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ハッピーセット

仕事で、後輩の女の子と車が一緒になった。


午前11時頃、午前中の業務が終わった。
「お昼ご飯、どうする?」と聞くと、「○○(もう1人の後輩の女の子)はマック行ったみたいで」と答えた。
後輩の女の子2人はとても仲が良い。常にニコイチで、逆に見てるこちらが引いてしまうくらいベタベタである。
素直に、マック行きたいです!と言ってくれれば行くのにな、と思いつつ、自分も後輩のときにはあんまり自分の意志を通そうとはしなかったなと懐かしくも感じた。
11時にお昼を買いに行くことがちょっと後ろめたく感じ、午前中にやらなくてもいいが、今日中にやらなければいけない業務をこなしてからマックに行くことにした。


11時55分。業務が長引いてしまった。飲食店が混み始める時間になってしまった。もう少し早く終わる計算だったのだが、思いのほか時間がかかってしまった。
これからマック寄って休憩する、となると確実に12時を超えてしまう。そうすると休憩時間が1時間確保できない。
正直、お腹はペコペコだが休みたい気持ちも同じくらいある。
後輩には申し訳ないけど、コンビニでチャチャっと買ってパッと休もう。しかし後輩にマック行こうと約束してしまった手前、勝手にコンビニに向かうのもどうなのだろう。
後輩に「マックへ向かう……?」と尋ねると「はい!」と返事をされてしまった。


マックは僕の中でぜいたく品である。
僕が小学生のときはまだ100円マックがあった。ところが今、ハンバーガーも170円である。軽く3個くらい食べれるボリュームなのに。
セットを頼んでもすぐにお腹が減ってしまう。自分の金銭感覚からすると決して安いとは言えない値段払っているのに、2時間も持たずに空腹になるのはちょっとショックである。だから僕はマックに足を運ばなくなった。


話を戻すが、12時近いのに休憩時間を削ってまでもマックに行きたい理由が知りたくなった。


「マックでなんかキャンペーンやってるの?」
「はい。ちいかわです!」
「ハッピーセット?」
「そうなんです!」


アニメや漫画を見たことがないが、ちいかわがすごく人気なことは知っている。プラスチックでできたちいかわのおもちゃがランダムで当たるのだろう。
車が好きだったから小さい頃はトミカのキャンペーンが行われるときは親にハッピーセットを買ってもらっていた。
ハッピーセットのおもちゃってなんだかワクワクする。後輩もそんなワクワクを抱いているのだろう。それを潰してしまうのは先輩失格である。


「いさおさんはマックで何を買うんですか?」
「あ…俺…?ん-、あんま食欲湧かないから今日はお昼抜くんだ」
「そうなんですね~」


そうなんですね~、じゃないわ!と心の中で軽くツッコミつつ、後輩がハッピーセットを買いに行くのを車の中で待った。彼女が降りてすぐ腹の虫が鳴った。ベストなタイミングだった。


お待たせしました、と後輩が車に乗り、少し離れたところに車を停め休憩時間に入った。12時15分だった。


「ちなみになんだけど、ちいかわのおもちゃって何があるの?」
「シールです!」
「し……シール……?」
「はい!」
「おもちゃじゃなくて?」
「はい。3枚で1セットなんです。推しがいて・・・・・・」


後輩が推しの話をしている中、僕は意識が軽く遠のいた気がした。


え、今、おもちゃじゃなくてシールなの!?
しかも、3枚だけ!?
3枚のシールのために俺、食事抜いたの!?
ちょっと待ってちょっと待って! え???


自分が情けなさすぎる。
後輩のためにそこまでする必要はなかったんじゃないかと。
大して仲が良いわけでもないし、教育係をしていたとか業務上で繋がりがあったわけでもない。
つまらない先輩面をしてしまったせいで自分の首を絞めた。
昼ご飯を我慢したことと昼休憩を削ってまで優しくした恩恵を後輩から受けることはこれから先にはたぶん、ない。
それでも他人のハッピーセットを買うため、たかだかシール3枚の為に車を走らせたのは、つまらない先輩と見られたくない、優しい先輩だと思われたいという自己満足からだった。


情けない気持ちをいち早く消し去りたかった。YouTubeで「ちいかわ」と検索をして、初めてアニメを観た。
ちいかわの登場キャラにハチワレというやつがいる。とある話でハチワレが言った言葉が胸を刺した。


「同じ気持ちじゃない時、どうしたら良いんだろう」


後輩はちいかわのシールを手に入れて嬉しい。僕は空腹で休めず気を紛らわすためになんとなくアニメを観て悶々としている。タイムリーな言葉に、ハチワレー!!と抱きしめてやりたくなった。


「推しが出ました!」
後輩の笑顔がせめてもの救いだった。良かったね。


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