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世間は騒がしかった。補聴器初体験

私は2023年11月17日から補聴器を付けている。
まだ軽度の難聴というレベルだが、まわりの人に、補聴器を付け始めたよ、と言い回っている。

その理由は、数年前に聴覚に関するお仕事をさせてもらった経験からである。

(※以下、これを読んでいるみなさんには、私以上に健康上の大きな不便を感じている方々もいらっしゃるので、これを書くのは心苦しい部分もあった。それでも、どなたかの何らかの気づきになれば、という気持ちで書くことにした)

メガネと違って陰の存在

たとえば、眼が悪かったらメガネをかけるのは、別に恥ずかしいことだとは思わないだろう。
あ、あの人、メガネかけてる!と指さされたりはしない。
眼が悪くなくても、おしゃれメガネをかけたりもする。
そして、生活のなかで、見えにくいと思ったら躊躇なく眼医者さんに行くだろう。

ところが人は、聴こえにくいことは我慢してしまう傾向がある。
とりわけ、補聴器、難聴と言うと、なんとなく抵抗感がある。
「おじいちゃん、耳が遠いんじゃない?病院行ったら?」と言われても、「大丈夫だよ」と返すだろう。

私が長年悩んでいたこととして、英語力が不足しているので、英語の会議に出るのがつらい。
1対1なら「今なんて言ったの?」と聞き返すことはできるが、多人数の会議で、自分だけが英語についていけない場合、みんなの会話を遮ってまで聞き返すことはしない。
私は、今でこそ少しはマシになったが、相手の言うことがちゃんと聞けてないのに、わかったような顔をして流してしまうことが多かった。

これを例にとると、まずは聴覚の場合、聴こえないなら聴こえないなりに脳が補正してしまうようで、聴こえなくなっていること自体に気づきにくい。私も人間ドックで初めて指摘されたときは、まさか、測定器がおかしいんじゃないの?と思ったのだ。
そして、実際に聴こえにくいとの自覚症状があったとしても、上で言った英語の会議のように、その場で聞き返せない、聞くのが躊躇される場面に頻繁に出くわす。

そして、眼科やメガネショップと違って、耳鼻科や補聴器を購入可能な場所は、縁遠い存在だ。
さらに驚くのが、テレビショッピングで売っている「集音器」という、補聴器を名乗れない機種を除くと、正規の補聴器はとても高い(私はまだ購入前で、試用させてもらっているのだが、その機種は両耳でおそらく50万円以上)。
そして、メガネのようなブランディングが成立していないので、付けてたらおしゃれ、という商品には全くなっていない。

このような理由から、補聴器を付ければ生活レベルが上がるのに付けてない人が実に多い。

もうひとつ大事なのは、補聴器を付けると、いままで聴こえていなかった音がいきなり聴こえ出すので、うるさくて、せっかく高いお金を出して購入しても、わずらわしくて付けなくなる人もいるのだ。

体験してみて

さて、この4週間、補聴器を付けてみて、どうだったか。
いま私の付けているのは、写真の耳掛け式で、イヤホン部分は耳穴の中にすっぽり入ってしまう、真横からみると比較的気づかないタイプ。

1)マスクやメガネとの親和性が悪い。

耳掛けということは、メガネは補聴器の上からかけることになる。さらにその上からマスクをするのはわずらわしいし、マスクを外すときに補聴器が落ちてしまう。この面倒くささが、やめてしまう人がいる一つの要因かも。

2)うるさい。疲れる。

これまで夜中にスマホをいじっていると、「早く寝なよ」と眼を覚ました家族に言われたことが何度もあったが、付けてみてその理由に気づく。
スマホ画面に自分の爪が当たる音が聴こえるようになった。
それと、うちの風呂場の換気扇が何かと干渉してキーキー言う音。それも聴こえてなかった。
それ以外にも、音がたくさん聴こえる。
世間はこんなにも騒がしかったのか。
映画やドラマで、ドアノブを開ける音や、足音を実際より大きくデフォルメして整音しているが、まさにそんな感じで、あらゆる生活音が際立って聴こえる。
聴こえているうちは、この環境でも脳が慣れていたので大丈夫だったんだろう。
これが、補聴器を途中で止めてしまう人がいる、最大の理由かも知れない。
今は、人と会話をする必要のある仕事場とか、テレビのドラマを観ているときは、とても重宝するが、夜になって、耳からこの機器を外した瞬間に、世間が静かになるとホッとする。

3)高い。無くすリスクとの背中合わせ。

いま私は、お試しで付けている(ちゃんとした調整が必要なため。これ重要)が、いざ購入したら両耳で50万円だとすると、こりゃ無くしたら大変だ。
だんだん慣れてくれば、付けていることが意識から消えるだろう。
結婚指輪というものを付け始めたときは怖かったが、それと同じリスクを抱えるのが、ちょっとキツイ。

4)まだまだ賢くない。

数年前、私が聴覚のプロジェクトのお仕事をいただいていたときは、補聴器は要するにマイクとイコライザとアンプとスピーカだった。今でも基本はそうだが、スマホと連動して、その人の聴こえ方や不快感をサーバに上げて学習させるような技術は、発展途上。
私の試している機種も、ある程度のAI的な要素は搭載されているようだが、余計に聴こえ過ぎるシーンでは静かめに、周囲がうるさいときに目の前にいる人とだけ会話したいときはノイズのみを除去する、などの賢さがほしい。

5)私が関わってきた音楽との関係。 

バンド活動や音楽の仕事で爆音を聴いてきたのが、私の難聴の原因かどうかは不明だ。
ただ、ドラマーの人は要注意かも知れない。
何せ、ただでさえ爆音を自分から発しているのに、最近の音楽はコンピュータと同期している場合が多々あり、ドラマーのお仕事は、ヘッドフォンで、自分が叩く音に負けない音量のクリック(メトロノーム)の音を聴きながら演奏をする必要がある。
野球の投手が投げすぎて肩や肘を壊すことはよく聞くでしょう。音楽のプロの方々も、自分の商売道具である耳をいたわることをお勧めする。
そして、私がかつて勤務したソニーとソニーミュージックは、人に何かを聴かせることを商売にしているけれど、そろそろ聴く生活を快適にするような商品に踏み出してもいいんじゃないか、とも思う。発言者の声で外国語の同時通訳をしてくれる補聴器とか、隣で飲んでるオヤジたちの自慢話とグチをミュートしてくれる補聴器とかね。

最後に

いずれにしても、私の耳はハイが落ちている。
どんな音楽も、笠置シヅ子のレコードのように、真空管ラジオから流れてくるルイ•アームストロングのように、たぶん聴こえているのだけど、音楽の感動は変わらないだろう(と思う)。
来年5月にニューオリンズで観る予定のローリング・ストーンズのライヴは、補聴器は外して聴こう。

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山田勲
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