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先輩風
職場に先輩風を吹かす人がいる。
職歴は5年違うが、年齢は1つしか違わない。地元も割と近く地元話で盛り上がることもしばしばある。
年齢が近いせいもあって、最初は近所のお兄ちゃん的存在だった。職場でいじったり、いじられたりする、傍から見たら良い関係性に映るような存在だった。
職場の外でも仲良くしてもらった。仕事の先輩と初めてご飯に行った。焼き肉を奢ってくれた。人生の中で片手で数えられるくらいしか焼き網の前に座ったことがない僕に、快くご馳走してくれた。
このままこの人と仲良くしていくのだろうな。その頃は楽しく仕事できそうな気がしていた。
そんな中、急に風向きが変わった。先輩と2人で同じ車に乗る期間があった。最初は和気あいあい楽しい雰囲気が車内で広がっていた。しかし思ったよりも早く暗雲が立ち込めた。
車の運転は全部、僕がやっていた。
休憩場所などはすべて「任せるよ」で丸投げ。
助手席に乗ればすぐに自前のスマホをいじりだす。そして競馬の結果を見だす。
早く仕事を始めないのに、時間がかかったら応援を頼んでくる。
車の運転は後輩の仕事、なのかもしれない。でも時々は代わってほしかった。そのことをやんわりと先輩に伝えると「代わってほしいと言ってくれれば、代わるよ」と言った。
もうすぐ2人での車内の期間は終わることを知っていたから面倒臭さが勝った。3か月の間に先輩がハンドルを握ったのはたったの2回だった。
運転は百歩譲って、助手席で自前のスマホをいじるのはどうなのだろう。
お互い、趣味がバラバラである。口下手な僕のせいかもしれないが、車内がつまらなかったのかもしれない。興味がない話題を膨らますことができない僕が悪いのかもしれない。
それでもスマホをいじって、しかも競馬の結果を見るなんて! 移動中はもはや先輩にとって休憩時間である。
でもって休憩時間はちゃんと取る。僕は仕事が終わらないことが不安で少し早めに始めて、少しでも多く仕事から解放される時間を作りたい。そのために頑張っているのに、休憩をしっかり取って仕事の進みが遅くなった時には僕の力を借りようとする。
1度、重めな仕事をこなし休憩時間を削ってなんとか終わらせた日があった。いつもなら先輩に「こちらの仕事、終わりました。そちらはいかがですか?」と連絡を入れるのだが、その日は余裕がなかった。
いつもより少し遅めに帰ってきた先輩は「なんか早く終わってたみたいだね」と言った。そのときは、「はぁ……だから何ですか?」と思ったが、帰宅しながら先輩の言葉を反芻した。
「俺が時間がかかってたのに、おまえは何してたんだ?後輩のくせに」という意図が含まれていたのだと気付いた。それを見越してこっちは早めに毎回動いているのに、と思った。
恐ろしく先輩風を吹かせてくる人。それは社会人となって僕が一番嫌いなタイプの人間だ。
対等でいたい。先輩・後輩関わらず、人と人なのだから。
先輩から教わることは大事だし、金言も中には含まれる。職歴を積み重ねてきた経験からの言葉は、目からうろこが落ちるほどである。
ただそういった言葉を与えてくれる先輩はなぜか先輩風を感じない。親心、ではないけど、失敗してほしくないという気持ちの上で言葉を投げかけてくれていることを感じるからだと思う。
自分が先輩だから、というつまらないエゴを振りかざすつもりが全くないからなのだろう。そういう先輩は本当に尊敬する。
偉そうで、自分がこの会社を回しているとでも思っているのだろうか。勘違いも甚だしいなと、いつも不快になる。
自分が先輩風を吹かせていないか、と心配になる。
後輩に何か教えているときは、誤解がないように、分かりやすく伝えることに夢中になってしまい、自分のことを客観視できなくなる。
一通り教え終わり、自分の言葉を反芻する。
偉そうではなかったか。高圧的ではなかった。
自分では大丈夫だと思っても相手が大丈夫ではなかったりする。
口調がぶっきらぼうになることがあるらしい。自分ではポジティブに伝えていても、外から聞いていると、ぶっきらぼうに聞こえることがあるみたいなのだ。
なるべく明るい口調で伝えることを覚えていても、いざというときは大事なことは記憶からすっ飛んでしまう。
もう救いようがないじゃん、と思っても働くってそういうことも大切にしないといけないのだ。
そうしないと気付かないまま、先輩風を吹き荒らしてしまうかもしれない。