
本当に実在したジャイアンリサイタル/藤波辰巳 - マッチョ・ドラゴン/ドラゴン体操 [Polydor]
Artist: 藤波辰巳
Title: マッチョ・ドラゴン/ドラゴン体操
Label: Polydor
Genre: Pops
Format: 7" EP
Release: 1985
Reissue: 2023
A面:マッチョ・ドラゴン
国産エレクトロの最高峰と名高い、1970~90年代に活躍したプロレスラー藤波辰巳のシングルにして、ガイアナ協同共和国(旧:イギリス領ギアナ)のレゲエシンガーEddy Grantの"Boys In Th Street"のカバー曲。
原曲:Eddy Grant - Boys In The Street
UKレゲエな原曲に対し、和モノニューウェーブにアレンジし直し、エレキギターの響きが印象的でロマンティックな楽曲に、そして歌詞は原曲とは無関係な内容で、プロレスラー藤波辰巳のテーマ曲として生まれ変わった本作。
が、問題はここからで、それは楽曲のクオリティーの高さとは反比例している藤波辰巳の歌唱力の"低さ"である。まさにドラえもんに出てくるジャイアンのリサイタルをそのまま現実の世界に持ってきたようなという形容がピッタリである。この楽曲と歌唱力のアンバランスさは、どこから何をどう突っ込めばよいのか、初見では分からないだろう。それほどまでにインパクトが群を抜いて強い。
歌が上手い、歌詞に世界観がある、声量がある、声質が良いなど、そういった価値観とは対極かつ極北にある藤波辰巳の独特な声質と歌唱力の低さ、少年心をくすぐるような歌詞の奇抜さ。一般的な歌の上手さとは明らかに真逆であるが、聞いていると不思議と明るく前向きな気持ちになれる、こちらに余力があると藤波辰巳に元気を与えたくなる、逆にこちらに気力がないときはこんな歌を歌う人がいるんだと余計なガスが抜けるようなというように、歌は決して上手さが全てではないと断言できる何かを感じさせてくれる、そんな不思議な魅力が詰まっている。おおよそ誰にも真似ができないものであると思う。
B面:ドラゴン体操
何かと話題になるA面のマッチョ・ドラゴンとは対照的に、影の薄いB面のドラゴン体操は子ども向け童謡を意識した、動物をテーマにした内容になっている。が、忘れてはいけないのは藤波辰巳の独特な声質と歌唱力の低さは当たり前であるが健在。これらに加えて、子ども向けを意識しているためチープな音に脱力的な楽曲にカオスな歌詞という、日々の悩みがどうでもよくなる電波的な歌が収録されている。話題上がることは滅多にないB面であるが、本盤はA面B面共に全く隙のない珍盤である。
本作は、2023年にオリジナル盤と同様の内容で7" EPとして枚数限定で復刻されたのは記憶に新しい。上記の理由から、A面はラジオ番組で取り上げられるなどしてカルト的な人気を誇っており、1985年のオリジナル盤は中古市場では万を超える値段で取引される超高額案件としても有名である。ただし、2023年に復刻版が出たため、現在の中古市場の価格は比較的落ち着いている印象。
冷静に振り返って聞くと、言葉を失う、もしくは自然と笑みが零れてくる、本作。仕事に失敗したり、落ち込んだり、嫌なことがあっても、世の中にはこんな人がいるんだと、良いのか悪いのか分からないが、不思議と前向きな気持ちにさせてくれる楽曲をあなたに。