電子音の模られた妖怪/森下登喜彦・水木しげる - 妖怪幻想 [Victor]
Artist: 森下登喜彦・水木しげる
Title: 妖怪幻想
Label: Victor
Genre: Experimental, Avantgarde, Music Concrete
Format: LP
Release: 1978
A1. 河童
A2. 一反木綿
A3. 座敷童
A4. ぬらりひょん
A5. 震々(ぶるぶる)
B1. 狸囃子
B2. 砂かけ婆
B3. 小豆洗い
B4. 子泣き爺
B5. べとべとさん
妖怪とは何なのか?
科学の技術の発展した現在では、目に見えないものに対する心霊的な恐怖はすっかり形を潜めてしまった。現代的な視点で見ると、妖怪は一種の錯覚のようなものだと考えられる。説明がつかない事象の恐怖を低減させるには、科学がうってつけであるが、そういった概念が未成熟であるが故に、何かしら具現化をする必要があったのだろう。それが妖怪の正体の一つであろう。形のない未知の存在をヒトの想像力により模られたものが浮世絵の絵に出てくる異形の存在であり、水木しげるの想像力を頼ったものが世間一般に広まっている妖怪の形なのである。科学的な視点で見た錯覚とヒトの想像力による精神活動の交差点が妖怪である。ただし、本質として未知であるということは避けようもないが。
本作は、妖怪の第一人者である水木しげるの協力を得て、森下登喜彦の想像力を駆使したシンセサイザーにより具現化された妖怪をテーマにした楽曲群である。ブックレットにも書いてあるが、妖怪に関する音の文献が少なく、また妖怪の声を実際に耳にしたことがないため、水木しげるの絵からイマジネーションを膨らませることから始まったと。
妖怪の発端とは未知である、具現化の過程は想像力である、それらが掛け合わされてできた音楽は、Moogを主体としたシンセサイザーによる音楽だった。
今で言うところの早期電子音楽による妖怪とその環境を意識した作品で、特定のジャンルに囚われない無形の実験精神溢れる内容となっていて、今聴いても色褪せることがない。全10種の妖怪がそれぞれ何をしているのか、そこがどこなのかを想像しながら聴くと、どこか奇妙で異質な世界に誘われる。音楽的なのか、非音楽的なのか、明確な境界線がなく、こちら側(現実)とあちら側(非現実)が曖昧である。また和の雰囲気や独特な間合いがどことなく感じられ、音像の距離感が興味深い。