錆色の実
錆色の実①
指先で摘むくらいの
小さな粒の実
皮は薄く
少しの力で弾けてしまう
錆色の実
数粒の実を
手の中で潰し実の液を
君の額には人に非ず印を
目元には光と闇の印を
両手には獣の印を
指先で描き入れる
血生臭い者達に狙われぬ様に
鬼共の湧き出る時期を
やり過ごせる様に施す
錆色の実②
雪色の街は
静けさと冷たさに包まれ
雪が全てを白く染める
自分の存在も
掻き消されるのかな
空から降る雪を見て
街の通りに舞う雪の中に
鬼が居る…
鬼が視える力が有る者は
鬼に喰われてしまう
錆色の印が有っても
万全では無いのだから…
錆色の実③
不注意だった!
無意識に
錆色の印を
拭い消してしまった
遠目に見ていた鬼にも
自分の存在に
気付かれ此方に来る
腕を捥れそうな強さで掴まれ
激痛が走る
鬼の爪が腕に食い込み
血が流れ出
雪の上に血が落ちる
鬼は言う
「喰われて力になれよ」 と
赤眼の鬼が言う
錆色の実④
青褪めた君の表情と
君の血で染まる雪
君の腕を絞る程に握りしめた
鬼の手を見て
衝動的に
鬼の腕を斬り落とした
劈く様な耳障りな
鬼の叫び声に
不快感は更に増し
もう一太刀
斬り付け様と構えた所で
鬼は慌てて
落ちた腕を素早く拾い
姿を消した
錆色の実⑤
血を使わず
錆色の実で施した印は
仮の印
拭えば消える程の簡素な物
血を使う印は
私の印が
皮膚に焼き付く様に付いてしまう
ずっと消えぬ焼印の様に
鬼から見を守る為と言えば
施す気になるかなと
私は君の前髪を分け
指先で額に触れ
「本物の印を付けようか?」と
君に問う