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出会いと別れと: 光る君へ(46) 刀伊の入寇

 もう12月……ということは「光る君へ」も今回(46回)を含めてあと3回ですか。
 早く見たいような、でも別れが惜しまれるような。
 そして今回は、今から46回の感想を述べようというのに、他のことをぜんぶぶっ飛ばして最後の部分について語り出したくなってますよ。
 それでは順序というものがおかしくなるので、まずは尋常に勝負……じゃなかった、始めます。



◾️青春の面影


 また出てきてくれないかなーと思っていた周明ヂョウミンさん。
 本当に再登場してくれるとは思っていなかったので嬉しいです。

 自ら大宰府ゆきを希望した隆家さんの目的は目の治療でした。
 眼病をよく治す薬師がいる、という情報を聞いて、それってまさか周明さんじゃないよねーと笑っていたら、周明さんではなかったけれども関係者(周明さんのお師匠様)ではありました。

 それにしても。
 まひろちゃんと周明さん。
 20年ぶりの再会でありながら、すぐに「あの人!」と分かったというのは立派です。
 人にもよるけど、さすがにその年月が過ぎているとちょっと印象が変わっていて
「面影はあるんだけどなあ。誰だったかな?」
 ということはフツーにあるからです。

 まして、あんな街中の雑踏に紛れているのに、あっとわかるというのは立派。
 まひろちゃんはあまり老け込まないタイプのようですが、周明さんも同様だったんですねきっと。

 周明さんは、切羽詰まった事情があったとはいえ、まひろちゃんに刃を向けて脅迫した身ですから、そりゃもう、気まずいなんてもんじゃない。
 思わず逃げ出しそうになるのはわかります。

 けれども20年という年月が、いろんなものを洗い流してくれている。
 これは救いですね。
 まひろちゃんも、周明さんの置かれた状況や立場がなんとなくでも分かっているし、宮仕えをしてきたから、何につけてもクソ重い政治の空気も理解するようになっている。

 今はそれぞれに許して、穏やかに、古い馴染みとして向き合う二人の姿は、見ている側にも心和むものがありました。

 昔とは様変わりした、といえば、大宰権帥だざいごんのそちとして赴任中の隆家さんですね。
 どうしようもない乱暴者の御曹司、取り返しのつかない失敗をして家の没落のきっかけにさえなった「坊ちゃん」が、今は頼もしい「仲間」に囲まれ、支え、支えられる、素晴らしい人格者になっている。
 宮廷での位階昇進に必死になっていたなんて馬鹿らしいよな、と明るく笑う。

 後先も考えず、ただ面白がって矢を射かけていたクソガキが、今や、部下を率いて頼もしいリーダーになっている。
「無辜の民」を守る使命感を持ち、自ら凶賊に矢を放つ。
 このドラマの中でも特に、成長と変貌ぶりが目覚ましい人になりましたね。

 道長さん(太閤)からまひろちゃんを接待せよという指示が来ている、と告げた隆家さん。
 自分たち(中関白家)を追い落とすきっかけになった源氏物語を書いた張本人を、追い落とされた自分に「もてなせ」とは、酷なお達しだと、隆家さんは口ではそんなことを言っていましたが、本音ではなさそうです。

 もちろんそういう思いもゼロではないでしょう。
 が、大宰府で過ごすうちに新しい価値観や新しい居場所を見出した今の隆家さんにとっては、それもまた「昔話」のうちに入っているようです。
 明るい表情と笑い声に、そんなあたりが表れていたと思います。

 環境の変化や、流れる年月。
 それが「浄化」をもたらすことは、確かにあるのかもしれません。

 そして隆家さんから聞かされる、道長さんの出家と病気のこと。
 思わず顔色を変えるまひろちゃん。
 もう終わりだと決めたはずのことが、まだまだ洗い流されてなどいないのだとわかる表情でした。

 物事というのは、終わるときにはどんなに抵抗しても終わっていきますが。
 自分の都合で終わらせようとしても、なかなかそうはいかない、そんなこともありますね。


◾️お茶の伝来


 お茶が登場していました。
 これは静岡県民として(?)はちょっと見過ごせない(笑)

 お茶の、日本への伝来は8〜9世紀ごろのことといわれ、「日本後紀」の記録、弘仁6年(815年)に、嵯峨天皇がお飲みになったとの記事があって、これが日本初だとか。(少なくとも公式には)

 ドラマ中の現在は1010年前後ですから、普及はまだまだですが、とはいえ大宰府であればそれなりに、お茶も「あるところにはある」状態だったのかな。

 珍しいものだったので、お茶は「薬」の扱いだったんですね。
 率直に言って美味しいものとも思えず、嗜好品という感覚もなかったでしょうから、薬と言われたほうが説得力があったんでしょう。
 当時のお茶の形態も現在とはだいぶ異なるものだったようです。

 実際どんな味だったのかな、と。
 静岡県民、思わず食いついて見てしまった場面でした(笑)

 日本でお茶の栽培が始まるのは1191年ですから平安末期。まだまだ先ですね。
 千利休はそこから400年後。
 煎茶の製法が確立したのは江戸時代。
 思わず本邦におけるお茶の歴史についても思いを馳せてしまいました。


◾️栄花えいが物語


 まずはまひろちゃんに、それから赤染衛門あかぞめえもんさんに、「道長さんの生涯を文章にして著して欲しい」と依頼する倫子ともこさん。
 なぜ、そういうことを思いついたのか、言い出したのか。
 その「動機」はなんだったのか。

 定子さんを美しく活写して、彼女の名誉回復を果たしたとも言える「枕草子」。
 一条帝の関心を引き、彰子さんを成長させ、多くの人の心にも染み込んでいった「源氏物語」。

 源氏のモデル(の一人)は道長さんであるということは当時にも言われていたかもしれませんが、倫子さんとしてはそれでは飽き足らず、彼をしっかりとした主人公にして、書き表したものに残したいと思った——その理由、目的、きっかけ。
 それらはどこにあったのか。

 道長さんの業績は、倫子さんの業績でもあります。
 それをみたいと思ったのか。

 それとも、まあ正直言って多くの人に「好かれている」とは言えない道長さんのイメージを、良きものに変えて後世に伝えたいと思ったのか。
 単に「道長ファン」の一人として、「道長写真集」を望むファンのような気持ちで、記録を望んだのか。

 どのあたりに倫子さんの想い、あるいは思惑があるのか。

 また、最初に話を持ち込んだのがまひろちゃんにだった、というあたりがそのへんの謎を深めています。
 
 それにしても、道長さんの業績を華々しく描く、と決めるや、彼のルーツから書き起こす赤染衛門さん。
 ご夫君が学者である影響もあるかもしれませんが、この生真面目さがもうなんとも言えない、と微笑ましくなりました。

「そういうことは求めてないんだけどなあ」と思いつつも、衛門さんの情熱を前にして、
「もう、衛門の好きにしてよいわ」
 とあきらめたように、でも仕方ないか、まあいいかと受け入れる倫子さんの鷹揚おうようさが光りました。

 ほんと、いい意味での「お姫様」なんですよねえ倫子さん。
 生まれ育ちの良さを、いい意味で持っている。悠揚ゆうよう迫らぬ、とはまさにこのこと。
 器量の大きさとも申せましょうね。これは生まれ育ちではなくその人の性質です。

 そんな倫子さんの戸惑い顔もものともせず、
「仮名文字で書く史書はまだ、この世にはございませぬ」
 という衛門さんの言葉に、気概を感じました。

 たしかに、当時の価値観で言えば「物語」よりは「史書」のほうが重きを置かれるので、そういう意味でも、赤染衛門さんの
「枕草子、源氏物語、何するものぞ」
 という気合いが見える気が致します。
 がんばれ衛門さん。

 ………だけど現代では、栄花物語は史書というより「歴史読み物」という、ちょっとフィクション寄りのものとして読まれている、というのは、衛門さんには内緒にしたほうが良さそうです。


◾️フラグ


 ドラマも終盤であるということで、それぞれの登場人物の「おしまい」が意識されるパートです。
 ゆえに、前回、予告編の中にちらっと映った
「女性用の紅を買い求め、そっと微笑む乙丸」
 の姿に、まさか乙丸にフラグが?! と、視聴者一同、一瞬で、言いようのない不安に突き落とされておりましたんですが。

 蓋を開けてみたら、「フラグが立っていたのは周明だったのか」ということで、一同ますます混乱して、今回は幕となりました。

 せっかくまひろちゃんと再会、和解し、人生のある程度を片付けてきて、ある意味身軽になっている熟年の男女として「出会い直し」た周明が、まーさーか、そんないきなりフラグを立てられるとは思わないじゃん?! 脚本、鬼か?! と思った人も多数と思われます。

 エックスの方では今日になってもまだ、「周明の生存ルートを考える会」というハッシュタグがトレンドに上がっております。
 なんだかなあもう。
 たぶんみんな「無理っぽい……」と思いながらも、周明の生存を祈ってこの1週間を過ごしているのだと思うと、切ない。

 いかなドラマ終盤とはいえ、無理に登場人物を殺すことはないデショと思いますよわたしも。

 それはそれとして。

 周明とまひろちゃんの会話を聞いていて、ああなるほど、そうなるのか、と思ったのは、「わたしはもう終わってしまった」というまひろちゃんに周明さんが言った言葉。

「だったら、やってきたことを書き残すのはどうだ」

 何か物語を書くとかではなく。
 これまでの自分の足跡を拾って記す。それをしているうちにまた、書くことが見つかるかもしれない。と。

 物語ではないにしろ、これが「紫式部集」になるのかな、と思いました。
 これは式部さんの和歌集、私家集ですね。
 しかも自選。
 わたしは未読ですが、式部さんの心情や心理を見るのには、貴重な史料となっているようです。

 紫式部日記も今のところ直接は登場してませんねえそういえば。
 これは、同じく宮仕えにでた賢子ちゃんのために、宮中行事などを伝える目的があったとも聞きます。

 道長さんはまひろちゃんに、源氏物語を書くことを与え。
 周明さんは、まひろちゃんに「自分のことを記す」きっかけを与えた——という配置になるのでしょうか。

 これはこれでなかなか。

 道長さんとはソウルメイトの、切ってもきれない繋がりがあるけれど。

 周明さんは、ソウルメイトではないにしろ、その関係の中で傷つき切ったまひろちゃんに寄り添ってくれる、そんな人なのかもしれませんね。

 いずれにしても。
 周明さん生存を強く祈りながら、本日はここまで。

 お付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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みずはら
筆で身を立てることを遠い目標にして蝸牛🐌よりもゆっくりですが、当社比で頑張っております☺️