さっきの雑記 3(オモイツキ備忘録)
【今回のテーマ】
AI美空ひばりにみる未来
2019年の大晦日、NHK紅白歌合戦の目玉のひとつが「AIによる歌姫美空ひばりの復活」だった。
結果から先に言うと、これまでの音声合成ソフトなどとはちがい、この日のために用意された「新曲」を、生前の抑揚も見事に再現しながら歌ってみせたと思う。
ただ、個人的にはそこに「感動」はなかった。
わざわざ「AI」と言ったからには、過去の美空ひばりの音声データを元に、単にメロディの譜割りにあった音声を拾い上げて当てはめた訳ではないんだろうと思わせるなめらかな歌声に、ボカロ技術の進歩を感じさせられた。
でも、それだけだった。
少なくとも僕には、そこに美空ひばりを感じることはできなかった。
しかし、CGで再現されたホログラム映像を見ながらその歌声を聞き、涙した往年のファンも多くいたと聞いている。
そこに僕はむしろ、ひとつのやっかいな未来を思い描かされた。
「オレオレ詐欺」という犯罪がある。
今後、このような技術をだれもが気軽に使えるようになったら、この手の詐欺はますます容易になるだろう。
どこかである程度、本人の音声情報を入手することができれば、あとはAIに学習させて、本人に「なりすます」こともできるようになるのではないか。
後からふと、そんなことを思ったりもした。
その流れで思い出したのが、今クールにノイタミナ枠で放送されているアニメ「PSYCHO-PASS3」に登場する「小宮カリナ」の予見性だ。
ある博士が極秘裏に発明していた「人の心を惹きつける抑揚を完璧に再現するAI」を利用し、小宮カリナという元アイドル歌手が「本人にそっくりなホログラム」を使って選挙活動を行う。
その目論見は見事に成功し、選挙戦を有利に進めていくのだが…ここから先は、興味のある人はご自身でご覧になってほしい。
とにかく、このような未来が、思いの外すぐ近くまで来ているのを「AI美空ひばり」は物語っているようにも思えた。
しかし、それは単なるそれ僕の誇大妄想に過ぎない。それほど心配はいらないかもしれない。何より、心配したところで何ができるというわけでもない。
僕がAIとホログラムで復活した美空ひばりを見ていて、最も強く感じたのは
「AI美空ひばりに人が感動するとき、果たして人は生き続ける意味があるのか」
ということだった。
石黒浩という工学博士がいる。
自分にそっくりなアンドロイドを作り、遠隔操作で日本はもとより、世界中で講演をしたり、最近ではジェミノイドと名付けられたアンドロイド「ERIKA」を生み出し、常に人間と機械の間にあるものを問い続けている。
彼はあるドキュメンタリー番組の講義で「1,000年後の人間は無機生命体になっているかもしれない」と語ったことがある。
AI美空ひばりに実体はない…つまり、そこには有機体である「人体」はない。
そうして立ち現れた「何か」が、実在した人物を模して人を感動させたとき、失われたはずの「命」は、一体何を意味するのだろう。
今はまだ、AI美空ひばりの登場は、驚きや違和感や、嫌悪や感動をそれぞれが持っただけの、いっときのイベントに過ぎなかったかもしれないけれど、いずれ近い未来に僕たちはきっと、こういった問題に真正面から向き合わなければならないときがくるだろうと、改めて感じた年の瀬でありました。