どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?

『どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?』
U君。ぼくにはなぜか「死にたい」と訴える青年達が近づいてくる。彼らは美しい。肉体的にも精神的にも。二五〇〇年を飛び越して、ぼくはいまソクラテスの時代に生きているようだ。青年達は、悩んで悩んで悩み尽くした結果、ぼくのもとに来て、そして「生きること」の意味を問い、そして「何故自殺してはいけないのか」と迫る。 答えは唖然とするくらいない。なぜ自殺してはいけないのか、ぼくにはわからない。人生五〇代半ばまで来てしまい、ふりかえってみるに、たしかに、「生きていてよかったよ」と自信を持っていえることはないのだから。あのときーぼくは若い頃何度か死のうと思った。-死んだとしても、それでよかったのではないかと思うのであり、その後、必死の思いで生きてきてよかったのか、考えれば考えるほど分からなくなるからである。(中略)
「とにかく生きるんだ」
と、ぼくは答えた。だが、何故なのか。ぼく自身にもわからない。生きている事が辛い、これから、ますます辛くなるだろう、ときみは言う。そのことはどこまでも真実だから、「そうではない」とぼくは言えない。ぼくはただ沈黙して、きみが死なないことを祈るだけだ。なぜか。なぜならぼくが悲しいから。そうだ、それだけなのかもしれない。それで十分ではないか。きみが死んだら、ぼくは悲しい。だから、死んではいけないのだ。ー

中島義道著作の『どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?』より、一部抜粋させていただきました。大学の先生が所持していた本で、たまたま目に入り借りたものです。

「死にたいんだ」と、いう相談が、私のところにもきます。でも、それらの相談をする人は決して「練炭自殺がオススメだよ!」とか「リスカはやめたほうがいいよ!」…ということを聞きたいわけじゃない。でも、救って欲しいわけでもない場合がある。そして私は、とんでもなく薄情者であるのか、どうしても死にたい人は、状況があなたを救わないのならば、死んでしまったほうがよい。と思うこともある。死は救いであることも、確かにあるのだと、考えているからだ。

だからといって、死んで欲しいとは思えない。「苦しいから死ぬ」のも理由の一つであるのはわかる。けれど、「これから苦しさはなくなるかもしれない」し、「今までの全てが報われる瞬間があるかもしれない」。同時に「報われる事なく、むしろもっと苦しむこともあるかもしれない」。それら総合して、あなたが経験する未来は、今のあなたの考え方では苦しいかもしれないけれど、未来のあなたの考え方では苦しくないかもしれない。つまるところ、「生きているならば可能性がある」ということだ。だから、「苦しいから死ぬ」のは今のあなたであって、未来のあなた、また、過去のあなたは思っていないかもしれない。こんな理屈だってある。

それに、「私が生きているのは無意味だ」といった事も言われる。けれど、それはあなたが勝手に思っていることだ。今までの経験で失敗がたまたま、人と比較して多かったから、そのように勘違いしているだけかもしれない。だってあなたの目は世界全体を見れやしない。

「あなたは生きていると無意味だと思っているかもしれないけれど、世の中全体からすれば、あなたという存在のパーツにより良く作用している所があるかもしれない」…それは友人に与える影響だったり、あなたが家に居る事により防がれる未来であったり、あなたの微弱に発した、と勝手に思っている何かも、存在があるだけでも、世の中からすれば非常に重要である可能性だってある。…こんな理屈だってある。

それでも、生きていることは決してよいことかと言われれば、そうではない。苦しい事ばっかりだ。むしろ苦しい事の方が多かったりする。私はそう思うよ。

だからこそ、中島義道さんの「生きてくれ、ぼくが悲しいから」というメッセージは悲痛な叫びであることが、分かる。頼む生きてくれ。君はよくても私は悲しい。…そんなこと言わなくたって分かって欲しいものだ。でも、言わないと伝わらないね、ただでさえ自殺志願者は余裕がない。誰かの事を思う余裕が存在しない。だからはっきりといわなきゃわかんない事がいっぱいある。

私は今まで三度首吊りで死のうとした。理由はなんとなくだ。何かに絶望したわけでもなくて、それしかないと知ったから死のうとした。

でも、自殺しようとするのも自殺するのも日常的なことだ。なにも可哀想なことでも、特別な事でもない。わりとみんな普通にやってるしわりと当たり前なことでもあるような気がするし、でも、文に起こして見るとなんかそれはそれでおかしいのかも?なんて思ってる。

ともかく、死ぬのにも生きるのにも、私は理由なんざ要らないと思う。

ただ、居なくなっては悲しいから死なないでくれと思う。

私も、「死なないでくれ、死なれたら困る」といわれたから死なないで居る。本当にそれだけだ。私が、死んで欲しくないと思う人から、死なないでくれといわれたならば、死ぬ道理がない。その一言で生きている。

参考文献

『どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?』

平成二十年十一月二十五日初版発行

著作:中島義道

発行者:井上伸一郎 発行所:株式会社角川書店




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