【ショート小説】二人の愛のカタチ ~クロス×クロス番外編3~
わたしたち二人の間に家族が増えた。といっても、人間の赤ちゃんではなく猫の、である。もともと恋人の純さんが飼っていた子猫のトルテが大きくなり、今年になってはじめて赤ちゃんを産んだのだった。
わたしたちは、一見するとどこにでもいる男女のカップルだが、彼の恋愛対象は男性。女のわたしと一緒に暮らしていること自体が不思議と言っても過言ではないのだけれど、互いの努力と共通の目的によって今はバランスがとれている状態だ。それでも、いつ壊れてもおかしくない関係には違いなく、少なくともわたしは、心のどこかで常に不安を感じていたのだった。
そんなとき、トルテが赤ちゃんを産んだ。かわいい子猫が四匹。初めて対面した瞬間に、わたしはまるで自分の赤ちゃんを産み落としたかのような感動を覚えた。
「純さん! トルテの赤ちゃんよ! なんてかわいいんでしょう!」
「ああ……。ホントに、ちっさくてかわいい。トルテ、よく頑張ったね」
母親になったトルテは赤ちゃんを大事そうに舐めている。手を出そうものなら引っかかれそうだ。純さんもそれが分かったようで、代わりにわたしの頭を撫でた。
「この子たちはおれたちで育てよう。もちろん、全員だ。おれたちの、子どもだ」
「純さん……」
見つめると、彼はちょっと照れくさそうに言う。
「かおりさんの気持ちには――おれたち二人の間に赤ちゃんが欲しい、って思ってることには――気づいてたつもり。でも、おれは期待に応えられない……。もしかしたら、トルテはおれたちの思いを知っていたのかな。この子猫たちはトルテからの贈り物って気がするんだ」
「ええ、本当にそうね。わたし、嬉しい。トルテが赤ちゃんを産んだことも、純さんと一緒に子猫を育てられることも」
奇しくも今年に入って、友人カップルが洋菓子店をオープンさせた。トルテはそこの看板猫でもある。このところ留守がちにしていたが、赤ちゃんを産んだことを知らせれば、トルテファンのお客さんがたくさん店にやってくるだろう。
実はわたしたちもその店の一角で、ジェンダーレスの衣服の展示販売をしている。売れ行きは好調で、ケーキが売れれば服が、服が売れればケーキが……という相乗効果も生まれている。きっとトルテが福を招いているに違いない。
服の販売だけではない。トルテは、不安定なわたしと純さんを繋ぐために何度も力になってくれた。もしトルテがいなかったら、わたしはきっとここにはいないだろう。
「わたしたちは何度も助けられているわね。ありがとう、トルテ」
語りかけると、熱心に子猫の世話をしていたトルテが顔を上げ、「ミャー」と鳴いた。自然と、心があったかくなる。
「さあて、新しい家族と暮らす準備をしなくちゃ。いそがしくなるぞー!」
純さんが気合いを入れた。その顔はとても嬉しそうだ。
新しい命を引き受けると言うのは、簡単なことじゃない。赤ちゃんのために自分の時間を差し出すのだから、大変なことも多いだろう。それでも一緒に暮らしたいと願うのは、苦しみ以上に癒やしや安らぎをもらえるからに違いない。
目の前にいる、わたしと純さんの子どもたちが愛おしい。自然とこぼれる笑みそのままに純さんを見ると、彼も同じように穏やかな笑みを浮かべていた。
あとがき:
今回は、「愛のカタチ・サイドストーリー」「クロス×クロス」にも登場の、純&かおりのその後のお話です。
二人の関係は、長続きさせようと思ったら何かしら特別な理由が必要だ、とずっと考えていました。前回のお話も、やや「特別感」はあったのですが、今回、強力な助っ人(助っ猫?!)にお願いすることとなりました。
作者としても、二人の今後の幸せを祈ってます🥰
いつも読んでくださる方へ:
「クロス×クロス」のアフターは、書けてあと1、2話かなと思っています。次回作はタイトル難産です……。投稿できる形になるまでは、短編小説でお楽しみください🥰
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