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自然の中に潜む、昆虫たちが奏でるテクノミュージック/Jean-Claude Roché - Cigales et grillons et autres insectes - Cidadas and Crickets [Frémeaux & Associés]

Artist: Jean-Claude Roché
Title: Cigales et grillons et autres insectes - Cidadas and Crickets
Label: Frémeaux & Associés
Genre: Field Recording
Format: CD
Release: 2008

https://www.fremeaux.com/en/1115-cigales-et-grillons-autres-insectes-chanteurs-du-monde-3661585025160-fa663.html

ジャズ、スポークンワード、ゴスペル、ブルース、カントリー、フレンチ、そしてワールドミュージックをリリースしている、フランス共和国に拠点を置くFrémeaux & Associésより、鳥類学者であるJean-Claude Rochéによるセミとコオロギを中心とした録音物。他のシリーズも膨大な量のカタログとして存在しており、鳥類は言わずもがな、類人猿、海獣、哺乳類など様々な動物たちの声がリリースされている。

鳥類学者であるJean-Claude Rochéは、過去30年以上に渡り、主に鳥の囀りや鳴き声などを録音してきており、本作はタイトルにあるようにセミとコオロギに焦点を当てたフィールドレコーディングである。

インドネシア共和国/マレーシア/ブルネイ・ダルサマール国にあるボルネオ島、タイ王国、オーストラリア連邦、カメルーン共和国、セネガル共和国、フランス共和国、チュニジア共和国、中華人民共和国、フランス領ギアナなど、世界中の様々な場所で録音された昆虫たちの奏でる歌声を堪能できる。録音時期は1960年代~1990年代という長い期間を経て撮り貯められた録音物の中から選ばれており、60種類以上のセミやコオロギ、その他の昆虫の鳴き声が収録されている。

日常生活で耳にする生物の声、特に人類を含む哺乳類の声というのは感情が含まれる分、有機的なものとして感じられるが、同じ生物である昆虫類の奏でる声というのは、特に昆虫のオスの声は進化の過程でメスを誘惑して勝ち取ることを目的として発展している。ただ、昆虫たちの声について、種としての価値観や在り方が異なるのか、全く別次元の存在のように感じる。

フィールドレコーディングも、アンビエントかテクノかに強引に分類できるのではないかと思う。ブライアン・イーノはアンビエントを「聴き手に向かってくるのではなく、周囲から人を取り囲み、空間と奥行きで聴き手を包み込む音楽」と定義づけている。感覚的には生活を邪魔しない部屋の壁紙であろう。アンビエントなフィールドレコーディングとは、録音の対象以外にも周辺の音、例えば空気の流れや湿度などによる音のこもりなどがそれにあたり、音の輪郭や境界線が曖昧なものである。一方、テクノなフィールドレコーディングとは、周辺の音を含まず、録音の対象物単体のみに焦点を当てた音であり、音の輪郭線が明確なものである。

本作が録音している昆虫たちの奏でるコミュニケーションサウンドは、電子音さながら高音域が強く、完全に別種の生物としての異質感が際立っており、加えて言うならば、リズミカルなミニマルミュージックであるようにも感じる。言い方を変えれば、若干の周辺の音が薄く良いアンビエント感を醸し出しており、昆虫の声に焦点をそれを前面に出している録音そのものが
テクノミュージックそのものだと思う。

本作は昆虫をテーマにしているが、日常的に耳にする音でも、ふとした気付きでそこには全く別の世界が広がっていることを体験させてくれる。

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