情報過多の電脳と混沌の襲来/James Krivchenia - Blood Karaoke [Reading Group]
Artist: James Krivchenia
Title: Blood Karaoke
Label: Reading Group
Genre: Experimental, Pops
Format: LP
emissaries of creation
null states
culture complex
calendrical rot
artifact of error
inherited
trackless way
scaleable future self continuity interventions
sub-creational reality
the science of imaginary solutions
god in every way
styles of imprisonment
exaptation
wall facer
Derek Baron主催のアメリカ実験音楽レーベルReading Groupより、Big Thiefのドラマーとしても知られている同国の音楽彫刻家James Krivcheniaの2022年作のソロアルバム。
本作は再生回数が100回に満たないYouTubeの動画から大量にサンプリングされた音を基に予測不可能なコラージュとして体現されている。アルバム全体を通して、曲が目まぐるしく刻一刻とシームレスに変化するDJ Mixのような感覚で楽しめる。大量サンプリングによる情報の奔流に身を委ねると、一瞬にしてカオスの渦に飲み込まれる。初めて聞いたとき、未来の音楽がタイムスリップして迷い込んだのか、宇宙人による侵略が始まったのか、それとも人間には理解しきれない人工知能の自動生成によるものか、情報という物量で押し切る勢いがある。
昨今のクラブミュージックの曲の長さは、90年代初頭と比較すると明らかに短くなっている。その頃の音楽は曲の長さが10分超えのものは珍しくなく、4~5分程度の曲はあまり見かけなかったように思う。最近では10分超えの曲は珍しく、代わりに4~5分程度の曲の割合が増えてきたように思う。この理由としては、機材の発展、主にビートシンク機能により曲と曲をつなぎやすくなり、職人技であったDJの技術の敷居が低くなってきていることが挙げられるだろう。
そしてもう一つ、大きな理由として考えられるのは感覚の変化である。Facebook、Instagram、Twitter、TikTokのようなSNSの存在が大きな影響を及ぼしているのではないかと思う。自分の欲しい情報をいかに見つけるか、配信するか。情報の更新の早さは日に日に加速しており、不要な情報はスワイプで流す、という行為の常態化が原因ではないかと思う。要するに情報の切り替えが早いのである。この感覚が音楽などにも直結しているため、自然と楽曲の長さも短くなっているのではないかと思う。
本作は、そういった現代社会の情報の切り替え速度を象徴するかのような速さで一瞬にして駆け抜けていく。大量サンプリングは、消費されつくされた情報の澱が泡のように浮かんでは弾けるようであり、刹那的な存在と情報の切り替え速度がシンクロしており、電子ドラッグの刺激物とも言えるであろう驚異的な中毒性を持っている。
これから情報の奔流がどこへ向かうのか、これがインターネット社会の在り方なのか闇なのか、未知の音楽や新たな可能性を体験したい方はぜひ。