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手と手にしよう(MANO A MANO)

ドンドン(clap) ドンンドン ドドドンドン(clap) ドドン。

23分の短編映画。YouTubeに、予告編ではなく本作品の冒頭2分間が公開されている。この2分間に、すべての設定と伏線がギュッと詰め込まれていることに感嘆した。

ポールをクルクルと降りてくる男——ポールを使った芸をやるMahdiというモヒカンの男が、キーパーソンの一人だ——そして、アカペラの澄んだ歌。

MANO A M∀NO
ÉCRIT ET RÉALISÉ PAR LOUISE COURVOISIER

という3秒だけのシンプルなタイトル。うしろの単語のAが逆転している(理由は最終シーンで明らかになる)。

この頭30秒の美しさが本当に好きで、また観たいなと思っていたところまさかの公開映像を見つけ、この記事を書きながら何回もリピート再生している。音楽は、スイスの4人組インディー・フォークバンド Quiet Island手によるものだ(劇中歌の配信は残念ながら見つからない)。


このあとカメラは「カオス」をきわめるサーカス団の楽屋を慌ただしく追いかけていく。

華美で奇抜な衣装も目につくけれど、より目を引くのは演者の「筋肉美」だ。男女共通して、鍛え磨き抜かれた身体を「売り物」として芸をつくっていく。屈強で毛深い「ザ・ヨーロッパの男」然とした主役のひとりルカ。冒頭1分半に、ぴりぴりした緊張感とともに登場する、もう一人の主役アビー。

字幕翻訳を手がけられた水次祥子さんによれば、フランスにおけるサーカスは、"日本でいう相撲みたいなもので、国民の娯楽だ" という。私たちはステージに立つ演者の視点で、サーカスという舞台を味わう。逆光で見えない3階建ての客席から降り注ぐ、拍手と手拍子の圧に対峙する。



短編映画 "MANO-A-MANO(マノ・ア・マノ)" は、フランス・リヨンにある映画学校CINÉFABRIQUEの学生であった監督ルイーズ・クルボアジェが制作した作品である。先日、なら国際映画祭2020の3日目、『カンヌ映画祭招待作品』プログラムにて、日本初公開された。私がこの日観た8本の短編の中で、飛び抜けて好きな作品だった。


本作品は、カンヌ映画祭2019「学生部門」での一等賞(First Prize)に輝いた。学生部門での総エントリー数2000件を勝ち抜いた最優秀作品。「学生」と言うと、日本ではハタチ前後の、未熟さの残る作り手を想像しがちだけれど、会場での説明によれば、海外における「学生」には社会人入学の大学院生も多く含まれる。「学生という立場でなければ映画を制作できない国」もある中で、多くの実力派が揃っているという。学生部門の賞を登竜門として、新たに長編の道へと進んでいくそうだ。


Mano a mano という表現は、スペイン語で「手と手」(英語でhand to handに相当)という意味。派生して、one on oneに近い《1対1、直接対決、一騎打ち、サシの勝負》という意味で使われることもあるようだ。(参考

絶妙なタイトルだなあ。タグラインは次のように書かれている。

サーカス団のアクロバットデュオ、アビーとルカは恋人同士。そんな2人の愛にある日、亀裂が生まれ始める。次の街へと向かうキャンピングカーの中、2人はお互いの溝を埋め、信頼を回復させようとする。

実は全部見終わっても、「信頼を回復させようとする」試みが、どうして最終シーンの着地に至るのかが微妙にわからないのだけれど……(直前まですれ違ったままじゃん。。まあこの余韻こそが面白いところだし、見れば「そうだよね!」ってちゃんと分かる人もいるだろう)。

しかし、全編を通じて、アビーとルカの「サシの勝負」こそが主題となることは明らかだ。

ここに、言葉がほとんど介在しない。表情だけでほとんど全てが語られる。

16:35辺りで、実際ルカが mano a mano と言っている箇所がある(アビーの脚を手で支える技に失敗し、「手と手でやろう」という、ここは文字通りの意味に聞こえるが、これは最終シーンに効いてくる)。

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「無表情の芸術」とでもいおうか。

緊張、不安、嫌悪、憤怒、達観、決意。アビーの表情はずっと固いままだけれど、何もないようでいて、それぞれのシーンで多くを語っていると思う。目が泳いだり、表情がころころ変わったりはしない。

無表情の中で、突然、すこしだけ出現する「笑顔」に射貫かれる。

一方のルカも、「喉元まで言葉が出かかっているのに、言わない」というシーンが続く。言わないからこそ、観る方は「言葉にならない何が表情に表れているのか」を、全力で読み取ることになる。


会場で観た翌日に、Vimeoで500円レンタルされていた版をもう一度観た。こうした短編映画は、どのように日本国内で「継続的に観られる状態」になるのだろう?

オンラインでも劇場でも、公開されたらぜひチェックしてみて欲しい。


※トップ画、文中の挿入画像、下のポスター画像は、賞の選出母体であるcinéfondation(シネフォンダシオン)のサイトからの引用です。

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