夢の話 宇宙のともだち 謎の手紙

ある日僕はいつものように帰り際に郵便受けを覗くと一通の白い封筒が入っていた。
差出人の名前は書いておらず、そこには知らない街の切手と見たことのない押印と封筒の裏の右下にとても小さくptsol42と書かれていた。
かろうじて読めるくらいそれは小さいかったのでもしかしたらptso142かもしれないしptsol4zかもしれなかった。僕はとりあえず家のドアを開けてなかに入り、カーディガンを脱いで手を洗い窓を開けてソファに座った。春が終わりそうだというのに外の風が妙に冷たかった。封筒をちぎって中から丁寧に折り畳まれた四角いかみを引っ張り出してみる。そして驚いた。そこには、知らない文字が長く羅列して1枚の紙をいっぱいに埋めていた。そしてそれは二枚重なっていた。見たことのない記号のような言語。これはこの地球のどこかの国の言葉なのだろうか。それにしても見たことがない、もしや宇宙人からのメッセージなのだろうか。はたまたただのいたずらか?いたずらにしてはセンスがある。ぼくは何か遊び心のある隣人の仕業なのだろうとそのときは軽く受け止めた。
次の日、いつものように郵便受けを覗くとまた白い封筒がひとつ入っていた。昨日と同じ切手と変な押印。押印はト音記号を右に傾けたような形相をしていた。裏にはまたptsol42と書かれていた。ぼくはその場で封筒をちぎって中身を取り出すとこれまた、見知らぬ言語の文字が紙一杯に埋められていて、それが二枚綴りになっている。誰が書いたのだろうか?いたずらにしては上クオリティすぎることにきづいた。そしてこのようないたずらをするような知り合いは僕には思い当たらなかった。もし誰か知らない人が僕に宛てて書いたのだとしたら、何の用だろうか。僕にはその暗号のような手紙を解読する術がなく、でもどことなくその直筆の文字列は書いた人の温厚な人柄が滲んでいてぼくに情を持たせるような紙面だった。どうしようかと紙面の全体をぼんやりと眺めているうちに次の日になった。僕はさすがにもう懲りてるだろうと郵便受けを覗くと、はぁ、また白い封筒がひとつ入っていた。ぼくはやりきれない気持ちになり目の上と下を同時にしかめて封筒から中身を取り出して見るとやはり記号のような文字列。ぼくは昨日と一昨日にもらった2通の手紙と今日もらった新しい手紙をテーブルに並べて眺めてみた。するとそれらはどれも同じ言語であることは確実で、ある一人の書き手によって書かれたものであることも確実で、ただひとつ違いと言えば、全部違う内容が書かれていた。手紙の書き出しはどれも違う文字から始まるし、ひとつひとつの文章の長さもそれぞれ異なり、3通とも内容が異なることを異言語ながら僕には分かった。ぼくには謎を謎のままにする気質がある。小さい頃からそうだった。僕の上履きがある朝急になくなっていたとき、友だちに探そうと言われても探さないと首を振ったし、先生に心当たりを聞かれてもぼくはそっぽを向いて算数の掛け算にいそしむふりをした。僕の持ち物を隠す人間がいることを僕はきっと勘づいてはいたのだけれど。僕は手紙の差出人とその意図について不思議に思いながらも追求することを忘れていた。それから二週間、毎日手紙が届いた。そして全部ちがう文章の内容だった。僕はその日、いつものように郵便受けに置かれた白い封筒を手にとって決意をした。こんなにも献身的に毎日手紙を送りつけるとは相手が宇宙人だとしても僕に対して相当な好意か相当なメッセージがあるに違いないと。
僕は知らない言語を学ぶ術がなかったので知らない言語で長文を綴ってくる奴の無礼に対抗して僕も奴が知らないであろう僕の国の言語で返事を書いてやろうと思った。

ptsol42様

いつもお気持ちのこもったお手紙ありがとうございます。

おかげでこの二週間毎日ワクワクする生活を送っております。どうやら、あなたの国の言語は僕のそれとは異なるようで、僕にはあなたがこの二週間書いてくれた手紙の内容がまるで理解できません。けれどもあなたの字体からあなたが僕に向けて、決して悪い気を持っているわけじゃなく、なにか優しいもの、たとえば友だちになって欲しいとか、手伝ってほしいことがあるとか、暖かい気持ちがこもっているのだということが僕にはわかります。そして僕はあなたの意思を受けとめて優しく包み込んであげるつもりでおります。僕はあなたとよき友人関係を築き、意思疎通を測りたいと願っております。そのためにあなたの国の言語を学びたい、もしくは僕の国の言語、今僕が書いているこの言語をあなたに教授したい、もしくはあなたは僕の住所を知っているみたいなので直接会いたい。何にしろ僕はあなたの書いた手紙の内容が気になってしかたがないのです。一度、ぼくに分かるように手紙の内容を教えてください。

p.s.素敵な絵柄の切手ですね。燃えているのか沈んでいるのか分からないような街の通りの風景。街灯も倒れていますね。行き交う人々も皆笑っていて幸せそうです。あなたの国はきっと平和な世界なんでしょう。





僕は持ち合わせの茶封筒にこの手紙を2つに折って入れて僕の街の切手を貼って宛先にはptsol42様とだけ書いて半袖の寝巻きのまま、ある夏の朝にポストに出した。そしてそれ以来、郵便受けに謎の手紙は届かなくなった。