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(10) お酒

 考えてみると、アルコールでいい思いをした経験が一度もない。例えば、いい感じになっていた子と飲んだ時、彼女の泣き上戸が祟ってメイクが崩れ、怪物のような容態を見てしまい一気に冷めた。飲みすぎた女の子を戸山公園で介抱していたら腕に吐かれたこともある。巷では面白おかしくゲロチューなんて歌っている歌があるけれど、戻し気味の子にキスされて、こっちが吐き出しそうになったこともある。よく考えるとアルコールの入った女の子との間にいい思い出がないだけだと気がついた。思い出すだけで頭が痛い。

 他者を批判してばかりだと畢竟なので次は僕の番。僕は飲むとちょっと面倒臭いタイプで、饒舌になって色々話してしまう。飲み会であれよあれよと話すから、次の日には「え?なんで知ってるんすか」みたいな自分の黒歴史に遭遇することもある。黙っていようとするのだけれど楽しくなると話し始めてしまうのだ。思うに、苦もなく数千文字のnoteを書いている人は僕と同じタイプなのではないだろうか。普段は表層には決して出さないけれど言語化された思考があって、ふとしたきっかけにそれが漏れ出す。僕の場合はお酒がトリガーっぽいけれど、そういう人って少なくないと思う。

 ただし、コミュニケーションを酒の力に頼ってばかりだと碌なことにはならないだろうと思う。ぼっちざろっくのきくりなんてその最たる例である。シラフだと人との距離感が掴めないから、酩酊状態に甘えている。あれはやりすぎにせよ、お酒を飲んで理性を鈍化させることでしか出てこない言葉なんて本当は出さないほうがいいのだろうと思う。それか勇気を出して出すかのどちらかだ。痛烈な自己批判になってきたので切り上げよう。

 そういえば、トルコにはRakiというお酒がある。葡萄の蒸留酒であり、普段は無色透明なのだが、お水で割ると白くなることからライオンのミルクと呼ばれている。香りはRaki独特のエスニックなもので、味はほんのり甘い。蒸留酒なので度数はそれなりに高いが、水割りをするので9°前後で楽しめる。トルコ人は食事の際にRakiを一緒に飲むことがあるのだが、日本の下品な飲み会のようにガブガブいく感じではなくゆっくり飲むという文化がある。一応断っておくと、イスラーム圏ながらトルコにはクラブがあるし、散々飲む宴会も普通にあるし、若者の酒の飲み方なんてどこでも変わらないので「トルコではみんなゆっくり飲む」と言ったら大きな語弊がある。しかしRakiに関しては、そのクラシックなスタイルが現在もある程度残っている。僕はこれこそ望ましいアルコールとの付き合い方だなぁとぼんやり思ったのだった。


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