【連載小説】「愛の歌を君に2」#最終話 新たな野望を胸に
前回のお話:
46.<麗華>
数曲のアンコールにも応え、ライブは終了した。何もかもが夢のような一日。歌の力が、想いが、あたしたちを全力でサポートしてくれた。そう思わずにはいられなかった。
ステージから降りると社長があたしたちを出迎えるように立っていた。目が合うと拍手を送られる。
「聴かせてもらったわ、麗華の魂の歌を」
その表情は、あたしたちが歌う直前に見たものとはまるで違い、すがすがしささえ感じられた。
「素直に負けを認めるわ。……麗華たちの作る世界は優しいところね。愛にあふれてる。麗華が二人のもとに戻った理由が今、はっきりと分かったわ。愛する人のそばで歌えて麗華は幸せね」
そういうなり彼女は目を伏せた。
「最初から、麗華の言葉には力があると分かっていたわ。言葉と魂が一致したとき、聴いた者の目を覚まさせる力があると言うことも……。今回のライブで見事にそれを成し遂げたあなたのことを尊敬する。私個人としてはね……。だけど社長としての私は、アーティストという商品を売る努力をしなければならない立場。業界のルール、つまりは権力者が思い描く世界を実現させなければならない私が、麗華たちのような人間を容認するわけにはいかなかったのよ……。どんなに実力があっても、業界のルールを無視する人間は一生、表舞台に出られないか、最悪の場合、消されてしまう……。従順な人間しか生き残れないのがこの世界、いいえ、この国なのよ……」
「それが息苦しいって言ってんだよ」
智くんが突っかかると、社長は彼を睨み返した。
「この国ではなぜ生きづらいのか教えてあげる。自由がないからじゃない。多数派の放つ空氣が私たちを苦しめているの。そう、真の支配者は目に見えない『空氣』。権力者はそれを知っているからこそ多数派の意識をコントロールし、自分たちに目を向けさせないようにしてきたの。……だけど、それももう通用しなくなっているのでしょうね、これだけの人が集まったということは。私でさえ、あなたたちならきっとその空氣を変えられると思わずにはいられなかったもの」
「社長……」
「麗華のその歌声をもっと響かせなさい。そうすればこの国の空氣はきっと変わる。人々がそれを望んでいる以上、歌い続けるべきだわ」
「あたしの歌声を買って下さり嬉しく思います。ですが今日、自信を持って歌うことが出来たのはバンド仲間のみならず、あたしたちに協力してくれたすべての人のおかげです。幸い、天氣も味方になってくれました」
「そうね……」
社長はそう言うと、ステージに置かれたままの電子鍵盤をポロンと鳴らした。
「一体、誰の仕業だったの? 電氣が復旧したアリーナの巨大スクリーンにこっちの様子が映るよう細工をしたのは? あの瞬間、中に残っていたわずかなファンでさえあなたたちに釘付けになったわ。負けを認めたのはその時。いくらで契約したのか知らないけれど、優秀なスパイを雇ったものね」
「え?」
そんな細工が出来る人物など一人しかいない。あたしたちが視線を向けると、ショータさんは「一体何のことでしょうか?」としらばっくれた。社長は続ける。
「サザンクロスの歌詞をよくよく聴いてみて分かったわ。あれはあなたたちの魂の叫びであると同時に聴衆の想いでもある、それを代弁してやっているに過ぎないのだと。だからみんなあなたたちの歌を聴きたがるのだと。……ラストに『LOVE & PEACE』を持ってきたのはさすがね。あれで皆の心が一つになったのを肌で感じた。間近で聴けて良かった。素晴らしかったわ」
ショータさんは大いに顔をニヤつかせたが、あれは自分のプロデュースだとひけらかすようなことはしなかった。
「……それで、リオンの処遇はどうなるのでしょう? 何万というファンがブラックボックスが解散していないと知ってしまっても尚、事務所に属していると言い張るつもりですか?」
あたしが問うと社長は首を横に振った。
「リオンを含む新人を利用して聴衆をコントロールしようとした事務所の……いえ、ありのままに言えば権力者の計略は失敗に終わった。もちろん、あなたたちの悪あがきによって。これから次々と真実が明るみに出、不当な契約を交わされたアーティストは自由の身になるでしょう。当然ながら私は処分されると思うけど、あなたたちのライブを見届けた今となっては未練も後悔もない。今は、利潤を追求するあまり大きな声の言いなりになっていた自分を恥じている。リオンはもちろん、あなたたちにも酷いことをしたわね。本当に申し訳なかったわ」
「待ってくれ。今の口ぶりから察するに、僕らを潰しに来たのもリオンの引き抜きもあんたの考えじゃなかったってことか? まさか、この期に及んで言い逃れをするつもりじゃ……?」
「あなたが信じられないのも無理はないわ。でも、本当のことよ」
社長は智くんの言葉を遮って言った。
「あなたたちが見ているのは氷山の一角に過ぎない。さっきも少し触れたけれど、この国は権力者の声が色濃く反映されているの。彼らは、未来のためと言いながら必要以上に金を搾取し、都合のいい情報だけを流し、恐怖を与え、洗脳し、あなたたちを従順なペットにしようとしている。メジャーのミュージシャンや俳優を、その世界で生きる権利と引き換えに利用して私腹を肥やしているの。こんなふうになってしまったのは、数年前に時の権力者が変わってから。今や、メディア業界は完全にコントロールされている。中から変えようという気概のある人間がいない以上、あなたたちのような荒くれ者にすべてを託すしかない……。それが、この国の実情よ」
「そこまでご存じなら、なぜ自らが先陣を切って内から変革しようとしなかったのです?」
「前にも言ったはずよ。私はこの業界で繋がりを持ちすぎたと。今回のライブも上からの圧力によるもの。社長といえども私は階層構造の下位にいる人間、言われたとおりにするしかなかったのよ」
――そうやって言い逃れるつもりかよ。これまで散々俺たちの邪魔をしてきたくせによ。
拓海の手話を智くんが代弁すると、社長は彼らを睨み返した。
「綺麗事を並べるだけでは生き残れない。それがこの世というものだし、あなたたちがどう思おうが、私は私なりにそんな世界でもがきながら今日まで生きてきたことに誇りを持っているわ。とはいえ、ここ数年に限定すれば良心の呵責もあった……。ずっと、何かが引っかかっていた、モヤモヤしていた……。そんなとき麗華に、かつてのバンド仲間のもとで活動したいと言われたもんだから、驚くより先に裏切られた氣分だったのよ。若いころからミュージシャンとして成功者であり続けたあなたは、私の理想の姿だったから」
「ミュージシャンになる夢を諦めたあんたとレイちゃんを一緒にしないで欲しいね」
「もちろん、一緒ではないわ。だけど、ピアノを弾く道を諦めずに模索していたら違う未来もあったのではないか、と思ったのは事実……」
「なら、今からでも弾けばいいじゃないですか」
そう言ったのはリオンだった。社長は目を見開いた。
「とうに夢を捨てた私が……?」
「姉さんのことを羨んでたってことは、ピアノを弾く夢を諦めきれてなかったってことじゃないんですか? でも、今日のライブで目が覚めた。って言うか思い出したんでしょう? だったら、今からもう一度夢を見ればいいじゃないですか」
「リオンの考えに同意するよ」
オーナーが話に加わる。
「ここでセナと連弾してみて思ったことがある。ピアノはいつ弾いても感動があるし、聴いた人にも感動を与えられるものなのだと。だからもし、今日のライブで何か感じるものがあったのだとしたら、自分のためにピアノを弾いてみたらいいと思う。どうせ何年も弾いていないんだろう?」
「…………」
電子鍵盤を指し示された社長は恐る恐る椅子に座ると、ぎこちなく指を動かし始めた。しかしその動きは次第になめらかになり、数分後には勘を取り戻したかのように弾いていた。
「……若いころに作曲したのに、まだ覚えているものね」
「それは身体が夢を追っていた頃のことを忘れまいとしているからだ。……少なくとも私はそうだった。真面目に弾くのは何十年ぶりかだったが、不思議なことに勘を取り戻すことができた」
「夢……。いい年をしてそんなことを……と思っていたけれど、年寄りこそ夢を語るべきかもしれないわね。あなたを見ていたら私もちゃんとピアノを弾きたくなってしまったわ」
「……いいじゃねえか。もう充分利口に振る舞ったんだから、これからは自分の人生を生きればいい」
「それも悪くないかもね」
会話を聞いて、やはり二人は、かつてはあたしたちのように夢を語る仲間だったのだと深く感じた。社長は今度はあたしたちに向かって言う。
「あなたたちがギターと歌だけでライブを成功させたのを見て、派手な音響や演出は集客と関係ないのだと悟ったわ。中身さえ良ければ、そして思いが強ければ余計なものはいらないのだと……。成功者になることが幸せなのだと教わり、その通りに生きてきた。事実、衣食住に困ることはなかった。けれど心はどこか満たされず、常に将来への漠然とした不安を抱いていた……。そんな私の不安をあなたたちの音楽が取り除いてくれたの。ここ数年、所属アーティストには人々を楽しませる歌を歌わせてきたけれど、改めて聞くとやっぱり昔のレイカの歌がいいわね」
「あ、レイカの歌と言えば事務所に帰属しているんじゃ……」
慌てたあたしを見て社長は笑った。
「安心して。レイカの歌は麗華のものよ。私がそうなるよう、手続きしてあげる」
「え……?」
「あなたたちの音楽を聴いて決心がついたわ。私、社長の座を退く。今回の責任を取るという形で。そして新しい事業を始めるわ」
「新しいこと? いったい何を……?」
「内緒。でも音楽に関係することよ。この先もお互いに頑張りましょう。さて、そろそろお開きの時間じゃない? ステージを撤収して私たちも家路につきましょう」
そう言った社長の目はキラキラと輝いていた。
47.<拓海>
俺たちのライブは噂に噂を呼び、夏の間は社会問題にまで発展していた。新手の宗教だと揶揄されもした。しかし批判的なことをいう人間の多くは、人々に嘘やねじ曲げた情報を流すことで金儲けしている連中。端から俺たちの話など通じない輩だった。しかしそういう人間がこの国を、もっと言えば世界を牛耳っているのは確かな事実。そいつらの考えを変えるか存在を消すかしない限り、真の平和は訪れないだろう。
とはいえ、悪いことばかりではない。皮肉なことにそうやって取り上げられたが故に俺たちの名はライブを見聞きしなかった人にも知れ渡ることとなった。それがきっかけで興味を持ってファンになってくれる人もたくさん現れた。もっとテレビや音楽専門チャンネルで見聞きしたい。秋が深まる頃にはそんな声も聞こえるようになったが、俺たちは既存のメディアで活躍する氣は一切ない。これまで通りのスタンスでやっていく……。氣持ちを新たにしているところへ、麗華を通じて思わぬ話が飛び込んできた。
「社長が……あー今は元だけど、彼女から新会社を設立する準備が整ったと連絡をもらったの。何の会社だと思う? メジャーとインディーズの架け橋になるべく、その中間に位置する新しいタイプの会社を立ち上げたというの。で、その第一号アーティストにならないかって、あたしたちに声を掛けてきたんだけど、どう思う?」
「はぁっ?! あり得ないだろっ、そんな話! 却下だ、却下!」
智篤は詳しい話も聞かないうちにそう言った。しかし麗華は最初からそのつもりで打ち明けたのだろう、動じずに説得を試みる。
「落ち着いて聞いて、智くん。彼女はあたしがメジャー時代に作った曲のすべてを自分の会社において守ると言ってくれてるの。つまり、そこに属せばサザンクロスの麗華として、シンガーソングライター・レイカの歌が何の縛りもなく歌えるってこと。それは今後の活動をするに当たってはメリットが大きいと思うの。あんな事があって辞めた彼女だけど、その考えに共感してくれる人は少なからずいるみたい。そういう人たちと力を合わせて、これまでとはまったく違うやり方で音楽を発信していきたいそうよ。……ちなみに、ブラックボックスにも声を掛けてて、あちらは前向きに検討しているって聞いたわ」
「えっ……! あいつらは乗り氣なのか?!」
「そのようね。やっぱり若い子は考え方が柔軟ね。それに比べて……」
「…………!」
白い目で見られ、智篤は唇を噛みしめた。
「……拓海はどう思ってるんだ? 君の考えを聞きたい」
自分では決断できないのか、あろうことか俺に意見を求めてきた。
――俺はいいと思うけど。
手話で伝えると案の定、突っかかってくる。
「どの辺がいいってんだ? ちゃんと説明してくれよ」
――んー、麗華のやりたいことが出来そうだと思うのがひとつ。それから、俺たちの音楽をもっと広めるためにはやっぱり発信力が必要だ、ってところでその道に精通している人と手を組むのはありなんじゃねえかなってのが二つ目の理由だ。
「手を組むと言っても、相手は過去から現在に至るまで散々僕らを引っかき回してくれた人間だぞ?」
――お前が人間不信なのは分かる。あっちにされた仕打ちに憤りを感じるのも分かる。だけどさ……。麗華のことを赦せたんなら、あの人のことも赦してやろうよ。やりたくないこともやらなきゃいけない立場だったみたいだし。
「……どこかに属することで僕らの音楽が出来なくなるのはごめんだ」
「それなんだけど、彼女はあたしたちの自由にしていいと言ってくれてるわ。……嘘を言っていないという証拠は出せないけれど、この話をしてくれた彼女の口調は明らかに以前とは違っていた。丸くなったというか、吹っ切れたというか、柔らかい雰囲氣に変わってた。どうしても不信感が拭えないというなら直接話してみればいいわ。あちらは会いたがっているから」
「…………」
反論も空しく、直接話せばいいと言われた智篤は黙り込んでしまった。
48.<智篤>
確かに僕らの野望は道半ばだ。ライブはきっかけに過ぎず、現実世界はほんの少しの膿出しが行われただけで本質は何も変わっていない。そこに僕らが切り込むためにはもっと前に出なければならない。そんなことはこの僕だって分かっている。
ただ、その協力者が数ヶ月前まで敵だった人、と言うのが納得いかない。僕らの歌を聴いて改心したと言いたいのだろうが、だからといって簡単に信用できるはずがない。
――なぁ、俺も一緒に行くからさ。とりあえず話だけでも聞いてみようぜ。決めるのはそのあとでもいいだろう? ほら、俺らのことをいけ好かねえ奴だと決めつけてたセナとリオンも、ちゃんと話したら認めてくれたように、膝を交えて話せばわかり合えるかもしれねえじゃん?
拓海までもが僕を説得しにかかる。悔しいけれど、彼の言うことは正しい。僕はただ、過去の経験からその人を決めつけているに過ぎない。前に進むには、僕の記憶を更新する以外にない。
「……分かった。ただし会うのは一度だけだ。……あぁ、ブラックボックスにも同席してもらおうか。あいつらの考えも聞いた上で判断したい」
僕から少しだけ前向きな発言が出たからか、二人は顔を見合わせて微笑んだのだった。
◇◇◇
短い秋が過ぎ、急に冬めいてきた頃に僕らは会うこととなった。そこに集まった人間のうち、仏頂面をしているのは僕だけ。居心地の悪さを感じながら面談場所を訪れる。
そこは既に完成を見た先方のオフィス。非常にこぢんまりとしているが、そこでは協力者と思われるスタッフが忙しそうに働いていた。そこの応接室に通される。席に着くと「新社長」が、相変わらずの派手な格好で現れた。
「わざわざ来てくれてありがとう。話したいと言ってくれて嬉しいわ。……あーら、そんなに怖い顔をしないで。お茶菓子でも食べながら楽しく話しましょう」
その言葉が聞こえたかのように、スタッフの一人が籠に盛られた菓子とお茶を運んでくる。
「毒なんか入ってないから遠慮なく召し上がって」
新社長はそう言って自らそれらに手を伸ばした。
「それで……。私のことが信用できないと言っているのはあなただったわね? 用心深いのはいいことよ。こういう世界だもの、簡単に信じないのが基本だと私も思う。もう過ぎたことだから水に流すと言ってあっさり受け容れるのも考え物よねぇ」
思いがけない言葉に全員が動揺した。新社長はクスリと笑う。
「そんな用心深いあなたに提案なのだけど、まずはうちの会社から先日のライブのDVDを発売するというのはどうかしら? 観たかったけど時間が合わなかった人、あとから存在を知って今からでも観たいと思っている人のために映像を提供することが出来れば、あの日の感動をもっと多くの人と分かち合えると思うの。全国に私の顔が利く販促ルートがある。あなたたち単独では難しいことも、うちに所属することでそれが容易になる。あなたたちにとってもメリットが大きいと思うの。本格的にうちで活動するかどうかはDVDの売れ行きを見てから決めてもらって構わないわ。ただし、その前にブラックボックスが先に活動を開始して人氣を博しちゃうかもしれないけれどね」
「……ブラックボックスはもうOKしてるのか? あんな事があったのになぜそう簡単に赦せる?」
新社長の話を受けてブラックボックスの三人に疑問を投げた。三人は顔を見合わせ、クスクスと笑った。
「実はこの話をもらった時にピアノの話題になったんだけど、めちゃくちゃ盛り上がっちゃってさ。その時の社長の目が子供みたいにキラキラしてて、ああ、この人本当はこんなにピュアなんだって思った。まぁ、兄さんたちと一緒だよ。音楽のこととなったら一日中でも語れちゃうような人に悪い人はいないよ」
まずはリオンが経緯を話してくれた。すぐあとでユージンが「智さんに一つ言いたいことがあるんっすけど」と続ける。
「確かにこだわりを持つことも大事だと思いますよ。だけどそれにしがみつくことで逃すチャンスもあると思うんっすよ。オレ、『シェイク!』に振りをつけて世に出してみて分かったんです。自分のこだわりを貫くだけじゃうまくいかないこともある、仲間の意見を取り入れる方が結果的にチャンスが広がることもあるって……」
「ユージン……」
「これはオレの勝手な提案だけど、なんだったら一緒にやりませんか。六人でオレたちの音楽を届け、理想の世界を作りませんか?」
「……六人で?!」
思いも寄らない提案に動揺する。
「だけどそれじゃあギタリストが多すぎる。そんな偏ったバンドでうまくいくとは……」
「そう言うと思ってました。じゃあ、オレがドラムに転向するって言ったらどうです? 実はオレ、高校の時に少しだけやってたことがあって、六人でやるとなったらそれもありかなって思ってるんですよ。まぁ、練習は必須ですけどね……」
「おいおい、エレキを極めるんじゃなかったのかよ?」
「そりゃあ、今後もブラックボックスの三人でやってくならそれで合ってますけど、智さんがアコギにこだわるほどには楽器へのこだわり、ないんっすよ。オレはあくまでも心に響く音楽を奏でたいのであって、それが出来るなら楽器はなんでもいいんっすよね」
「……お前、柔軟すぎるだろ」
「あー、よく言われます。だけど、長子ってそういうもんじゃないですかね? 調和を取るためにとりあえず自分が折れる、みたいな。色々やるから器用貧乏なんですけどね。世界平和を目指すなら、妥協することも必要でしょう?」
その言葉を聞いて、ユージンは僕よりずっと大人で、謎のこだわりを持っていた自分はうんと幼い子供のように思えた。
「……ここへ来て、よりによってユージンに口説かれることになろうとは。参った、完敗だ」
僕は差し出されたユージンの手を取った。
「分かった。一緒にやろう。……考えてみたら、僕らの人生はもうとっくに折り返し地点を過ぎてるんだった。悩んで立ち止まったり、駄々をこねたりする暇はないんだよな……」
「心が決まったようね。もう一度聞くわ。私の話を受けてくれる?」
新社長に問われ、頷く。
「言っておくが、あんたに心を許したわけじゃない。あくまでも僕らが成し遂げたいことを成すための手段としてあんたの手を借りるだけだ」
「もちろんそれで構わないわ。だけど、いつの日にか私に感謝する日が来るはずよ」
「それはどうかな……」
曖昧に返事をした僕に社長が手を差し出す。
「一緒に世界をいい方に変えていきましょう。私たちで力を合わせれば必ず実現するわ」
そっと握り返すと、仲間たちが次々手を乗せてきた。
「ありがとう。智くんならきっと分かってくれると思ってた」
レイちゃんは優しく微笑み、その隣で拓海も満足そうに頷く。彼は空いている方の腕を僕の肩に掛けると、お前の歌声を世界中に響かせてくれ、と口を動かしたのだった。
―― 第二部 END ――
※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。
ちなみに今回の見出し画像はユージン(のつもり)です💦
↓ 執筆の裏話など、作品に込めた想いについて語っています ↓
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