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【連載小説】「好きが言えない 2」#4 本音

   2 一回裏

 長雨が降ると決まって胸が痛む。祐輔が事故で負傷したあの日を思い出すからだ。そしてそんなときに限って頭を悩ます出来事が起こる。
「なぁ、祐輔のどこがいいの? 最近、ピッチングもいまいちだしさぁ。いっそ、おれと付き合わない?」
 クラスが別れて祐輔の目が届かないのをいいことに、最近やけに野上の行動が大胆だ。今日はついに「付き合わない?」ときたもんだ。しかも白昼堂々、五時間目が終わった休み時間にさらりと言うから、こっちはたまったもんじゃない。
 それもこれも祐輔のせいだ。春の大会で大活躍したかと思いきや、その後は鳴かず飛ばず。あんなにキレが良かった球も、今じゃ見る影もない。
 毎日一緒に登下校して、部活も一緒で、なおかつ夜な夜な電話してくる。いつ勉強してるのかしら、と思っていたら、その結果がテストで見事に出た。さすがに現実を疎かにし過ぎである。やっぱり、を通り越して情けない、とさえ思ってしまった。
 昼休みに野上が発破をかけてきてようやく目が覚めたみたいだったけど、どこまで目覚めただろうか。その点は野上に感謝してもいいだろう。おかげさまで私は彼に告白めいたことを言われたわけだけど、こっちもこっちでどこまで本気なんだか。

「君たちは別れるのが賢い選択だと思っているんだ。お互いのためにも」
 昼休みの一件で、部長は私だけを残してこう言った。
「本郷クンは春山クンに依存している。君も実感しているはずだ」
「はい……。おっしゃる通りだと思います」
「僕は何も、二人に部活を辞めてほしいと言ってるわけじゃない。むしろ、今後も活躍してもらいたいからこそ言っているんだ。つらい選択を迫っているという自覚はある。けれどこれは、春山クンにしか頼めないことなんだ」
「……私たちが別れれば、祐輔は元のように強くなれるとお考えなのですか?」
 その問いに部長は答えなかった。
 賭けに出ようというのか? いや、聡明な部長に限って運に任せるということがあるだろうか? しかし私との交際が祐輔を堕落させているのは事実だ。私にも責任がある。
「わかりました……。何とかやってみます」
 引き受けるしかなかった。

 別れよう。その言葉を告げるのにどれだけの勇気が必要だっただろう。
 ピッチャーになれなかったら別れる、だなんて……。自分で言ったこととはいえ、いやになる。それじゃあまるで、私がピッチャーしか愛せないみたいじゃない。ピッチャーなら誰でもいいって言ってるみたいじゃない。そんなの、本心じゃない。そのくらい祐輔なら気づくはず。いや、気づいてほしい。
 けれど、祐輔の動揺っぷりと言ったらなかった。会えなくてもいいのか? って言ったその顔は青ざめていた。寂しい、不安、ずっと一緒にいたい……。お互いにそう思っているのは分かってる。でも、それじゃダメなのよ。いま策を講じなければ、どのみち私たちはおしまい。遅かれ早かれ、痛みや苦しみを味わわなければならないところまで来てしまったのだ。退路はすでに、断たれている。

下から続きが読めます。↓ (7/23投稿)


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いろうた@「今、ここを生きる」を描く小説家
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