Vol.1『No name』人生万景

 古い建物だから、もあるけど事務所の窓は昭和チックな磨りガラスになっている。おばあちゃんちにあるような窓。外の様子が見えない。磨りガラス特有なのかはわからないけど、色が散乱してすごく綺麗に見える。

 晴れている日は磨りガラスから鳥の声が聴こえてくる。
雨の日だと鳥は黙っているけど、電車の音は聴こえる。時々電車が怒っているときがある。東京だからしょうがない。

 早朝の磨りガラスは変化する絵画みたい。次に目を向けると違う色になっている。
一番好きかどうかはわからないけど、赤と青が窓の中で半分ずつになるときが大好き。
赤と青、って書いたけど、本当はちゃんとした色の名前があるんだと思うけど。緑の中でもサラダグリーンなんてお洒落な名前の色があるように。

 そういえば最近、新しい青色が200年ぶりに産まれたらしい。たしか名前はインミンブルーだったと思う。偶然の産物らしい。

 まだない色があるように、まだない名前は山ほどある。

 もうある色があるように、もうある名前は山ほどあるけど。

 どっちの山が大きいんだろう。

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 もうある名前だらけのものに囲まれながら、まだ名前のない今日を、今日も生きる。

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