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【連載小説】第三部 #5「あっとほーむ ~幸せに続く道~」見える世界、見えない世界
前回のお話(#4)はこちら
前回のお話:
悠斗の提案で花見をすることになった野上家一同。場所取りのため、悠斗と翼は一足先に花見会場へと向かう。二人は満開の桜の下で春を満喫し、改めて、いま生きてここにいられることに感謝する。
花見をしながらの宴会が始まり、悠斗は義兄の路教と語り合う。その中で、伝えたいことは伝えられるうちに言った方がいいという話になり、路教は今まで面と向かって言えなかった感謝の言葉を両親に伝える。悠斗も同様にオジイとオバアへ感謝の気持ちを述べる。
それから二ヶ月後。オジイは静かに息を引き取った。遺影を前に涙ぐむ弟の彰博に対し、路教は「笑顔で送り出さなきゃ」と一喝する。しかし悠斗は「今泣かないでいつ泣くのか」と反論し、路教を説き伏せる。
葬儀を終える頃には皆の顔に笑顔が戻り始めていた。帰宅して自室に戻った悠斗もほっと一息つき、疲れた身体を布団に横たえる。その時、誰もいないはずの部屋で声がした。起き上がるとそこにはオジイの幽霊の姿があった。
一言メモ:めぐの職場である「ワライバ」とは?
喫茶店兼「誰もが好きなときに立ち寄れて、好きなことができる憩いの場」。様々な事情の人が気軽に出入りできる。オーナーは双子の兄弟、理人と隼人(50代)。青年期まで祖母と暮らしていたため、二人ともおばあちゃんっ子だった。(ワライバの話は、第二部・#4話「めぐ」で読めます。(目次で飛べます))
<めぐ>
五
祖父は亡くなったはずなのに、まだ家の中のどこかにいるような気がする。そのせいか不思議とさみしさは感じないし、身近な人の命と引き換えにやってくるという赤ちゃんのことも今は深刻に受け止めていない。先日、木乃香のお母さんに言われ、わたしのことはわたしが決めると気持ちを新たにしたのも大きいだろう。
寝る支度をしていると、翼くんが寝室にやってきた。
「……悠斗、大丈夫かなぁ?」
彼は落ち着かない様子で呟いた。
「大丈夫って……。何かあったの?」
「……じいちゃんの姿が見えるって言うんだよ。ばあちゃんのことが心配で戻ってきたって言ってるらしくて……」
「ホントに?! ……どうりで気配を感じると思った!」
「えーっ? めぐちゃんまで……。だって、じいちゃんは死んじゃったんだよ? もうこの世にはいないんだよ?」
「そりゃあ分かってるけど、悠くんは亡くなった娘さんの姿を何度か見てるっていうし、霊感が強いならおじいちゃんの姿が見えたって不思議じゃないと思うけど」
翼くんは納得できない様子でため息をついた。
「……まぁ、今日はみんな疲れてるし、明日また聞いてみるか」
おやすみ……。翼くんは大あくびをしてわたしの隣に横たわった。
翼くんは、こういうときこそ現実を見なきゃダメだって、過去に引っ張られちゃダメだって言いたいのだろう。わたしもその通りだと思う。だけど、悠くんにとって霊が見えることが現実だとしたら、見えない側の人間がそれを否定することは出来ないはず……。現にわたしも愛菜ちゃんらしき声をはっきりと聞いている。あれは決して空耳なんかじゃなかった……。
◇◇◇
翌朝、目覚めてすぐ悠くんの部屋に向かう。夕べ翼くんから聞いた話を確かめるためだ。
彼は自室ではなく居間にいた。仏壇の前で静かに手を合わせている。その横に立ち、同じように手を合わせる。
「……今もおじいちゃんが見えるの?」
「翼から聞いたのか」
悠くんはわたしの言わんとすることをすぐに理解したようだ。
「今は見えない。……っていうか、あっちからの接触がなければ見えないんだ。まぁ、姿を見せてくれって頼んでその通りになったところで、見えない人には見えないんだろうけど。このうちで見えるのはおれだけみたいだし」
「そうなんだ……」
「めぐは信じる? オジイがまだこの家にいるってこと」
「もちろん。悠くんが嘘をつくはずないもん」
「そっか……。それを聞いてオジイも喜んでると思うよ。……ところで」
悠くんは声を低くして言う。
「その後、愛菜からコンタクトはあったか?」
「ううん。今のところはないかな」
「なら、いいんだ。身近な人……、つまりオジイは亡くなったけど、だからって愛菜の言葉を鵜呑みにする必要はないからな。それだけは言っときたくて」
「大丈夫。たとえわたしの心が揺れても、翼くんがしっかりしてるから」
「確かに……。言動はあれだけど、悔しいことに行動は紳士だからな。心配には及ばないか」
「言動だって紳士だけど?」
そこへ翼くんが現れた。
「おはよう、悠斗。疲れはとれた?」
「ああ、おれは大丈夫。それを聞くならオバアにしてくれ。夕べは遅くまで眠れなかったみたいだから」
「わたしならちゃんと寝たわよ」
振り返ると、寝ていたはずの祖母が起きていた。その表情は穏やかに見える。三人して心配げな顔を向けたにもかかわらず、祖母は微笑んだ。
「今の話は全部聞かせてもらったわ。やっぱり、おじいさんはそばで見守ってくれてるのね。悠斗君、また何かおじいさんからメッセージを受け取ったら教えてちょうだい」
「はい。……って言っても、おれからは語りかけることが出来ないので、いつお伝えできるか分かりませんが」
「それでもいいわ。待ってるから。……それにしても、生きてる人間はお腹が空くわねえ。そろそろ朝ご飯にしようかしら?」
祖母の言葉を聞いて時計を見る。いつもならとうに食卓に着いている時間だ。今日は平日。翼くんもわたしも朝から仕事が待っている。
「やっべぇ、遅刻気味だ! 悠斗、食事の支度、頼める?」
「オーケー。……トーストと目玉焼きでいいか? スムージーを作るのは時間がかかるから、今日は無しでいい?」
「なんでもいいからとにかく頼む!」
「やれやれ。生きてくってのは大変だなぁ……」
悠くんのぼやきを端で聞きつつ、わたしも急いで身支度を調える。
*
「おはようございまーす!」
ワライバに出勤すると、双子のオーナーは同じ顔を同時に向けた。二人とも驚いた表情をしている。
「めぐっち、もういいの? まだ休んでていいのに」
「大丈夫です」
理人さんの言葉に即答する。
「家にいても余計なことばっかり考えちゃうので」
「そう? でも、無茶しないように! おれ自身、ばあちゃんが亡くなったときは立ち直るのにかなり時間がかかったからさ」
「はい、無茶はしません」
素直な返事を聞いて安心したのか、理人さんはいつもの表情に戻った。
開店の準備を一通り終え、「OPEN」の札に掛け替える。と、ぴったりのタイミングで車が駐車場に滑り込んできた。運転席から降りてきたのは、すっかり常連になったかおりさんだ。
「いらっしゃいませ。今日は早いんですね!」
「おはよう、めぐさん。今日は待ち合わせをしていてね」
「待ち合わせ?」
小首をかしげていると、すぐ後ろから見知った顔がやってきた。
「クミさん!」
「お久しぶりー」
彼女は赤ちゃんを抱っこしていた。人なつっこそうな赤ちゃんは、わたしたちを見るなりにっこりと笑った。
クミさんとの出会いはこのお店。出産を前に不安を抱えていた彼女に助言したのがきっかけで仲良くなった。近所に住んでいるらしく、出産の報告がてら一度お店に遊びに来たことはあるが、わたしが会うのはその時ぶりだ。
「赤ちゃん、大きくなったねぇ!」
「もうすぐ十ヶ月よ。最近はハイハイでどこにでも行っちゃうから目が離せなくて。でも、かわいいよ。……はい、かおりさん」
クミさんは赤ちゃんをかおりさんに抱かせた。かおりさんは満面の笑みを浮かべながら引き受ける。
「よしよし……。まぁ、わたしの髪の毛を口に入れちゃダメよぉ」
その様子はまるで母親そのものだった。二人のやりとりを見て察する。
「……もしかして、かおりさんに赤ちゃんを抱かせるためにここへ?」
「うん。……実は、初めて出会ったときに言われたことが――どんなに願っても愛する人との間に子どもを持てない人がいる、母親になる自信がないならわたしが赤ちゃんを育てるとお説教されたのが――ずーっと引っかかっててね。色々考えた結果、ここで出会ったのも何かの縁かもしれないと思って、かおりさんに子育てを手伝ってもらえないかと相談したの。もちろん、一緒に暮らすことは出来ないからここに来たとき限定にはなってしまうけど、そういう形でもいいなら喜んでと引き受けてもらったってわけ」
「そうだったんだぁ」
訳を聞きながら、赤ちゃんがこちらに伸ばした手を握る。キャッキャと笑う顔を見たら自然と笑みがこぼれた。
「あれーっ、めぐさんも欲しくなったって顔してるよ? 子ども作っちゃいなよ」
「えーっ!」
クミさんに指摘され、慌てて赤ちゃんの手を離す。
「わ、わたしはまだまだここで修業するつもりだから……」
「そうなのー? 一緒に子育てしようよ」
「…………」
返事に困っていると、かおりさんが苦笑した。
「クミさん。人はその時々で役割が違うのよ。その役が巡ってくるタイミングも違うのよ。だから、めぐさんの子育ては、めぐさんにとって最適な時期にやってくる。望もうが望むまいがね」
「じゃあ、あたしが子どもを授かったのも今がその時だからってこと?」
「最近、確信したのよ。たとえ望んだ形ではなかったとしても、いつか必ず願いは実現するって。……わたしは純さんを愛したことで自分の子どもを持つことが難しかったけど、友人の子育てに関わることが出来たし、こうやってまた赤ちゃんを抱く機会を得ることが出来た。つまり彼との関係の延長線上には、ちゃんと子どもと接するチャンスがあって、ある意味では望みは叶ったとも言える。そのことに気づいたのよ。今は彼を愛したことを誇りに思っているし、ここまで一緒に歩んできて良かったと本気で思ってる。クミさんを羨む気持ちも今はないわ。むしろ、こういう機会を作ってくれたことに感謝しているくらい」
「あたしもかおりさんと出会えたのはラッキーだったなって思ってる。自分の親に子育てのことを聞いても親の経験からでしかアドバイスしてもらえないけど、かおりさんの場合は客観的な言葉をかけてくれるでしょ? だからすんなり受け容れられるんだよね」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「めぐっち! カウンターのお客様にコーヒーをお出しして」
その時、オーナーの指示が耳に入った。
「は、はい! ……それじゃ、お二人ともごゆっくり」
一礼してきびすを返し、接客の仕事に戻る。ところが、カウンターにお客さんの姿はなかった。
(あれ? 今「カウンターのお客様」って言ってたような……? 聞き違いかな?)
しかし店内をくまなく見回しても、かおりさんとクミさんしかいない。
「あのー、理人さん。カウンターのお客様はどちらに……?」
「あー、めぐっちには見えないよね。だけど、窓際の席に座ってるんだ。だから、出しておいて」
見えないよね、と言われてハッとする。
「そのお客様ってもしかして……?」
「うん、あっちの世界の人。今日は、かおりさんのお兄さんがくっ付いてきたみたい」
*
「ホットコーヒーでございます……」
誰もいないように見えるカウンター席にコーヒーを提供する。その後、他の仕事をしながら時折カップの中をのぞき込むが、コーヒーが減る気配はない。ないんだけど、そこにいると言われたらやっぱりいるような気がしてついつい気になってしまう。
モヤモヤした気持ちを引きずったまま仕事をするわけにもいかないと思い、正直に尋ねてみる。
「……さっきの口ぶりからすると、この店には頻繁にあっちの世界のお客様が来るってことですか?」
理人さんは窓際のカウンター席をちらりと見てから答える。
「たまーにね。どうやらあっちの世界でもこの店はそれなりに知れてるらしくて。いろんな事情の幽霊たちが居場所や安らぎを求めてやってくるんだ。めぐっちが働き始めてからも何人か来てたんだけど、今日はかおりさんの連れ添いだから接客をお願いしたってわけ。……うわっ、その顔。信じてないっしょ」
「いえいえ! 実は亡くなったばかりの祖父の姿が見える家族がいまして、話を聞いているとやっぱりそういうことはあるんだろうなって思ってます!」
「ほんとにー?」
「オーナー、今日は兄が来てるの?」
わたしたちが掛け合いをしていると、かおりさんが話に加わった。
「うん、コーヒーが置いてあるところに座ってるよ。かおりさんが赤ちゃんを抱く姿を間近で見たかったのかもね」
「なら、こっちに来ればいいのに。相変わらず、人との距離感が分からないんだから」
「相変わらずってことは……。お兄さんがそばにいる期間って長いんですか?」
わたしが問うと、かおりさんはお兄さんが座っているであろう席に目を向けながら言う。
「そうね……。かれこれ三十年になるかしら。自分の身体では体験できなかった人生を霊魂の状態で味わおうとしているみたい。わたし自身、兄の姿を見ることは出来ないけれど、どういう因果か、身近に見える人や気配を感じる人がいてね。その都度存在を教えてもらいながら一緒に生きてきたというわけ」
「……そのー、どういう感じなんですか? お兄さんの魂がいつでもそばにいるっていうのは」
「そうね……。うまく表現できないけれど、同じ空間にいると言われたときには温かみを感じるというか、『あ、いるな』って分かるのよね。そういうときは、見守られてるんだと思えて優しい気持ちになるわ」
「そうなんですか……」
「今日ここに現れたってことは、かおりさんのお兄さんも子どもが欲しかったのかな?」
クミさんの言葉に、かおりさんは「まさか!」と応じた。
「兄はわたしの笑っている顔が見たいだけなのよ。それがあの世で生きる兄の、唯一の幸福なのだと思ってる。わたしも兄も、子どもの頃は勉強漬けであまり笑うことをしてこなかったから」
「……かおりさんのお兄さんは、生まれ変わりを望んだりはしないんでしょうか?」
再びわたしから問う。かおりさんは「どうかしら」と首をかしげた。
「本人に聞いたわけじゃないから分からないけど、透はわたしの兄で居続けたいんだと思う。生まれ変わったら関係も変わるでしょうからね。……わたし以外に信頼できる人がいないと思い込んでる、頭の固い人間なのよ」
そう言いながらも彼女の表情は穏やかだった。
(亡くなった人のことをこんなふうに語れるかおりさんって素敵だな……。)
そう言えば、悠くんが亡き娘さんのことを話すときもこんな顔をしていた気がする。今朝の祖母も柔和な表情だった。
最愛の人を思い出すとき、人は優しくなれるのかもしれない。もしかしたら、生きてそばにいるときよりも……。かおりさんは続ける。
「兄はもう肉体を持っていない。どんなに感情を表現したくても表すことが出来ない。だからわたしは肉体を持ってる者として、生きてる者として、感情豊かでありたいと思うの。もう一緒に笑ったり怒ったりすることは出来ないけれど、わたしのそばにいることで疑似体験できるというなら、わたしは兄の代わりに笑ったり怒ったり泣いたりする。そうやって共に生きていくって決めてるの」
ザーッ……。
突然、店内で流しているテレビの画像が乱れた。オーナーたちが慌て出す。
「おい、どうしたどうした?」
二人はリモコンをいじったり配線を確認したりしているが、テレビはうんともすんとも言わない。わたしも手伝うつもりで動き出そうとしたとき、かおりさんがぽつりと呟く。
「まぁ……。透ったら、感激してるみたい。周囲を驚かせることでしか感情を伝えられないなんて、まるで子どもみたいよね」
呼応するようにテレビ画面が明滅する。直後、乱れていたテレビは何ごともなかったかのようにニュース番組を映し出したのだった。
*
一日の仕事を終えて帰宅すると、祖母が縁側に腰掛けて庭を眺めていた。夕方から仕事の悠くんとは入れ違いになったようで姿は見えない。
「ただいま」
「おかえり、めぐちゃん。今ね、お庭の紫陽花を見ていたところなの」
「うん」
わたしは祖母の隣に腰掛けた。
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「このうちのお庭は素敵ね。悠斗君のご両親がしっかり手入れをされていたんだって分かる。……今でもお庭に目をかけているに違いないわね。ここに座っていると風もないのに葉が揺れたり、蝶がわたしの周りをひらひら舞ったりするのよ」
その話を聞いて、今朝ほどお店のテレビが乱れた出来事を思い出した。
「……亡くなった人はそうやって『自分がここにいるよ』って知らせてくれるものなの?」
「おばあちゃんも確かなことは分からないけど、そうだと信じた方が残された人間としては生きやすいじゃない?」
「……自分の存在を知らせようとするのは、この世に未練があるからなのかな?」
「肉体が滅びた人は住む場所を変えただけで、実はあっちの世界で生きてるんだとおばあちゃんは思うのよね。彼らは肉体を持たない分、こっち世界に気軽にやってきては自然現象という形で『元気にしてるか?』とか『いつでも見守っているからね』って伝えてくるような気がしていて。そういうのを信じられなかったり、怖がったりする人もいるけど、わたしたちが見ている世界が唯一じゃないと思うのよ」
「分かる気がする」
「なら、わたしが死んでもそう思ってちょうだい。例えばそうね……。今年は咲かなかったけど、毎年必ずここの梅の花を満開にすると約束するわ。めぐちゃんがこの約束を覚えている限り、少なくともめぐちゃんにだけは思いだしてもらえるはずだから」
「おばあちゃん……」
「その日が来てすぐは泣いてもいい。だけど、ずっとは嫌。だって涙は梅の木の肥やしにはならないもの。おばあちゃんはあっちの世界でおじいさんと再会して楽しくやってるはずと思って、いつもと変わらずお庭の手入れをしてちょうだいな。それが残された者の務めなんだから」
「はい……」
「というわけで……。早速、お仕事。咲き終わった花がら摘みをしておいで。梅雨の時分に放っておくと、花が腐ってその株をダメにしてしまうから」
「えーっ……」
反射的に声が出てしまったが、この庭が維持されてきた背景にはそうした地味な作業があったのだろうと思い直し、重い腰を上げる。
「そうそう。立派なお庭は一日にしてならず、よ」
「はーい……」
咲き終わった花を丁寧に摘む。そうするうちに意識がそこだけに集中していき、やがて庭を整えることと自分を整えることは似ている、との思いに至る。
わたしたちは日々時間に追われ、身体のケアを疎かにしがちだ。しかし手入れを怠れば花を枯らせてしまうように、身体の不調も放置すれば健康を損なう。「目に見えないからこそ、心と真剣に向き合うことが必要だ」とは、心理カウンセラーのパパの台詞だ。
見えているものの更に奥で何が起きているかを知ろうとする。そういう姿勢ってけっこう大事じゃないか、と思う。たとえばさっき祖母が言ったような世界もあると受け容れてみる。そうすることで感覚が研ぎ澄まされ、見える景色も変わるのではないか。
夕焼け色に染まる庭で胸いっぱいに息を吸い込む。そして自分に問うてみる。今一番大切にしたいことは何か、と。
答えは言葉ではなく感覚としてやってきた。それを丁寧に言語化してみる。
(今はまだ自分の時間を大切にしたい。こうやってお庭を眺めながらおばあちゃんと話したり、翼くんや悠くんと出かけたりする時間を作りたい……。それが、わたしの体が求めていること……。)
家族とはこれからも季節の変化を共に感じながら過ごしていこう。そして自然な形で母親になる日を迎えよう。すべての出来事は最適なタイミングで起きる……。人生の先輩たちがそう言うのだ、わたしもそれを信じて生きていけばいい。
(続きはこちら(#6)から読めます)
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