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非・社交性
社交的な人が怖い。
更衣室で会社の制服を着替えていたとき、後輩男子が着替えにきた。ほんわかした雰囲気を纏っている彼に苦手意識はない。おつかれさまです、と挨拶を交わし着替えを続行した。
着替えながら今日も疲れたねぇ、早く帰りたいねぇなんて他愛もないことを話していた。
話は家に帰ったら何をするか、という話題に及んだ。
彼が1人暮らしだということを知っていた。実家暮らしの自分はいつかは1人暮らしできるようにしなきゃと思いつつ、1人暮らしの生活の話を聞きながら自分に置き換えて1人暮らしの妄想を働かせるのが好きなのだ。
1人で鍋をつつくと作りすぎて食材を余らせてしまうこと。第一、鍋は1人でつつくことには適さないこと。恐ろしく虚しくなるのだそう。
面白いなぁなんて思いながら着替え終わった。すると彼はこう言った。
「いさおさん。この後どっか食べに行きます?」
今までフレンドリーな友人の陰で生きてきた。意識的に隠れていたわけではなく、普通に生きていても、存在感の薄い方という役目を担ってきた。
どれほど勉強や運動を頑張っても、注目を浴びるのは社交性がある人だった。
どうやったら社交性って身に着くのだろうか考えた。喋り方を真似したり立ち振る舞いも明るくしてみたけど、その期間は周りの目が普段より少し違う気がしてすぐやめた。
その人が醸し出す雰囲気とか、そういうざっくり・ふんわりした感じが社交性に通じているのだろう。
つい最近も明るくなさそう・口下手そうという烙印を押されたばかりである。25歳にもなってネガティブの印象を隠し切れていないことから高・社交性の道のりは険しいものなのだろう。
話を戻すが、この人と食事に行きたい!と思う人でないと、基本的に行かない。結論、後輩の彼とは食事に行かなかった。
好き嫌いとかいうより、とても気になる・興味深い人とご飯に行きたい。
後輩君が嫌いではないし、むしろこれほどまでいい子はいるのかと思うほどいい奴なのだ。
ただ今のところ、自分の中で後者には当てはまらないのが正直なところ。
誰かとご飯に行くことがほぼない。
社会人になってから会社の飲み会以外で個人的にご飯に行った回数は3年間の内、片手で数えられるくらい。気が置けない高校時代の友人とファミレスで長時間話すことが時たまあるくらいで、9割5分家に帰ってご飯を食べる。
「休みの日は家で何をしてるの?」という定番の質問よりも「働くって、どういうことだと思います?」と漠然とした、でも答えによってはその人の人生を垣間見えるかもしれない質問が好きだ。
第一、入社してすぐ先輩の何人かに「なんでこの会社に入社したんですか?」と質問し続けた過去がある。
先輩たちがどのようなきっかけでこの会社を知り、どういう経緯で縁があって入社したのかが不思議でたまらなかった。
変な奴が入社してきたと思われただろうが、そこは優しい先輩方である。ちゃんと教えてくれた。
調子に乗った新社会人・いさおは在籍歴がトップクラスに長い先輩に「今まで辞めたいと思ったことあります?」と聞いたことがある。
今思い返すと背筋が寒くなる。「え?いさお、もう会社辞めたいの?笑」と言われた。確かにそう捉えられてもおかしくない。
そうじゃないんです、僕は深い話を聞きたいだけなんです。なんて反論ができるはずもなくへらへら笑うしかできなかった。それからは僕が話したいことはみんなが話したいことではないことが分かった。
食事に誘われたらフットワーク軽く動き、自分のしたい質問をぐっと飲み込み、相手に合わせる。
・・・・・・よっぽど相手に興味関心がないとやっていけないわ!
と、いうことで。僕が社交的になるのはいつになることやら。