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公共交通経営者だから言える「地方公共交通が衰退するワケ」 02
01では「日本の地方公共交通が衰退していく理由は交通事業者・行政・地元住民すべてにある」とお伝えしたが今回は地元ではなく観光客目線で考えて見たい。
私は熊本県天草で国内でも珍しいJRと接続する定期航路を運航している。利用者はほぼ全てが観光客。公共交通の三大需要である「通勤・通学・通院」の方々が皆無。おまけに天草は離島だが天草五橋と呼ばれる5つの橋で九州本土と繋がっており、車でも往来が可能。普通で考えるとこの航路を黒字化することは所謂「無理ゲー」。2009年に航路を立ち上げると決めた時には家族、社員、親族の皆が反対。当時90代だった今は亡き祖父でさえ「お前はなんば考えとるとや(熊本弁で何を考えてるんだ)。今すぐ止めんか!」と電話がかかってきた事が強く記憶に残っている。地元の方々からは「あいつは頭がおかしい」「補助金貰ってないと言いながら実は陰でこっそり貰っているんだろ」「定期航路のせいで1年以内に会社が潰れるよ」など散々陰口を叩かれた。まあ普通で考えればそうだし、結果も出していないので反論の余地もない。実際に最初の2年間は予想より大幅に利用者が少なく、大赤字で実際に会社が債務超過寸前まで陥った。周囲の方々の予想通りの結果になろうとしていた。
しかし、今年の春で就航して満11年を迎え3年目以降は黒字経営を続けている。ではこの様に公共交通機関を運営するに最悪に近い条件なのになぜ黒字経営を行うことが出来ているのだろうか。
先ほど天草は天草五橋で九州本土と繋がっていることをお伝えした。ここで皆さんに想像して頂きたい。橋のメリット・デメリットを。
橋で繋がっているから便利 = 橋を通らないと渡る事ができない
この様に考えられないだろうか?
私が大学卒業後天草に帰ってきた頃の天草観光の課題は「一本道だから渋滞がひどい。渋滞のせいで観光客が来ない」「公共交通機関の利便性が低すぎる」「橋の上で事故が起きたら天草は出入りすら出来なくなる」などまるで昭和41年に開通後天草地域の振興に大きく貢献した有り難い存在である”天草五橋”が原因で観光客が来ないとホテル・旅館や飲食店など地元観光関連事業者は口を揃えて話していた。今から約20年前の事だが当時は今ほど高齢化が進んでいなかったし、インバウンドと言う言葉もなかった。都会の若者の車離れ、シェアリングエコノミーの概念すらなかった。だから全ての天草の人間が観光客はマイカーか観光バスで来るものと思い込んでいたのである。それから時は流れて7〜8年。九州新幹線の全線開業があと2年に迫っていた2008年12月地元では大きな話題で持ちきりだった。天草の中心本渡港と熊本市の熊本港を結ぶ高速船「マリンビュー」が原油の高騰が原因で休止が決まったとのニュースだ。
当時陸路でマイカーで2時間、路線バスなら2時間半かかる本渡〜熊本間を75分で結ぶマリンビューは渋滞に悩まされている天草において第3セクターの航空会社「天草エアライン」と並んで数少ない渋滞に左右されない公共交通だった。それがなくなることは天草、特に下島の住民にとっては死活問題であり、経営悪化が表面化した数年前から存続に向けて地元自治体が年間5,000万円の補助金を出したり、住民の利用を促進したりとあの手この手で残す手段を模索していたが万策が尽き休止が決定した。
マリンビューを運航していたのは熊本フェリー株式会社。本渡〜熊本間の他に熊本〜島原を結ぶ高速カーフェリー「オーシャンアロー」を運航しており、バス事業を中心とした企業グループを構成する地場企業の雄「九州産交グループ」の関連会社だ。その九州産交グループが支えきれなくなった航路の代替航路として就航したのが当社の本渡〜松島〜三角航路「天草宝島ライン」なのである。その当時に当社は従業員数が10人に満たない本当の零細企業。そんなちっぽけな会社が九州産交グループでさえ難しいと判断した航路の代替航路を運航するのである。しかも航路を地元の要望が強い熊本港では無く上天草市松島(前島)を経由して宇城市三角港と結び、三角駅からJR三角線と接続運航をすると言うのである。そりゃ全ての人が反対したり、失敗を予想するのは当たり前で無謀にもほどがあると言われてもしょうがない。しかし、私は就航に踏み切った。それは勝算があったからだ。
理由その1 天草の最大の弱点を逆手に!
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