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「何もしない」から生まれるもの

隔離期間の後半は、何もしないことを感じる時間だった。
普段の生活の中では、何もしていないことに罪悪感を覚えてしまいがち。けれど今回は、一応のルールに従ってのことだから、変な罪悪感なしに過ごせた。
それゆえ、余計な思考に囚われることなく、感情をざわつかせることもなく、静かに心と向き合った。
自然と、いろんなことが心に浮かんでは消えた。

「何かをしなければならない」との思い込みから「何をすべきか」を考える発想は、7年前に捨て去った。
代わりに、「本当は何をしたいのか」という問いに答えようとしてきた。
しかしそこには、いつの間にか「本当にしたいことをしなければならない」という発想が入り込んでいたのかもしれない。
それはちょっと窮屈で、なんだか重い。
「本当に」と言えるだけの深みに根ざしたものか、「したい」と言えるだけの熱量があるのか、といった生真面目な壁を勝手に作っている。
そして、「〜しなければならない」という呪文に侵されている。

もう一度、原点に立ち返ってみよう。
「僕たちはただ、人としての経験を楽しみに来ている」というのが僕の原点。
「死ぬときに後悔しないように」「死ぬときに『生き切った』と言えるように」という言い方もできる。
勇気を出して、さまざまな経験したときにそんな死に方ができるのだろう。
「勇気を出して」というところが一つの鍵。
賢明な選択かどうかよりも、勇気ある選択を。
勇気ある選択が生まれるのは、不安や打算を超えて、素直な心の衝動に従ったとき。
「さまざまな経験」は、そういうところに現れる。

とすれば、「本当にしたいこと」かどうかを深く追求する必要はない。
「本当に」かどうかはさておき、シンプルに心が(あるいは魂が)求めているかどうか。
では、「心(魂)が求める」とはどういうことか。
はたして、「やりたい」と感じる動機は問題だろうか。
僕はずっと、「魂の喜び」「ワクワク感」みたいなものを指標にしてきた。
逆に、「みんながやっているから」「他人を見て羨ましいから」「悔しいから」「優越感を得たいから」「認めてほしい、評価してほしい、つまり承認欲求を満たしたいから」「世のため人のためになる、いいことだから」といった動機に基づくものは避けてきた。
これらを一括りにはできないが、ざっくり言えば、個人的な過去の反省(反動)もあったし、不安やエゴの歪みから出発した行動で、心が満たされるとは思えなかったから。
しかし考えてみれば、人の動機なんて、そんなに単純なものばかりではない。
いろんな動機が複合していることも多いし、消費行動を伴うものであれば、知らないうちにコマーシャリズムのマインドコントロールにかかっていることも多い。
そもそも、「勇気を出してさまざまな経験をする」のが目的であれば、動機なんてなんでもいい、と言うこともできる。

もしかしたら、知らないうちに、「間違ってはいけない」「正しくあらねばならない」という、捨てたはずの呪縛に侵されていたのかもしれない。
動機の純粋さを求めるあまり、「正しい動機」にこだわり過ぎていたのかも。
しかも、いつの間にかその呪縛は、動機のみならず行動にまで影響を及ぼしていたのかもしれない。
つまり、「正しい行動」、あるいは、誰かの目線で、受け入れられる許容範囲内の行動に制限しようとする罠にかかっていたのかもしれないのだ。
「誰か」とは、親かもしれないし、世間一般かもしれないし、身近な誰かかもしれない。

さらに言えば、いろんな次元の問題を、混同していたのかもしれない。
世俗に生きる人間である以上、エゴからは離れられない。
そしてエゴもまた、さまざまな経験の源。
排除できないし、する必要もない。
あとは個人の気質や好みの問題。
エゴが求めることを選択してもいいし、どんなエゴを選択するかも人それぞれ。
そこでの経験が、また違った動機を生み、さらに違った経験へと導くだけ。

そしてそれとは別の精神的な次元で、人はより良く生きることを望み、魂の成長を望んでいる。と僕は思う。
たとえばそれは、エゴに翻弄されない在り方。愛と感謝と喜びに満ちた在り方。
細かく分ければ、他にももっとたくさんの次元があるのだろう。
そのたくさんの次元のそれぞれで、異質な「やりたいこと」があっていい。
それはたとえば、一見一貫性のない多種多様な活動(あるいは不活動)をするという形になるかもしれないし、何か一つの仕事の中で、さまざまな自分が現れる形になるかもしれない。
もちろん時の流れとともに変化していっていい。

そう考えると、結局、誰もが生きている普通の生活の中に、すべての機会が存在していることになる。
あとは、できるだけ自覚的になり、ときには勇気を出して、シンプルに心のまま生きればいい。

何もしない隔離期間中、そんなことが頭に浮かんできて、少し自由になった。


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