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【連載小説】「さくら、舞う」 #3 好きな人のために
前回のお話:
食事を共にする間、さくらはほとんど口を開かなかった。やはり何かあると察したユージンは、麗華の歌の力でなんとかならないかと提案するが、本人が変わろうとしなければ問題は解決しないと言い切られてしまう。しかしそう言った麗華もさくらを助けたいとの思いから、自宅に招いてバンドメンバーと年越しすることを思いつく。
自宅に招かれたさくらは、既に酔いしれているサザン×BBの六人との温度差に一人、しらけていた。深夜まで続く宴会でウトウトしていると、麗華に無理やり音楽スタジオに連れて行かれ、歌を聴かされる。美声に聴き入っていると、拓海と智篤に声をかけられアドバイスをもらう。酒の力を借りて普段は出来ないことをやってみるのも必要だ、と。歌が終わり、酒飲みの会話に巻き込まれたさくらは、自分だけしらふでいるのが馬鹿馬鹿しく思えてきたのだった。
5.<ユージン>
女性陣がスタジオを出て行ったあと、無性にドラムを叩きたくなったオレはスティックを持つなりめちゃくちゃに音を鳴らした。
(くっそぉ……。あんなにいい声聴かされても感想一つ言えないのか、オレは……!)
麗華さんの歌は最高だった。酔っ払っているとは思えないその美声に酔いしれたのはオレの方だってのに、スタジオを出て行く麗華さんを引き留めることすら出来なかった。
息が切れて音を鳴らす手を止める。
「馬鹿だなぁ、兄ちゃんは。そんなに悔しいなら、今からでも部屋を出てさっさと告白して来りゃいいのに」
部屋の隅で聴いていたリオンが言った。すぐに返事をしなかったからか、リオンはため息をつく。
「もしかして、この二人に遠慮してるの?」
この二人、とはもちろん拓海さんと智さんのことだ。どういうわけか、二人も部屋に残ってオレのつたないドラムを聞いていたようだ。
「……るせぇ!」
二人の前ではどう返事していいかも分からず、そんな言葉しか返せなかった。案の定、二人に絡まれる。
『ユージンは麗華のことが好きなんだろう? だったらその氣持ちを押し殺しちゃダメだぜ。たとえ俺らがライバルだろうがな』
「……さっき、オレをシバいた人のセリフとは思えませんね。そりゃあ、好きは好きですけど、オレが好きなのはなんと言ってもその声。それに、麗華さんと相思相愛の兄さんに言われてもちっともその氣にはなりませんよ」
「好きが聞いて呆れるな。そうやって付き合えない理由を口にするってことは、お前のレイちゃんへの想いはその程度ってことだよ」
智さんの言葉がグサリと刺さった。思わず睨み返すと、智さんは小さく笑う。
「僕を見てみろよ。三十年越しに愛を告白したが、拓海が生還したことで結局想いは成就せず、だ。にもかかわらず、未だレイちゃんを口説き続けてる。別に、こいつが死んだらチャンスが巡ってくると思ってるわけじゃないぜ。僕はもう、自分の想いをうちに閉じ込めないと誓った、だから懲りずに愛を囁き続けてるのさ。……こんな僕を格好悪いと思うのはお前の自由だ。だけど、好きな女に想い人がいるからって理由で身を引き、自分をいじめるのは僕は賛成しないね。将来的に、こういう男になっちまうからな」
酔っているとはいえ、まさか自分の失敗談を、仮にも恋敵のオレに語ってくれるとは思いもしなかった。
「……っていうか、諦めの悪い智さんのこと、拓海さんはどう思ってるんです?」
静観していた拓海さんに問うてみる。兄さんは少し考えてから手を動かし始める。
『あー……。確かにこいつがこんなにも執念深い男だとは思ってなかったが、もとはと言えば俺がこいつに麗華のことを頼もうとしてたから、このまま好きにしてくれって感じだけど』
「えっ?」
『むしろ俺の方が未練がましかった、って言ったら驚くか? 死に瀕してから麗華とやり直そうとして近づいた。でも、死期が近い俺には麗華を幸せにすることが出来ない。ならば、未だに想っているこいつにあとを託すのが自然な流れだろう?』
「んなこと言ってて生き返ったんだから、どこまで僕に託す氣があったのか疑問は残るけどな。ま、正直な話、もし拓海が死んでいたらレイちゃんを愛するどころじゃなかっただろう。そのくらい、こいつの存在は僕にとって大きいってことだ」
酔った勢いで飛び出した二人の本音を聞き、改めて二人が固い絆で結ばれていることを知る。
「……そんな話を聞かされたらますます想いを伝えづらいじゃないっすか」
やっぱり、勝てない勝負はしたくなかった。ところが智さんはこう続ける。
「ミュージシャンなら……同じバンドのメンバーなら……一ミリの可能性に賭けるくらいの氣概を持ってくれよ。僕とレイちゃんが拓海の生還を諦めなかった時のように。強く信じれば願いは叶う。僕は身をもって体験しているから分かる」
その言葉には説得力があった。事実拓海さんは、声は失ったもののすっかり元氣になったし、おまけにうんと若返ってしまっている。
「……恋敵から、自分たちの愛する人に想いを伝えろと言われるなんて。常識ではあり得ないことですが、そこがまたお二人らしいですね」
『俺たちに常識は通用しないぜ』
「ああ、その通り。常識的に生きたいなら今からでもバンドを離れてくれ。それがお互いのためだ」
ダメ押しの言葉をもらい、とうとうオレも観念した。
「……認めりゃあいいんでしょう? オレが好きなのは声だけじゃなくて彼女のすべてだって。そこまで言うならお二人に負けないように音楽のスキルをアップさせて、最後には振り向かせて見せます……!」
「ひゅー! 兄ちゃん、ついに宣言しちゃった! この前はやめろって言ったけど、ガチで年の差を乗り越えようってことなら、おれは応援するよ」
「……じゃあ何で笑いながら言うんだよ? 本氣で応援してくれてるようには思えないんだけど!」
突っ込みを入れるとリオンは「悪い悪い、そんじゃあ兄ちゃんが想いを伝えられるようにスキルアップに付き合うよ」と言って電子鍵盤の前に立った。
「兄さんたちも付き合ってよ。ライバルになれって言ったのは二人だろう?」
「そうだな……。弾いてりゃあそのうちに様子を見に戻ってくるかもしれない。そうしたら想いを伝えるチャンスだ」
智さんの言葉にドキリとする。
「え、想いを伝えるって、告白するってこと……? ここで……?」
『しないのか? 黙ってるのは構わないが、それじゃあ麗華にお前の氣持ちは伝わらないぜ?』
拓海さんまでそんなことを言うので、少しばかりカチンときた。
「……二人がオレに告白させようとするその意図は、自分らが圧倒的に上だと思ってるからなのでしょうね。お前に勝ち目はない、麗華さんは絶対にお前には振り向かないと決めつけてる……。だったら、その余裕を打ち砕いてみせますよ。お二人の鼻を明かしてみせます」
「そう来なくっちゃ、面白くない」
智さんはにやりと笑い、マイクの前に立った。
「せっかく男ばっかり集まったんだ。いつもと違う雰囲氣で練習しよう。そうだな……。今日は氣分がいいから僕が『シェイク!』を歌おう」
「えっ、セナがボーカルの『シェイク!』を?」
「若いライバルが出来た以上、僕も新しいことに挑戦しないとね」
そう言って一人、先んじて「シェイク!」のイントロを鼻歌で歌い始めたのだった。
6.<さくら>
「あれ? 男性陣は?」
てっきり一緒に宴会の続きをするもんだと思っていたが、リビングに戻ってきたのは女だけ。周りをキョロキョロすると、麗華ちゃんに揶揄われる。
「あー、もしかしてあの四人の中の誰かが氣になるんでしょう? 誰なの? ほら、白状しちゃいなさい」
麗華ちゃんはにやりと笑い、缶入りカクテルを私に手渡した。
「そういうつもりで言ったんじゃなくて、ただ……一緒にいた方が盛り上がるし、楽しいのかなと」
思っていることを素直に告げるも、麗華ちゃんとセナちゃんには言い訳に聞こえたらしい。
「それじゃあさ、さくらさんがこれを飲み終えても戻ってこなかったら様子見に行こうよ。音楽スタジオは飲食禁止だからー。……ってことで、すぐに飲んじゃってね」
「……それじゃあ、いただきます」
ひとくち、飲み下す。
「……これがお酒? まるでジュースのよう」
これならおいしく飲める。ちょうど喉が渇いていた私は一氣に飲み干してしまった。
「……めっちゃおいしい! 何で今まで飲まなかったのかな。人生、損してた」
「でしょう! ほら、まだまだあるから、遠慮しないでー」
麗華ちゃんが味の違う缶入りカクテルを次々持ってくると、セナちゃんの方はおつまみをテーブルに並べ始める。
「それじゃ女子会、開始ー!」
テンションマックスの二人に乗せられ、女だけの酒席が始まった。
*
こんなにもいい氣持ちになったことは今までに一度もなかった。常に誰かの目が氣になってビクビク生きてきた私。だけど今は、そんなことはどうでもいいと感じるほど開放感に包まれている。
痩せた身体を維持しようと制限していたお菓子にも自然と手が伸び、食べ出したら止まらない。余計なことを言って恥をかかないように我慢してきた言葉も今日は解禁。氣付けば二人の恋バナを聴いて笑い、恋愛経験が一度もないことを暴露していた。
「誰も好きになったことがないなんて! だったら尚のこと、あっちの部屋にいる男子の一人と仲良くなっちゃいなよ。……って言っても、そのうち二人はアタシの兄弟だけど、さくらさんなら全然いいと思う!」
「えーっ! でも私、そんな目で見れないよ……」
「すぐには無理だろうけど、お兄ちゃんもリオンもいい子だよ。何ならアタシが話をつけてあげる。……まだ戻ってこないのかなぁ? じゃあ、こっちから見に行っちゃお。ね、ほら行こうよ!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って……!」
すぐにでもスタジオに行こうとするセナちゃんを引き留め、私は持参したカバンの中からスケッチブックと筆箱をつかみ、取りだした。
「何か、描きたい氣分。一応持って行かせて」
ひらめきは一瞬で流れ去ってしまう。だから前兆があった時は必ず手元に置いておくことにしている。それを見た麗華ちゃんは、私がなぜそれらを手に取ったのかすぐに分かったようだ。小さく頷く。
「さすがはアーティスト。アイデアはすぐに書き留めたいものね。あたしも紙とペンはいつも持ち歩いているわ。……さぁ、男子たちは何をしているのかしら? 開けるわよー」
麗華ちゃんが重たい扉を押し開ける。すると中から大音量の音楽が漏れ聞こえた。私たちはするりと室内に身体を滑り込ませ、すぐに扉を閉めた。
四人はそれぞれの楽器を手に共演していた。歌い手は智篤さん。四人は私たちの存在に氣付いたが、弾く手を止めることなく楽しそうに笑い合っている。
「わぁお! 智篤兄さまが『シェイク!』歌ってるなんて新鮮ー! うぅーん……! シビれるぅー……!」
セナちゃんが両頬に手を置いて歓びを表現した。麗華ちゃんも腕を組んで満足そうにリズムを刻んでいる。
(この雰囲氣、すごくいいな……。)
私はスケッチブックを開き、筆箱から鉛筆を取り出すとすぐにラフ画を描き始めた。描くのは四人の笑顔。似ているかどうかよりも、今日は雰囲氣重視。彼らからにじみ出る想いを描きたかった。
「……ほーら、言ったとおり。女性陣が聞きに来ただろう?」
歌い終わった智篤さんが、私たちの顔を見ながら言った。そしてユージンさんを立たせて背中を押す。
「んー? ユージンから何か話がある感じ?」
察した麗華ちゃんが一歩前に出ると、ユージンさんは深呼吸をして胸を張った。
「麗華さん、オレ……。もっともっとドラムが上手く叩けるように練習します。そして……麗華さんのために一曲作ってプレゼントします。もし……もしそれが氣に入ってくれたらオレのこと……好きに……好きになってくれませんか……?」
まさか目の前で愛の告白を聞くことになるとは思わなかった。しかし、恥ずかしがる私の横で、当の麗華ちゃんは大喜びしている。
「ユージン……! とっても嬉しいわ、ありがとう! うん、曲が出来たらちゃんと聴くわ。そして真面目に返事をする。……だけど、その前に一つ、確認させて。……ねえ、いいの? 拓海、智くん。熱烈ラブソングを作ってもらっちゃったらあたし、ユージンに鞍替えしちゃうかもしれないよ?」
「もちろん、そんなことにならないように僕らもちゃんと男磨きをするよ。僕らは今日からライバル。互いに競い合って高みを目指すつもりだよ」
「なるほど、男の子たちは本氣、って訳ね。そういうことならあたしも女磨きしないといけないわね。……どうする? あたしたちも競い合っちゃう?」
「えー?!」
思いもしない展開に大声を上げた私たちだが、セナちゃんはまんざらでもない様子で「レイさまに勝てたら智篤兄さまも振り向いてくれるかな……」などと呟いている。
「セナはやる氣満々ね。さくらちゃんは? ……ほー。氣になってるのはユージンかな? この絵の中で一人だけ、飛び抜けて描写が細かいところをみると」
麗華ちゃんが私のスケッチをのぞき込みながら言った。慌てて隠すが手遅れだ。
「えっ、何々、今、おれたちの絵を描いてたの? ちょっと見せてよ」
興味を持ったリオンくんも覗きに来る。観念して全員に披露すると一斉にどよめきが起こった。
「今の『おぉっ』てのは、何なんですか……?」
「たったの数分でこんな絵が描けるのか。すごい才能だな……」
「おれたちの特徴をよく捉えてるじゃん。すげえや!」
「確かに、オレの絵が一番よく描けてるかも……」
ダメ出しされるどころか、全員が私の絵を褒めてくれた。なのに、急に自信がなくなる。今まで一度もこんなふうに褒められたことがないからだ。
「本当のことを言って下さい。私の似顔絵は細部を描きすぎて氣持ち悪いって……」
「氣持ち悪くなんかないっす」
自虐的な私の言葉を否定してくれたのはユージンさんだった。
「っていうかむしろ……こんなに細かく描けるの、すごいっすよ。めちゃくちゃ才能あると思う。オレ、尊敬します」
「才能、ありますか……?」
ユージンさんに再度褒められ、ちょっぴり、こそばゆい。
幼少期に母親の似顔絵を描いたら、シミやシワは描かないでよ! と本氣で怒られ、それ以来ずっとこういう絵は描いていなかった。しかし今日はお酒を飲んだせいか、そんなことはすっかり忘れて手の動くままに描いていた。
私の絵をじっと見たあとでユージンさんが言う。
「……麗華さん、一つ提案があるんっすけど。さくらさんの絵、六人で出す最初のCDアルバムのジャケットに使えないっすかね? 多分ですけど、オレらに合った絵を描いてくれる氣がします」
「えっ?!」
思いがけない発言を聞いて顔がかあっと熱くなる。スケッチブックで顔を隠すが、セナちゃんに「さくらさん、顔が真っ赤ー」と揶揄われた。
「ユージン、ナイス提案!」
麗華ちゃんは指を鳴らした。
「ちょっと、麗華ちゃんまで……!」
「ちょうどね、新しいことを始めようとしていたところなのよ。六人の写真をジャケットにするのもいいんだけど、それじゃ面白くないよねって。さくらちゃんの才能も活かせるし、一石二鳥だわ。どう? さくらちゃんさえ良ければぜひ。社長に話してあげるわ」
「急にそんなことを言われても……」
スケッチブックを抱え、うつむく。
ものすごいチャンスだと言うことは鈍感な私でも分かる。だけど、怖い。前に進むのが。身体を震わせていると、麗華ちゃんに両肩を掴まれる。
「逃げちゃダメ。画家として成功したいなら話を受けなさい」
顔を上げたら目が合った。彼女の目は真剣だった。
「あたしもユージンも、あなたを助けたいのよ。放っておけないのよ。今日ここへ招いたのもそういう理由」
「…………」
「……即答できないなら言い方を変えるわ。あたしを助けてちょうだい。新しいバンドを組んだばかりのあたしたちには協力者が必要なの。……あたしたちだって、六人きりだったら全国に音楽を届けるなんて絶対に無理。会社に属して、格好いいデザインのCDを作って、宣伝しなければ、ファンの手には渡らない。特に、CDのジャケットはファンが購入を決める大きな要素になり得るもの。故に毎回揉めるところでもあるんだけど、それを今回はさくらちゃんに依頼したいの」
「そんな重要な役、私に出来るわけが……」
「ないとは言わせない。あなたには才能がある。あなたを子供の頃から見てきたあたしが断言するわ」
「…………」
「もし絵を描いてくれるのなら、あたしのグッズでもサインでも何でもあげるからさ。ね、おねがーい!」
麗華ちゃんがおねだりポーズで迫ってきた。そんな顔で迫られては断れるものも断れない……。
「麗華ちゃんの役に立てるなら……描いてみる。うまく出来るか分かんないけど……」
「ほんと?! ありがとう! さっすが、あたしの姪っ子! ん、もう、大好きよー!」
酔っ払っているからか、麗華ちゃんが私に抱きついた。
*
「ありがとうございます、ユージンさん。素敵な提案をしてくださって」
スタジオを出て仕切り直した私たち。それぞれがくつろいだりおしゃべりしたりしている中、私は先の話のお礼を言った。彼は肩をすくめて小さく笑った。
「まぁ、オレたち、麗華さんのことが好きって共通点がありますからね。姉さんが喜ぶことは何でもしたいじゃないですか。それに……」
「それに?」
「……オレのこと、ちゃんと見てくれて嬉しかったから」
数日前に会った時、ブラックボックスのユージンだと氣付いてあげられず、がっかりさせてしまった。それもあって今日は特に注目して見ていたのは確かだ。
「先日は失礼なことをしちゃったから、今日はその顔をしっかり目に焼き付けようと思っていたんです。……それでかな。ユージンさんのスケッチだけ力が入っちゃったのは。エレキを弾く姿も、ドラムを叩いてる姿も格好良かったですよ」
「あはは……。余計な氣を遣わせちゃいましたかね? エレキ歴は長いけど、ドラムはブランクがあってまだまだ修行が必要で……。格好いいって言ってもらえて光栄ではあるんですが……」
「そんなこと言ったら、展覧会で一度も入賞できない私の絵なんて褒められたものじゃないですよ……」
「……って言うかオレら、互いに謙遜し合ってる。こんなんじゃきっと、麗華さんに怒られちゃうだろうな」
ユージンさんはふっと笑い、それから近くで談笑している麗華ちゃんをちらりと見遣った。
「さくらさん。麗華さんが好きな者同士、力を出し合いましょう。そして、お互いに精進しましょう。姉さんのハートを掴むために」
「精進……。私、頑張れるかな……」
弱音を吐いた私に対し、ユージンさんはきっぱりという。
「好きな人のためなら頑張れる。でしょう?」
そうか、ここにいる全員が輝いて見えるのは、愛する人に振り向いてもらうための努力をしているから。そこに邪念は一切、感じられない。
私は端から諦めていた。氣付いてもらえなくてもいい、こっそりファンで居続ければそれで充分じゃないか、と。だけどそれでは何も変わらない。成長もない。だって頑張る動機がないんだもの。
ちょっぴり、心が揺れた。ユージンさんの言葉に。
「そうですね。好きな人のために……。私、頑張ってみます。麗華ちゃんが私を信じてくれるというなら、サザン×BBのイメージにぴったりの絵を……」
その時、急にイメージが降りてきた。慌ててスケッチブックを開く。色鉛筆も駆使しながら描いていく。それを、ユージンさんがのぞき込む。
「……やっぱりすごいっすよ。何だかオレもインスピレーション湧いてきちゃったなぁ。あのー、一枚もらえますか? 歌詞を書き留めたいんです」
集中力を切らさないよう、無言でちぎって差し出す。ユージンさんは「どうも」と言って頭を下げると、私の筆箱からそっと鉛筆を取り、自らも創作活動を始めた。
「……ふふ。あんたたちってやっぱり氣が合うのね」
横で麗華ちゃんが呟いた。
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