アパートメントホテルの地方での可能性
先日、インバウンド需要の回復に伴いアパートメントホテルが活況を呈しているとの記事を読んで色々考えることがあった。都市部と地方では全く前提条件が違うので、地方側の目線で書いてみたいと思う。
アパートメントホテルとは
そもそも多くの日本人にはまだまだ馴染みがないアパートメントホテルとはどのようなスタイルの宿泊施設のことを指すのだろうか。広義の意味で言えば下記の引用にある通り長期滞在の際に利用する宿泊施設のこと。
近年流行りつつある観光客向けアパートメントホテルは民泊よりグレードが高くホテル同等以上の設備を誇るものが多く、快適に過ごすことができる。古民家や別荘を改修したラグジュアリーなグレードの一棟貸しタイプも出てきており様々なスタイルのものが見られるようになってきた。また、宿泊日数も長期ではなく1泊〜3泊程度が主流で1週間以上の滞在は少数派と言えるだろう。
ターゲットは誰なのか
当社は2019年よりシークルーズハウスナビオというアパートメントホテルを運営している。当方のターゲットは勿論インバウンドを中心に考えていたが、旅慣れした都市部から地方を長期滞在で訪れることができる層を狙って開業している。
当社も4年近く運営してきて上記にあげたような客層がアンケートからも見えている。インターネットの発達に伴い、スマホで地元で流行っている飲食店を見つけることが容易になり、以前のように1泊2食付きの旅館に拘る必要性は全く無く、自身の嗜好に応じて食事場所をチョイスする時代になっている。
例えばインバウンド客が日本を5泊6日で旅行すると仮定した時に毎日、旅館の会席料理を食べることができるかと言えば否であり、東京や大阪などの大都市だけでなく地方でも県庁所在地のある中核都市のシティホテルやビジネスホテルが好まれる理由は交通の利便性や価格だけで無く、泊食分離が可能かつ食の多様性があることも大きいと考える。日本人は基本的に食に対して宗教や思想での制限がある方は少数派だが、海外ではムスリムのハラールもそうだし、ビーガン・ベジタリアンなど食べられるものに制限がある食生活を必要とする方は全く珍しくはない。そういった意味でも素泊まりが前提のアパートメントホテルに対するインバウンド需要は旺盛にあると考えることができる。そういった食の面だけでなく、インバウンド客はジャパンレールパスをはじめとする周遊きっぷの利用者も多く、九州では博多駅周辺を拠点として新幹線・観光列車での移動はコロナ禍前から定番であった。その恩恵を最も受けていたのが博多と湯布院であり、昨年10月の水際対策撤廃後に大きくインバウンド客が戻ったのは九州では福岡県・大分県が圧倒的で特に博多駅周辺・太宰府・柳川・湯布院・別府はコロナ前に迫るような賑わいを見せている。JR九州関係者に聞くと久大本線の観光列車「ゆふいんの森」は昨秋より非常に好調でかなりの乗車率を記録しているとのこと。実際に観光庁が発表した2022年12月の都道県別外国人延べ宿泊客数は大分県は東京都に次ぐ全国第2位の回復を見せていることがデータからも裏付けられている。こう言ったことからも公共交通の利便性はインバウンド客の集客に大きく影響すると言えるだろう。
一方、インバウンド客だけで無く国内客の志向も変化して近年変化して来てる。民泊もそうだがバケーションレンタルと呼ばれる1棟貸しの宿泊施設も増加傾向だ。古民家を改装したものや使用していない別荘を改修したものも多く見られ、当地上天草でもバブル期に建てられた遊休別荘がここ数年宿泊施設として利活用される事例が増えて来ており、保健所の担当者が言うには旅館業法における「簡易宿所」の申請は熊本県内でも天草がダントツだそうだ。コロナ禍で非接触かつ自然豊かな場所が好まれたことも追い風になったと言える。利用者としてはファミリーや友人同士の利用が大きくみられ、従来の日本で圧倒的主流な1泊2日ではなく、施設を拠点として3〜5泊程度の中期滞在が増えて来たのもコロナ禍の特徴と言える。また、リモートワークやワーケーションの浸透もアパートメントタイプの宿泊施設が人気となっている要因と言えるのでは無いだろうか。
また、シークルーズハウスナビオの宿泊者アンケートの結果を見ると宿泊動機で意外と多いのが「ゆっくりしたいから」。一般的な観光ホテルは美味しい食事や手厚い接遇がある反面、連泊にはあまり向いていないのが実情。近年人手不足から1泊朝付き又は素泊まり等のビジネス系プランが増えてはいるものの主流は1泊2食付き。コスト・食事を考えると連泊客がアパートメントを好むのは当然の結果だと言える。また、ここ10年ほどは物見遊山の周遊型のスタイルからじっくりと地域に滞在し、地元住民と触れ合うスタイルへ移行しつつある。当施設は無人型なのでスタッフを気にする必要もないし、キッチン付きなので自炊も可能。長期旅行において外食が続くと食事量や内容を調節したくなるもの。そういった意味でも自分のペースで滞在が出来るアパートメントタイプは連泊に向いていると考える。
その他、意外と需要があるのは「帰省」。夫の実家に泊まりたくない妻、そもそも実家に泊まる部屋がない、はたまたコロナ禍で高齢の両親との接触を減らすなど帰省は様々な需要が発生していることが想定できる。夕食は家族・親族と一緒に取るが宿泊は別途手配することでゲスト・ホスト双方の負担も減らすことができる。観光ホテル・旅館でも近年は布団からベッドが主流になり、意外と4〜5名が一部屋に泊まれなくなってきた。そういった意味でも一度に4名以上宿泊可能な施設が多いアパートメントホテルは家族連れのニーズを満たしているとも言えるだろう。
意外と知られていない課題
地方におけるアパートメント・民泊や1棟貸しタイプの宿泊施設では落とし穴がある。それは自然景観やビューを意識しすぎて不便な場所にあることで食事や買い物の選択肢を著しく制限してしまうことだ。たとえば男性グループでみんなが飲酒が大好きだとする。車で外食に行っても一人がハンドルキーパーにならざる得ない。なぜなら上天草もそうだが田舎では代行運転業者が年々減少しており簡単に捕まら無くなって来ている。この記事を書いている2日前も私は代行が捕まらずタクシーで帰り、翌朝妻に飲食店へ車を取りに行くために送迎をしてもらうことになった。都市部のアパートメントホテルは繁華街近くにあることも多く、徒歩で飲食店やコンビニに行くことは容易だが田舎ではそうではない。地方でアパートメントや1棟貸しタイプの宿泊施設を利用する際は立地をしっかりと確認して予約をすることをお勧めする。尚、シークルーズハウスナビオに関してはその点を重視して徒歩圏内に複数の飲食店とコンビニやスーパー、ドラッグストアなどある場所を意図的に選んでいる。アンケートにも「歩いて食事に行くことができたので安心した。」「コンビニが近くで便利だった」などのコメントを見かけることも多い。
アパートメントホテルは旅の可能性を広げる
色々書いて来たが、アパートメントホテルは地方において旅の可能性を広げると結論づけても問題ないと考える。1泊2日ではその地域で使える時間はせいぜい宿泊日の午後と翌日の午前中ぐらい。3泊〜4泊の連泊となると一気に幅が広がる。
私は海外に旅行する時はこんな感じの旅行をすることが多いのでホテルよりアパートメントを好む。地元の食やお酒、隠れたスポット、自然体験など本当に満足度が高い自分が好むような旅行を体験することが可能だ。ここでコロナ禍前に訪れたイギリス旅行の一部をご紹介したい。アパートメントホテルで連泊したからこそ自由度の高い旅を過ごすことができた。
対極なのが日本人高齢者が好む行程を詰め込んで周遊するスタイルの旅行。実際にメディア系と呼ばれる新聞広告やDMが集客手段の募集型ツアーは本当に行程はビッシリ。しかも無料で見学可能なところをひたすら巡る。食事はビュッフェ形式が大人気。好きなものを好きなだけ食べたい。こんな旅行をするのは日本や台湾、韓国などの東アジアの中高年独特だと言えるかもしれない。これらの旅行が悪いとは言わないが、地域の表面しか感じることが出来ないのは間違いないだろう。滞在型の旅行は地域を深く理解することにも繋がる。
最後に地元のホテル経営者の先輩方を強引に誘ったハワイ旅行のエピソードを書いて締めくくりたいと思う。2018年12月にハワイ・ワイキキのコンドミニアムに私を含め中年男性4人で4泊過ごした。早朝のダイヤモンドヘッド登頂やセグウェイでの街巡り、ドルフィンクルーズにチャーターでのプライベートツアー、ゴルフなど様々なアクティビティを体験をして頂いた。また、毎日2〜3時間の昼寝タイムや様々なホテルや飲食店での朝食、昼からワインを飲み、夕食後は毎晩ウィスキーボトル1本空けるほどお酒を飲みながら仕事やプライベートについて語り合う。最終日は仁川でのトランジットが間に合わず韓国でもう1泊するトラブルはあったもののとても賑やかで楽しい旅行だった。その際に先輩方から帰国後言われた言葉がとても印象に残っている。
残念ながら第2回を計画しているところでコロナ禍になりまだ実施できていない。コロナ禍も落ち着き海外旅行に行きやすくなった今年こそは第2回を企画して先輩方と楽しい旅へ出かけたいと思う。アパートメントホテルは間違いなく地方の可能性を広げる!と書いて締めくくりたいと思う。
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