義務化について簡単な解説を。
相続登記の義務化
土地の相続登記が義務化されます。令和6年4月からですから、もうまもなくです。
若干の説明が必要かもしれませんね。
土地でも建物でも不動産には番号がついています。その番号ごとに土地の種類とか面積とかが公的に記録されています。登記情報と呼ばれるものです。
そこには所有者の住所氏名が記載されていて、何か必要が生じたときに必ず調べる公的資料です。
最近では個人でも簡単にネットで調べることができるし、ネットが面倒なら法務局に行けば全国どこでも調べることができるものです。
たとえば売買であれば、売買代金を支払うと同時に所有権を移転する登記申請をします。ご自宅を考えてみればよくわかると思います。
それが相続登記となるとなかなかそうはいきません。
その土地が亡くなった方の土地であることすら知らない、固定資産税さえ誰かが支払っていれば誰にも怒られない、そもそも固定資産税すら課税されていない土地もたくさんあります。
(固定資産税が一定額以下の土地は課税すらされません。50円の税金を徴収するのに人件費事務費含めて数千円かける価値があるかどうかという対比用効果の問題です)
結局、放っておけばよい、いつかやろう、になってしまいます。
でも相続登記がなされていないと、さまざまな弊害が生じてきます。主なものを挙げてみますね。
土地の荒廃
公共事業への影響
災害時の対応が不可
相続人は極端な言い方をすればネズミ算的に増えていきます。
私が関係した例でいうと、昭和44年時点で登記された5人の共有地がありました。
関係者が事業の必要性があってその相続人を追いかけました。わずか50年ほど前の登記です。
5人だった所有者は全員亡くなっていて、推定相続人を追いかけたところ120人になってしまっていました。
戦後すぐまでは家督相続でしたから問題はさほどありませんでしたが、戦後民法が大改正されてすべての推定相続人が、少ないとはいえ持分を有することになります。
その土地を買おうとすると120人と交渉して、売買代金を支払って全員分の持分を取得しなければ完全な所有権を取得することができません。
120人全員と連絡を取ろうとしたのですが、住所地までは調査できても遠方だったり、そもそも居住していなかったりして、結局事業を断念した、という経験があります。
たとえたった一人の土地でも子供が2人いれば共有になるし、その子どもが亡くなればさらにその子どもへと推定相続人が広がっていきます。
こうした状態が続くと、まず誰もその土地を管理しなくなります。草が生い茂り、立ち入ることすら難しくなります。山は荒れて保水力が減少しがけ崩れが生じたりもするでしょう。
こうした土地を所有者不明土地と称したりします。
さらに、その土地の上に道路を通そうとした場合、国でも地方公共団体でもまずは買収をしなければなりません。全員から買収をするのはかなりの手間です。
よく国道とかで、いきなり道路幅が細くなっていたりするのは、買収ができずに手を付けられない土地であることが多いと思われます。
もう一つ大きな問題があります。
東日本大震災で、大量のがれきを処分しなければならない事態が生じました。
また、規模が大きかったので仮設住宅を建てる必要があったのですが、土地の所有者が多数であったため、もしくはその代表者とすら連絡が取れなかったため、他の土地を探さなくてはならず、建設が遅れたという経緯があります。
こうした場合、土地区画整理をすることによってある程度解消する部分もありますが、土地区画整理には時間がかかります。おそらく10年~20年はかかるでしょう。
このような理由から地方公共団体と国が協同して相続登記未了地の調査を始めました。
私が以前在籍していた法人でもこの調査の一端を担ったのですが、たった一筆の土地の調査に3ヶ月くらいかかった記憶があります。
(土地の数は一筆、二筆・・・と数えます)
どうにもならないので、相続登記を義務化したのです。
この義務は相続人すべてに課されているものです。
その土地の所有権者であることを知ったときから3年以内に相続登記をしなければならないことになり、しなければ10万円以下の過料が科せられます。
ちょっと無理がある法律ですので、国も対応策をいくつか出しています。
申告登記制度
相続土地国庫帰属制度
土地管理者制度
などです。
個々について別途説明します。
実際はどのような運用をしていくのか、国も模索している気配はありますが、公共的な意味合いだけでなく、個人の土地ですからあくまでも個人の意思で進めるのが本筋です。
そもそもこの登記という制度の成り立ちからすると強引のような気もします。
登記には推定力があるが公信力はない。というのが民法の大原則です。
登記は対抗要件であるにすぎない、という言い方もされます。
簡単に言うと、土地を買っても登記をする義務はなくて、登記をしなければ第三者に自分が所有者であることを主張できない、ということにすぎず、もし、登記をしないままにしておいて、他の人がその土地を買って登記をすれば、登記をしなかった人は自分が所有者であることを主張できない。ということです。
売買と相続で差があるのには違和感も感じますが、法制化されてしまった以上、国民はそれに従うしかないのです。
ここまで書いてきましたが、読まれた方は、それって田舎の方の問題じゃないの?と思われるかもしれません。
じつはそうではなく、都市部でも、東京23区内でも普通に存在しています。
私は千葉市内で業務をしていますが、先日相談を受けた土地がまさにこれに該当する土地でした。某ターミナル駅から歩いて5分の一等地です。
他にも、後見・遺言の相談に来られたお客さまの所有地の登記情報をみてみると、先代の亡くなった方の名義になっていたことも一度や二度ではありません。
この記事を読んでいただいた方には是非、何らかのアクションを起こしてほしいと思います。
寝た子を起こすようで嫌だと思われた方、寝た子が自らの意思で起きたとき、トラブルの原因になりますよ。
次の記事からは、本格的に相続本体の説明をしようかと思っております。