見出し画像

来るはずのない未来が来るとき/Hystereo - Winter In the City [Soma Quality Records]

Artist: Hystereo
Title: Corporate Crimewave
Label: Soma Quality Records
Genre: French House
Format: LP
Release: 2005

スコットランドの西部の湾港都市グラスゴーに拠点を置く、ハウスやテクノの老舗レーベルSoma Recordings傘下Soma Quality Recordsより、ハウス作家デュオHystereoの2005年作のアルバム。レーベルとしては、既に解散したがDaft Punkのデビューリリースを飾ったことで知られている。

アイルランド共和国の首都ダブリンに拠点を置く、Conor MurphyとJack ByrneによるデュオHystereoによるフレンチハウスの名盤。

Daft Punkはその活動を通して非常に多彩な顔を見せており、時にポップに時にロックにと、新しい挑戦をし続けて2021年に解散をした。1994年に衝撃のデビューを飾り、1997年にはフレンチハウスの金字塔"Homework"で一世風靡し、フレンチハウスを牽引する旗手として活躍した。フレンチハウスとは簡潔に言えばフィルターやボコーダーを多用したファンクなディスコ寄りのハウスである。代表的なレーベルとしては、Daft Punkの片割れであるThomas Bangalter主催のRouléが挙げられるだろう。

さて、そのDaft Punkであるが、どこから入ったかによって評価が分かれるように思う。メジャーシーンで活躍するようになるとアンダーグラウンドな作風から一変して大衆に寄り添った作風や新境地を切り開くような挑戦になるのは常であり、Daft Punkも例に漏れず、ファーストアルバムのHomeworkのような作風からは離れることになる。

初期Daft Punk直系のサウンドを継承したフレンチハウスの名盤として本作。
Daft Punkの入り口がファーストアルバムだった場合、その作風、即ちフレンチハウスの作風を続けて欲しいと心のどこかで感じたことはあるだろう。リアルタイムで追っていた人は言うまでもなく。しかし、そうはならなかった。もし、Daft Punkが初期の作風を続けていたらという淡い願望を約10年越しに叶えてくれたような本作。そういう意味合いで、Daft Punkの入り口がどこかで大きく評価が変わるが、同じような想いをしてきた人は少なからずいただろう。2005年には既にフレンチハウス自体はリリースこそ下火ではあったが、それでも国内にレコードが入荷されたときの反響は大きかった。

本作のフレンチハウス特有のファンキーなグルーヴ感や跳ねるベースラインはまさに王道的で、アルバム全体を通して派手な楽曲、しっとり聞かせる楽曲、インタールード的な楽曲、哀愁感のある楽曲、そして誰しもが認めるアンセム級の曲があるなど、非の打ち所がない構成と完成度の高いアルバムとなっている。本作が名盤と謳われる所以はそういった理由にあるが、それでもやはり来るはずがないと思っていた未来や過去が当時に訪れたというのは強いインパクトを残したのかもしれない。

本作の最後にして、Hystereoの最も有名な楽曲であるWinters In The City。国内では某ラジオ局のジングルで使用されていたことでも有名。アルバムの最後を飾るに相応しく、疾走感溢れるピークタイムチューン。本作を最初から最後まで聞き終えた後の独特な浮遊感や余韻を与えてくれる。

フレンチハウスという言葉は死語であるが、このジャンルの根強い人気はやはりどの時代にもあるだと感じる。この2005年作にしろ、フレンチハウスのDNAを受け継ぐ昨今のフューチャーファンクなど、時折こうして唐突に何かの話題になるのは興味深く、予想だにしないことである。


いいなと思ったら応援しよう!