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お毛々

ここのところずーっと気になっていたものがある。なんなら、邪魔だとも思っていた。


脇のお毛々たち。


こんなにクソ暑い日が続いている中で、他人の毛の事情なんて聞きたくないわ! と思われるでしょう。気分も悪くなるでしょう。
本当に申し訳ございません。でもこの話は書かせてください。たまには暗い話以外のどーでもいい話も久々に書いてみたいんです。
できるだけ汚い話にはさせないつもりなので。それでも少しでも抵抗感があるのならば、そっとこのページを閉じてください。


僕は毛深い。


小学生の頃から周りの子と比べて毛が生えるのが早かった。
腕も脛も周りと比べて生える量が多かったから、ちょっとだけ自分の毛が嫌いだった。
そんなときに見たのが「西遊記」。主人公の孫悟空が自身の体毛を引き抜き息を吹きかけると、自分の分身を生み出して敵をやっつける手段になっていた。現実でそんなことは出来っこないことは分かりつつも、陰に隠れてこそこそと腕の産毛を引き抜きふっと息を吹きかけていた。


下の毛も生えるのが早かった。小学5年生のときに行われた林間学校ではクラスメートのみんなと大浴場で裸になった。
林間学校の3か月前くらいから陰毛が生えていることに気付き、お風呂の時間にどう隠し切ろうか悩んだ。大浴場で不自然に股間を隠していたのか、やっぱり大勢に気付かれめちゃくちゃ笑われた。そのときはめちゃめちゃに恥ずかしかったし、自分の毛の深さを恨んだ。


それでも年齢を重ねるごとに、別に毛深くても特に気に留めることがなくなった。ただまた、毛に関して悩みが生まれた。


毛の処理がメンドウなのです。


今は毎日、髭を剃っている。
夜、風呂に入ったときに髭を剃る。髭を剃ったら化粧水でしっかり保湿をする。
元々肌が弱いから髭を剃ったらヒリヒリして、肌が大ダメージを受けている様子が分かる。いたわるように保湿をするけどきれいな肌からは程遠い。
しかも前日に綺麗に剃っても、次の日の朝にはうっすら髭が生えている。1日2回も髭を剃ったらさらに肌の調子が悪くなってしまう。
ヒリヒリした肌で出勤するのも、ただでさえ毎朝嫌々起きているテンションに拍車をかけて悪化の一途を辿ってしまう。
思い切って脱毛してみようと画策している。流行の美容男子を目指してみようと思う。
だけど脱毛ってバチバチ痛いんでしょ? 電気か何かで毛根を殺すんでしょう? 僕の分身が死んでしまうなんて、僕は許せない。と、痛さと面倒臭さから逃げ続け、このまま「いさお、美容男子計画」は夢のまた夢になりそうだ。


半袖を着る季節になり、この間電車でつり革を掴んだとき脇から黒い紐がピロピロと伸びていることに気付いた。
そのとき僕が着用していたのは白いTシャツ。
糸がほつれているわけではない。
犯人が9割5分分かっていながらも紐を引っ張ってみた。

痛い。

慌ててつり革から手を離した。幸いにも電車内は空いていて、目の前には人がいなかった。それでも恥ずかしくなった。公共の場で脇毛を見せるって、どんな変態だろうか。僕にそういった性癖は全くない。髭だけでなく、脇毛も処理しなければいけなくなった。


帰宅してさっそく剃ってみた。
脇がスース―する。やっぱり毛って邪魔だよな、こんなクソ暑いときに守らなくてもいいところ守っちゃってるんだから、さっさと剃ってしまえばよかったなと、ほんのちょっとざらざらしている肌をなでる。これでもう悩み事は1つ解決した!と思い、腕を下げた。


…あれ…?……痛い……痛い…イタイいたい!!


ものすんごく痛いのだ。慌てて腕を上げ脇を鏡に映す。
見るとほんのちょっとカミソリ負けをしているだけだった。髭を剃った後もカミソリ負けはしょっちゅうある。脇の痛さはカミソリ負けだけで引き起こされているとは考えにくい。
もしや、この若干残った、ごま塩肌を作り上げる剃り残した短い毛が原因なのか。確かに腕を下げて動かすと痛い。シャープになった毛が弱った肌を傷つけているようだ。
普段ならなんてことない、剃り残しを甘く見ていた。しかし不器用な自分がさらに刃を当てることはさらに最悪な事態を巻き起こすに違いない。もう我慢するしかないのか。


そう落ち込んだ瞬間、ある物が目に入った。
除毛クリーム。
だいぶ前に脛毛を除毛したときに残ったクリームがあった。パッケージの裏の使い方を参照した。除毛に適する部分が記載されていた。


「すね・腕・わき」


過去の自分、捨てずに取って置いてくれてありがとー!!


その日は除毛せず、次の日にクリームを使ってみた。
歯を食いしばりながら沁みる痛みを我慢し、なんとか除毛しきった。多少、短くなった自分の分身は生き続けているが瀕死の状態である。泡を洗い流し水分をふき取り、恐る恐る腕を下げてみた。


痛く……ない……


数日に渡る、脇のお毛々との闘い。ついに決着した。
邪魔だと思っていたものたちが無くなり、僕の脇は爽やかな風が通り抜ける。
だけど、何故だろう。このなんとも言えない喪失感は……


と、くだらないことに2000文字も費やしてしまった。きっと、この凶暴な暑さのせいだ。僕は悪くない。
久しぶりに腕の毛を抜いてフッと吹き飛ばしてみた。やっぱり何も起きなかった。


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