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雅楽、それは日本人の宇宙/天理大学雅楽部 - 雅楽 [CBS/Sony]

Artist: 天理大学雅楽部
Title: 雅楽
Label: CBS/Sony
Genre: 雅楽
Format: LP
Release: 1984

https://www.discogs.com/ja/master/2373073-%E5%A4%A9%E7%90%86%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E9%9B%85%E6%A5%BD%E9%83%A8-Gagaku-Music-Society-Of-Tenri-University-%E9%9B%85%E6%A5%BD-Gagaku

↑参考動画

奈良県天理市に位置し、天理教を広く布教することを目的に私立大学で最初の外国語学校として1925年に誕生した天理大学の雅楽部による、雅楽演奏のレコード。リリース元は大手レーベルCBS/Sonyより。

雅楽というジャンルの音楽はフィジカル音源を探す上である意味特殊で、雅楽をリリースしているアーティストは、宮内庁関連(主に宮内庁式部職楽部)、雅楽師こと東儀秀樹、現代音楽作家の3パターンしかほぼないと言っても過言ではない。その中でも本作は、大学の部活動による演奏(1984年4月3日、天理大学にて録音)という非常に珍しいリリースである。雅楽には管絃・謡物・舞楽という3つの演奏形態があるが、A面には管絃・謡物、B面には舞楽という、雅楽の基本的な形態を楽しめる良作となっている。天理大学の部活動については、柔道部のイメージが強かったが、本作を掘り当てるまで雅楽部については知らなかった。

音楽には宇宙という言葉が形容されることがある。例えば、黒人の宇宙という言葉は、ジャズやデトロイトテクノと言ったジャンルに使用されることが多いだろうし、単純に宇宙と言えば電子音楽などではこういった言葉は使われやすい。

では、日本人の宇宙は何なのか?と考えたとき、筆者は雅楽を挙げたい。
そもそも宇宙とは何なのかということについては、一般的には天体の宇宙に該当するだろうが、音楽的な宇宙とは民族の持つ価値観なのだろうと思う。
笙という楽器の音色は動態としては有機的なものであるが色彩としては電子音の人工的なそれに近く、星のように眩く輝いていたり瞬いているように視えるからである。ドローンミュージックに特有な陶酔感により、トランス状態に似た、周囲の存在を置き去りにした没入的な感覚に陥りやすく、太鼓などの有機的な音と笙の人工的な電子音に似た音の組み合わせは、民族音楽特有の生活に根付いた土着的なものではなく、近未来的とも次元が異なるものとも捉えられるような神秘的なものに感じられる。雅楽は神々を畏れ敬い、祈りや舞を捧げた宗教観に根差した音楽であり神事である。科学技術の発展していない、目に見えざるものを感じ取っていた時代の神秘に対する感覚。そういった意味合いで雅楽については、ドローン系ストレンジビーツとも、ダンスミュージックのジャパニーズクラシックとも言えるような不思議な音楽に感じている。

過去から今へと伝えられる、民族音楽のような伝承的な音楽は継承する人間が途絶えるとそのまま姿を消し再現が不可能になるものが多い。また演奏する集団が非常に限定的であるため、その傾向に拍車をかけている。そういった中でも部活動を通して、雅楽を演奏している大学があるというのは驚きを隠せなかった。



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