秋の精霊
秋の精霊は
枯れ葉を敷き詰めた森の中で
あやかし達を招いて遊ぶ。
あやかし達は
「精霊さま
今日は何して遊ぶの?」
と聞き秋の精霊は
「木の実は玩具になる
教えてあげよう」
と言うと、あやかし達は
嬉しそうに
「どんな玩具?教えて!教えて!」
と騒ぎ出す。
あやかし達と遊んでいると
頬に冷たい風が吹く。
風は北風。
冬将軍の牽制か?
遠い北の地から
『いつまで、居座る気だ!』
と威嚇してきたみたいだ。
秋の精霊は
「まだまだ、ゆっくりと
していたいのになぁ」
と上を見上げてボヤく。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
秋の精霊は
木々にとまる鳥達が目に入り
「飛ばないの?」
と声を掛ける。鳥達は口々に
「飛びたいに決まってる!」
「最近は曇り空ばかり!」
「小雨も多いよ」
「日が沈むのが早くて
直ぐに飛べなくなる!」
と、お喋りな
鳥達に捲し立てられて驚いた。
お喋りな鳥の声。
秋の精霊はそれを聞いて
秋の妖精達と一緒に
「本日は小春日和だ!」
と穏やかで暖かな風を起こし
落ち葉をフワリと巻き上げ
空の曇を払った。
鳥達は喜んで空を舞う。
妖精達は木々の間をすり抜け
森中を駆け回る。
冬になる前の
一時の暖かな1日。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
秋は実りの季節。
森の中で甘い果実を
あやかし達と
妖精達が
一緒に楽しそうに食べる。
其の様子を見ていた精霊は
「皆、美味しそうに
食べるねぇ。
お腹一杯食べたら
此の、ほっぺたも
もっとプクプクするのかな?」
と言いながら精霊は
あやかしの頬を突っついた。
頬を突っつかれた
あやかしは青い顔しながら
「もう、食べ無いから
プクプクにはなら無いよ!
精霊さま!」
と慌てて言うと
まだ食べ掛けた甘い果実を
口の中に詰め込み
立ち上がる。
精霊は食べていた皆に
「もう、食べ無いのかい?」
と可笑しそうに問い掛ける。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
秋の精霊は
甘い果実を手に取り
一口食べてみてから
「こんなに甘くて
美味しいから
皆も、きっと
甘くて美味しいよね?
それとも、
もっと実を付け
熟するのを待った方が
良いのかな?」
と、ふふふっと
楽し気に秋の精霊は笑う。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
陽が沈み
騒ぎ出す、あやかし達。
「夜がくる前に!」
「精霊さま、またね!」と
此の森から
慌てて出て行く。
森の妖精も身を潜め
動物達は気配を隠す。
暗く静かな
枯れ葉を
敷き詰めた森の中で
突如、響く唸り声。
暗い森の中に
禍々しい化物が現れる。
木々の枝に
月光が遮られ
化物の姿は、
よく見えない。
ただ、
禍々しさの存在が
舌なめずりしながら
其処に有る。
収穫できる
美味しい者を求め
闇夜を歩く
悪食の化物。