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キレイなの、私

手術台の上に寝かされ、いろいろな人がいろいろな管を繋いでゆく。

これから自発呼吸もできなくなる私の命は、この手術室に並ぶ機械に委ねられる。

自分が自分でないものにされてゆく感。

ショッカーに改造される仮面ライダーもこんな気分だったのだろうか。

「では、麻酔入れますので、横向いて背中丸めて、ネコのようになってくださいね」
麻酔科の青い目をしたお医者様が、流暢な日本語で話しかけてくれる。


入院初日。
手術で行う麻酔の説明をしに個室に来てくれたのは、白い肌に青い目をしたThe外国人、のお医者様。

すごいなぁ
お医者さんになるだけでめちゃめちゃすごいのに、それを外国語でしちゃうんだもんなぁ。
「外国語が出来る」というのはスキルじゃなくて、外国語を使って何をするか、というのが本当のスキルなんだなぁ。

今回、「硬膜外麻酔」という、手術が終わって麻酔が冷めた後に傷が傷んだ時に使う麻酔を脊髄のすぐ近くにいれてくれるそうだ。
背中から脊髄の近くに管通すとかちょっと怖いけど、痛みには替えられない。



青い目のお医者様に言われる通り、横向きになってネコになる。

にゃーん

針刺されるの痛かったら嫌だなぁと思っていたら、針じゃなくて鍼だった。
鍼灸院で鍼されるのと同じ感覚が背中に1回走っただけだった。
「はい、オッケーです」
みたいな感じで管が通った。

ネコ開放、にゃーん

なんていうのか名称分からないけど、手術される患者さんが口にするプラスチックのあのマスク。
なんていうんだろう、これで酸素送ってますよ、みたいなあのマスク。
あれを付けられている。
でもその下には不織布マスク。
まだコロナの影響がうっすらと残っていた当時、院内ではマスク必須だった。

マスク on マスク

いや、マスク in マスク、か?
英語難しい。

青い目のお医者様が私の顔に手をかけて不織布マスクを外してくれる。

両方のマスクを外して素顔を表した私。
何もつけてない私の顔。
青い目のお医者様の顔が、鼻先5センチまで近づいてきた
完全にキスされる距離だ、これ

「キレイですねーーーーー!!」


えっ?えっ?
5センチで顔を見つめられて、そんな落とし文句言われたら落ちちゃうぞ。
脳が軽くパニックを起こした。

3秒くらいしてようやくコトを理解した。

全身麻酔を受けるときは口ヒゲがある人は剃っておかないといけない、と事前に注意を受けていた。
髭があるとマスクと口の間に隙間ができるから。
きっと、このことだ。

私は元々ヒゲは蓄えていない。
いないどころか、VIO含めて全身脱毛してるおっさんなのでヒゲどころかムダ毛がない。
ツルツルのチュルチュルである。

やったぁ、褒められた。
なぜか単純に嬉しかった。

「あぁ、脱毛してますんでー」
ちょっと照れながら誇らしげに答えた。

「うふふ、イマドキねぇ」
妙齢の女性看護師さんが笑ってくれた。

そう。
アラフィフだけど私はイマドキなのである。

それが私の手術前最後の記憶。


次の瞬間、手術は終わっていた。


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