SF小説を読み終えたかのような読後感を感じるTrance史の名盤/Vincent de Moor - 未来世紀ムーア [Cutting Edge]
Artist: Vincent de Moor
Title: 未来世紀ムーア
Label: Cutting edge
Genre: Dutch Trance
Format: 2×CD
Release: 2000.09.20
Trance史に残る名盤、オランダ王国のトランス作家Vincent de Moorの日本規格のアルバム。2枚組のアルバムでDisc 1はDJ Mix、Disc 2は代表作のフルレングス。
1990年代後半にトランスより派生したダッチトランス。オランダ王国を中心に一大ムーブメントとなったジャンルで、この頃に名を馳せたArmin Van Buuren、Ferry Corsten、Tiësto、Rank 1などが代表的なアーティストとして挙げられる。中には2024年の現在でも現役であり、レジェンドとして活躍をしているアーティストも存在している。
2000年に差し掛かると、流行りのジャンルの宿命である衰退期になり、今となっては既に当時の代表的な楽曲がほぼ全て出揃っている時期になる。衰退に差し当たり、この頃にはBPMの遅くなったトランスであるProgressive Tranceやトランスと親和性の強いジャンルであるProgressive Houseが隆盛を極め始めている。現在はある意味このジャンルの後継にもなり得る、Beatportのジャンルで言うところのMelodic House & Technoが主流となっている。更に言えば、この時代の楽曲を現在風にリバイバルしたリミックスなどもリリースされており、Dutch Tranceというジャンルは既に死語になっているが、当時のシーンをリアルタイムで経験している人にとっては今でも思い入れのある楽曲が多いことを示している。
余談ではあるが、2000年代初頭は、日本ではAvexによるCyber Tranceのコンピレーションなどが店頭ではよく並んでおり、Vincent de Moorは浜崎あゆみの"Fly High"をリミックスしていることでも知られている。
本作はDutch Tranceの特徴であるBPM早めのトランスに長大で美しいメロディアスな楽曲を中心に、Downtempo/Break Beatsなども含めつつ、非常にバランスの良い構成となっている。本作が名盤とされるのは、Vincent de Moorの代表作を中心に、SF的な物語性を前面に押し出し、テンポのメリハリがあるDisc 1とDJユースなDisc 2という、二度美味しい構成である点であろう。
ローランド社製JP8000/8080シンセサイザーに代表されるSuper Sawオシレーターの音色による短いメロディーと長大なメロディーの組み合わせにピアノの音を加え、哀愁感が漂いながらも決してそれだけで終わるわけではなく、明るいメロディーで綺麗に締めてくれる。1曲目の"Worlds Of Doubt"という本作の序章に相応しい綺麗目でありながらも大人しく徐々に展開する楽曲に始まり、BPMやジャンルにメリハリを付けながらも徐々にヒートアップし、Trance史の名曲中の名曲、Ferry Corstenとの共作であるVeracocha名義による"Carte Branche"で最もヒートアップし、"Eternity"などの名曲を挟みつつも物語は一つの終着点へと行き着くという王道の構成となっている。1曲目から順に聞いていくと、長大なスペースオペラのSF小説を読み終えたかのような、浮遊感を感じさせる読後感を味わえる。ジャケットやブックレット含め、物語性や作家の良さを存分に堪能できる名盤。