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中世からやり直しの21世紀

チ。- 地球の運動について」が良いですねー。ほぼ会話劇で派手なアクションも殆ど無いのに、グイグイ引き込まれます。漫画もアツかったけど、声や演出入るとまたすげーな。このスクリプトの美しさよ。僕は魚豊さんの他の作品はクド過ぎて無理だったんですが、「チ。」はちょっと神がかってるというか、軽く奇跡起きちゃってる感じします。テーマがテーマだけに、海外勢の反応も面白いです。

科学登場以前、人類が今よりもっと無知だった15世紀。大衆の多くは文字すら読めない教育水準でした。そんな中世社会の運営OSとしての教会権威とデマゴーグ。反知性的な衆愚政治。それでも賢い人たちは自ら学習し、真理を求めて前進し続ける。活版印刷とかの最新テクノロジーも飲み込みつつ、知性を次世代へと託し受け継いでいく。

いやー痺れるわ〜とか浸ってた矢先に、それとは真逆の絶望的現実に引き戻されるニュース、トランプ圧勝で復活。漫画より狂った展開しちゃってんじゃん。て事で、こないだシビルウォーについて書いたばっかりだけど、その後また色々思った事を書いてみます。


ライズ&フォール

歴史を見れば、世界の主要国はどこかのタイミングで時代の風を掴み、超絶ライジング→凋落を経験しています。紀元前の中東や南アジアの原初文明に始まり、ヨーロッパや中央アジアにおける群雄割拠と栄枯盛衰、人類は大昔からずっとグローバルなのです(日本はだいぶガラパゴってたけど)。凋落といっても、ライジング経験国はその高さを生かして、その後も滑空で緩やかに生き延びていきます。

僕が住むイギリスも、パッとしない辺境国から18世紀の産業革命でライジング、欧州強豪各国をブチ抜いて、世界帝国を築き上げた国です。そんなボーナスタイムも20世紀で終了。サッチャー政権下で構造改革を迫られ、資源や金融などの産業にシフト。完全にオワコン化した炭鉱夫や鉄鋼業従事者は、イギリスにおけるラストベルト的存在になりました。この頃の超不況時代には色んなドラマが生まれていて、たくさんの作品になっています。どれも哀愁あって良い。

20世紀日本で言えば、戦後の製造業で2度目のグローバルライジング、からのバブル崩壊で凋落、小泉改革で氷河期世代爆誕、失われた30年、みたいな感じでしょうか。それに続いた韓国中国ライジングも、あっという間にボーナス終了な気配で寝そべり族出現、現在の上昇気流は東南アジアやインド等グローバルサウスに移行しつつあります。

アメリカライジング史

そしてトランプ返り咲きのアメリカ。18世紀末に生まれた新興人工移民国家アメリカは、圧倒的多様性と合理思考で19世紀に超絶ライジングを果たし世界最強国に躍り出ました。フロンティアスピリット!ゴールドラッシュ!アメリカンドリーム!とか言いながら、イケイケで製造からITへのシフトで世界を席巻します。

しかしその実は「10%のエリートと90%の超絶バカ」という内訳。最上位1%のIT金融長者たちが全ての富を吸い上げるその裏で、取り残されるラストベルトのような存在を各地に生み出し、格差をどんどん広げていきます。世界地図で日本を指せない教養水準の底辺層の国民は、フラットアースのディープステートがインセルでエヴァンジェリストなトランピスト。

ヴァンス次期副大統領(たぶんトランプすぐ死ぬので実質次期大統領)が書いた回顧録「ヒルビリー・エレジー」とか見るとなかなかの悲惨さです。個人主義、自己責任、弱者切り捨てのアメリカは、イギリス炭鉱夫や氷河期に負けず劣らずのお手上げ感。脱出不能の負のスパイラルの中、そら絶望死もするわ。(ただ、ゆうてもヤク中の毒親がアレなだけで、僕の子供の頃より全然いい暮らししてるようにも見えるけど。)ヴァンスなんてイェール法学科出てベンチャーキャピタルとか、シリコンバレーの大勝ち組っすよ。おまけにベストセラー作家&テレビタレントを経てトランプ狂信者に転向とか、一体そこで何を見たのか。今や大統領最有力候補にまで上り詰めた大サクセスストーリー。こういう逸材を一本釣りでぶち込んでくるトランプ&ドン・ジュニアのイメージ戦略マジ天才的。

ジャパンバッシングの頃から今も尚ずっと放置されっぱなしの白人弱者男性とその2世3世たち、しかし残念ながらオワコン化したものは救えないし、消えゆくのみってのは歴史が証明しちゃってます。炭鉱夫も、ジャパンアズナンバーワンも、トランプだろうが誰が何をしようが戻って来ない。産業も国家も政党も、なんというか、盛者必衰ってやつですねえ。ガチャ外しちゃった人たちは、ヴァンスみたいに従軍したり頑張って勉強するしか、スパイラル脱出法は無い。世界ってのはアンフェアで残酷です。

「俺は俺のやりたいようにやる、何人も口を出すな」という自己責任の自由を最重視して、小さい政府をうたってきた自由の国アメリカ。リベラルは個人とビジネスの自由を掲げ、取り残される人たちの自由を無視します。保守は労働者の自由を掲げ、個人の自由を制限します。でもどちらにせよ、自己責任で自活できない弱者は、振り回された挙句結局やっぱりお上に頼るしかなくなります。そもそも個人でどうにでも生きられるような強者には、国家とか政府とか不要な訳で、本来それらは大多数である弱者たちの生存戦略として必要なものって事です。

GDPだけ見れば今も世界最強に見えるアメリカですが、それらは多大な犠牲の上に立っている虚像で、内情は中国と大差無い、というかそっくりの超格差社会。トランプ現象ってのは、アメリカの裏の部分がついに表に噴出し始めたって事です(中国でもいずれ起こるかも)。

リベラルの盲点

いつの世も、世界を前に進めてきたのは賢い人たちの論理です。でもだからって賢くない大衆を蔑ろにしたら、その社会は土台から崩れます。資本主義をとことんハックしたビッグテックが、国家予算を越える儲けを上げようが、自国民が貧すれば共倒れです。故に「天才はバカに奉仕するために存在する」のが真であり、能力主義の格差容認・弱者切捨の自由は自滅行為になる訳です。金儲けではしゃいでる内は同じ穴の狢、本当に賢いなら、ちゃんとそこまで計算して動けって話です。イーロンはそこに気づいたのか。

そんな賢いインテリ・エリートたちは、人種ガー、女性ガー、LGBTガー、移民ガー、福音派ガー、伝統マッチョガーと、トランプ再選の背景にあるイデオロギーを色々検証する訳ですが、そういう賢い考え方がまさに盲目メリトクラシーってやつだと思います。真相は極めて単純。

アメリカは貧しくなった。これが全てなんじゃないでしょうか。

東西海岸でリベラルが大儲けして、社会が好景気で潤っている間は、イデオロギーとか興味無いしどうでもいいのが大衆ってもんです。余裕がある時には寛容にもなれる。反対に、余裕が無くなれば不寛容になってスケープゴートを探し始めます。貧すれば鈍する。自分の生存が脅かされれば、恥も外聞も捨てて生き延びようとするのが生命の性です。保身のためならトイレ紙だって買い占める(但し、災害等で大崩壊しちゃった後はみんな協力的になる模様)。第一次トランプ政権は、ラストベルトの悲痛な叫びでした。今回の返り咲きは、貧困が東西海岸にも到達しつつあるって事です。10年前は勝ち組だったはずのミドルクラスも底辺に転落開始。だからリベラルもヒスパニックも黒人もLGBTも、生き延びるためにトランピストに転向しました。イデオロギーなんて、後付けの言い訳程度のもんです。

で、じゃあトランプ第一期を振り返って、なんかいっこでも目ぼしい功績を思い出せる人がいるでしょうか。プーやらキムに会ったよ!みたいな得意の栄えパフォーマンスで威勢よくフカシまくってた割には、実政策は殆ど掌返しで現実路線に収まり、グレートどころか各案件を一歩後退させただけ。ラストベルトも改善ゼロ。更にそこへコロナショックで完全崩壊、負債を上乗せ丸投げで政権下ろされた(そして議事堂占拠)訳ですが、そういう顛末も全部すっかり忘れて、また全く同じ口車に乗せられる大衆。だいぶ切羽詰まっちゃってますね。

別にバイデン政権が有能だったとも思わないし、ハリスはハッキリ無能でした。でもパンデミック後始末からの世界恐慌や他国の戦争突入など、世界情勢や時勢タイミングとの合致は、民主党の政策云々の範疇を超えます(日本で民主党の時に311起きちゃった不運感)。誰政権だったとしてもババを引いたはずなので、気の毒っちゃ気の毒。そうこうしてる間に国民の貧困化は進行し、実情と乖離したリベラルの勝ち組理論にみんなついていけなくなっていきます。

一方、トランプのスケープゴート作戦は10年前から変わりませんが、それを懲りずに今までずっと打ち続け、裁判も暗殺未遂も掻い潜って、もう一度到来したその機を掴むとか、やっぱトランプ常人じゃないです。継続は力(混乱)。そこにすかさず迎合するイーロンマスクの嗅覚もやっぱすげー。こいつら絶対「国民のため」とか1ミリも考えてない我欲の権化たち。さすが時代の潮流から生まれる特異点アイコンです。そして不満恐怖を煽る大衆煽動が依然超有効だという事実に、人類の進歩の無さを再確認する訳ですが、やっぱり生存本能に抗うなんて人間には無理な超人技か。

民主主義、資本主義、移民と自由の筆頭国として世界の頂点に君臨したアメリカ。それが今や資本主義が生み出す格差によって、移民も自由も排斥し、あげく民主主義まで壊しそうな勢い。もうガタガタじゃないかアメリカ。初心どこいった。果たしてこれはアメリカのライジング終了、ボーナスタイム終わりの始まりって事なのか

今のところトランプの施策で何かが改善しそうな気配は全く無いんですが、まあ第一次もそれなりにやってたし、お爺ちゃんの不快なパフォーマンスだけ無視しておけば、裏で若いブレイン達が良い仕事してくれるかもしれません。MAGAできるもんならやってみてほしい。追加ライジング見せてくれ。

ちなみに日本だって他人事じゃありませんよ。ずっとアメリカを追っかけてきて、資本主義頑張って、一極集中で格差もしっかり開いて、ついでに少子高齢化で地方衰退、貧困化による不寛容と右傾化も進み、自民下ろしムードも高まってます。この摩擦圧が、南海トラフとかをきっかけに弾けちゃうかもしれない状況。そこにトランプみたいな過激なアイコンが登場してもおかしくない。なかなかのお先真っ暗感。資本主義ってマジ怖いわー

中世からやり直し

無知無能な大衆、村人AとかBが好き勝手言ってた時代。そういう連中が散々やらかした結果、これじゃ埒が開かんって事で、人類は議会とか政府とか発明して、賢い代表者を選ぶシステムとかを築き上げてきました。しかしSNSの浸透で、声のでかい村人Aの全世界発信が可能になり、村人Bが洗脳され、それらを煽動するデマゴーグが登場し、知性的な人々は追いやられる。まさに「チ。」でやってるやつやん!という訳で、人類は中世以前・振り出しに戻りました。21世紀にしてまさかの超展開。ここにきて5世紀分ロールバックとか、こんな無理ゲー心折れるわ。

じゃあどうするのか。経済格差は教育格差であり知能格差でもあります。天才がバカへの奉仕を放棄するなら、どうにかしてバカな大衆の知能を上げるしかありません。歴史上それに成功した国家はありませんが、それでも教育水準は中世よりはいくらかマシになってはいます。それを更に底上げして一人でも多くの国民を掬い上げる。しかもそれには「生存が脅かされない環境」が大前提。じゃなきゃ大衆はすぐパニック起こしちゃう。それを成し遂げるのが賢い人たちの使命であり、リベラルが復活する方法です。


個人的には、停滞の中で変化や波が起きる事は好きだし、今後の展開が読めない方が、読め読めの予定調和よりは面白いので、また妄想が色々捗ります。なんだかんだ、最後のカギを握るのはAGIなのかもって気もしたり。BIで生存を保証し、僕たちバカな大衆を教育して知能を底上げし、資本主義の暴走を制御して格差を是正し、地政シミュレーションとかで戦争を解決し、環境やらエネルギーやらも色々いい感じに調整してくれる。もしくは逆に全てを破壊して旧石器時代までロールバックか。


とにもかくにも。さあトランプ爺さん最後の4年が始まりますよー。ウクライナ、ロシア、中国、イスラエル、イラン、AI、EV、クリプト、SP500。中世からやり直しの2025年、世界は一体どうなっていくのか、乞うご期待!



xxx



追記:
1997年イギリス鉄鋼夫映画の「フルモンティ」、その後もミュージカル化してロングランしてましたが、2023年にオリジナルキャストで続編が作られました。映画の更に25年後を描く8話シリーズ。あれから大きく変化した現代のシェフィールドで、相変わらず底辺庶民として、悲喜交々しながら生きてるお爺ちゃんたち。人生は映画の後も続いていく。

さすがにもうストリップはしないですが、現代の労働者階級における社会問題を群像劇で見せていきます。いつの時代もその時代ごとの問題があって、それでも庶民はなんとか生き抜いていく。簡単に「大不況時代を乗り切ってよかったね」とはいかない現実。その後も庶民はしんどいし、氷河期ジュニアやZ世代だってしんどい。大衆ってしんどい。そりゃ勝ち組の理論が響かないのも当たり前。現代のイギリスって事で、僕の実生活ともリンクしまくるので、よりクるものがあります。

最近はCobraKaiとかBadBoysとかBeverlyHillsCopとか、お爺ちゃん復活続編が多いですが、ただの懐古趣味や、ヴァンスみたいに安易な感動物語にせず、リアルと皮肉をチャーミングにまとめるところが、いかにもイギリスって感じです。大傑作って程ではないですが、オリジナル映画の哀愁と愛嬌を受け継いでる良作なのでおすすめですよ。










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ISA
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