「かぞくのわ」二次創作掌編2
(※こちらは、先日上演されました「道楽息子」様の舞台「かぞくのわ」の二次創作掌編です。主宰である表情豊様の許可を得て執筆、掲載させていただいております)
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喰えないモノは大嫌いだ。
でも水彩絵の具の"白"は別だ。
アレは、チューブチョコみたいに甘い味がするから。
『Eat-マサヒロの場合-』
『…華麗なるモンキーターンから3号艇原田をサシて、独走態勢の1号艇瓜生! そのまま引き離してゴールイン!!─勝敗は1-3─配当は……』
「糞!!」
マサヒロは頭を掻きむしって、手の中に握りこんだ「2-4」の舟券を地面に叩きつけ、ついでに傍にあったカラーコーンを、ドボンと海面に蹴り落とした。
「ちょっとアンタ…」
それを場内巡回していた警備員に見咎められ、慌てて最終12レースが終わった悲喜こもごもの雑踏に紛れる。
この日は、本当にツイておらず、帰りの電車は人身事故で運転見合わせとなり、ならばと路線を変えると、空の胃袋からでも吐けるほどギュウギュウに押し込まれた。
なけなしの千円をパンツの右ポケットに確認して、自宅アパートに近いコンビニで焼肉弁当を買えば、
「温めますか?」
もロクに言えない研修中の外国人が、レジから睨んできた。
「いいよ、そのままくれよ家帰って温めるからよ!」
マサヒロは釣り銭の175円と、弁当を手に帰宅する。
…それでも今日は、マシなほうだった。何しろ"ちゃんしたと喰いモノ"があるのだから。
しかし、アパートのドア前に着いたところで、部屋の鍵を探ると、確かに左ポケットに入れていたはずが……。
マサヒロは、左右のポケットと、右の尻ポケット、そして、錦鯉の描かれたシャツの胸ポケットを探ったが、どこにもない。
(あ、そうだ、そうだった)
ドアチャイムは、いつぞや酒に酔った自分が壊したので、マサヒロはドアを拳で叩いた。
「コラ、糞ガキー、開けろ!居んだろ!? 早く開けねぇとぶっコロすぞ!!」
しかし、いくら叩いても、怒鳴っても中から反応がない…というか気配もない。
マサヒロは、イライラとスマホを取り出し、最初は"オンナ"に、そして今は別に暮らす弟に連絡を入れた。
しかし、どちらも、何コールしても出ず…そのうちバッテリー自体が底をついた。
『こ、この子、4月から小学校でしょう?だから、揃えなきゃいけないものがいっぱいあって…ほら、ね、ランドセルとかお道具箱とか、絵の具とかね?…だから明日ね…』
『マサヒロ!あんたはお兄ちゃんだろ!?弟に分けてやんなくてどうすんの!?…そんな子は母ちゃんの子じゃない!出て行きな!』
「糞!糞!糞!…どいつもこいつも…!」
175円で行ける所もなく…そのうち日も暮れた。
暗がりに、アバートの外に放り出されて、膝を抱え座り込んだ子供が見える。
それは……。
「糞…俺は負けねぇからな…」
マサヒロは、野犬のように唸りながら、冷えた弁当の米を手掴みで口に放り込み、噛み締めた。
(おわり)
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