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【連載小説】「愛の歌を君に」#12 祈り


前回のお話(#11)はこちら

前回のお話:

拓海が倒れたことで、麗華は彼に抱いていた本当の氣持ちに氣付き、智篤はこれまでの振る舞いを悔やむ。ベッドに横たわる拓海を想い、麗華はタクシーの中で作った歌を、智篤は二人で作り上げた彼のための歌を祈るように歌う。

34.<麗華>

 開け放った窓から智くんの力強い歌声がはっきりと聞こえた。初めて二人で共作した、拓海のための歌。荒削りだった部分は彼が見事に修正し、完璧に仕上げてくれたので今のが完成形と言っても過言ではなかった。

「拓海、智くんの歌声が聞こえた? とってもいい曲でしょう?」

『ああ……。メチャクチャよかったよ。でも、ここに戻ってくるにはまだ力が足りない……』
 心に直接、拓海の声が響いた。

「力が足りないって……。どうすればいいの?」
 その時、部屋の扉が開き、同時に智くんが飛び込んできた。

「拓海はっ……?!」

「大丈夫、まだ息はあるわ」

「一緒に歌ってくれ……。拓海に頼まれて……。そうしたら、なんとかするって言うから……」
 智くんは肩で呼吸をしながら、語順も調えずに言った。

 なるほど。拓海が「力が足りない」と言ったのはそういうことか。あたしは一度拓海の手を握った。

「今助けるから、待ってて」
 椅子から立ち上がると、智くんがすぐ近くに歩み寄る。

「歌詞とメロディーは今聴いて頭に入ったね?」

「ええ、覚えたわ。……ギターは弾かないわね?」

「ああ、歌声だけで勝負する。と言っても、声量も抑えなきゃいけないが……」

「やむを得ないわ。その代わり、心を込めましょう」

 本音を言えば今智くんがしたようにギターも弾きたかったが、院内でそんなことをすれば次こそ通報されかねない。最後の最後で失敗するわけにはいかなかった。

 智くんは弾む息を整えるように何度か深呼吸をしたあとであたしと目を合わせた。頷くと彼がリズムを刻む。
「ワン、ツー、ワンツースリー……」

 あたしが歌詞を口ずさむ隣で智くんがハモり、、、を加える。こんなふうに二人で歌ったことは一度もないのに、まるでずっとこれでやってきたかのように息がぴったりと合う。

 プロの歌手として何十年ものあいだ、たくさんの人のために歌ってきたあたしは今、たった一人、拓海のためだけに歌っている。お金のためでも好かれるためでもなく、純粋に彼を救いたい一心で、「ただの麗華」としてここにいる。

 少し前のあたしなら「ただの麗華」には力がないと氣弱になって、歌に想いを込めることすら出来なかっただろう。でも今は違う。智くんが言っていたように「祈りの言葉」が届くようにと、ただそれだけを考え、声を出している。

 今こそ信じよう、歌の力を――。

 智くんと誓い合い、作り上げたこの歌で拓海を救うことが出来たとき、あたしの生き方はきっと変わる。三人一緒なら、これまで築き上げてきたものすべてを置いてニューワールドに行くことだって、きっとできる。いや、行きたい……。

 ――そうね、あなたはもう充分多くの人を救った。プロの歌手としてよく頑張ったわ。

 歌の最中にもかかわらず、いつもあたしの曲作りをサポートしてくれる「神様」の声が聞こえた。あたしが歌うのをやめられないと分かっていて「神様」は続ける。

 ――孝太郎をはじめ、大勢の人が救われ、新たな人生を歩み始めたのは間違いなくあなたの歌声のおかげよ。私の言葉を素直に受け取り、伝えてくれてありがとう。大役、お疲れさま。これからはあなたが幸せになるために、愛する人のそばで歌いなさい。私からはもうメッセージを伝えないけれど、あなたのそばには支えてくれる彼らがいるのだから安心して生きなさい。今後も陰ながら見守っているわ。

(今、彼らとおっしゃいましたか……? と言うことは、拓海は助かるのですか……?)
 語るというより念じるように問うと、神様はひと言「歌い続けなさい」といって頭の中から消えてしまった。

(自分を、仲間を、そして歌の力を信じなさいとおっしゃるのですね……。分かりました。歌い続けます……。)

「永遠に君の歌聴けるように願う……」
 歌詞の最後を口ずさんだ。
「拓海……。二人で歌ったよ……。あたしたちの想いが届いたなら戻ってきて……」
 再び手を取り、祈るように両手で強く握った。


35.<拓海>

 二人の歌声が身体に染み渡り、氣付けば心地よい空間の中に身を置いていた。目の前には白い発光体が見える。どことなく人の姿にも見えるそれから声が聞こえる。

『本来であれば、お前はこのまま私の元に来るはずだったが、仲間がそれを阻止したことでもう一つの道が示された。もしお前に未練があるなら、お前の一番大事なものと引き換えに彼らのもとに還る道を選ぶことが出来る。どちらを選ぶかはお前の自由だ』

「一番大切なもの……」
 俺はとっさに喉に触れた。いや、実際には触れていないがとにかく、俺にとっては「声」が一番の宝物だった。

 「声」を差し出せば現世に戻れる、と目の前の存在は言いたいのだろう。しかしそれは俺が病氣になってからずっと拒み続けてきたこと。すぐには返事が出来なかった。

『現世に未練はないのか? 仲間の想いに応えず、運命を受け容れるのもまた良かろう。そう決意したならこの手を取るがよい』

 黙っていると、目の前の光の中から白い手が現れた。俺はその手を見つめながら人生を振り返る。

 正直な話、やりたかったことは全部やった。ミュージシャンとしてそれなりに名を残せたし、毎日大好きな音楽に触れられて楽しかったし、また麗華に会えたし、一緒に暮らせたし、最後には想いも聞けた。これだけ出来れば充分じゃないか……。

 そう。声を残すために手術を拒み続けてきた結果がこれなのに、やっぱり生きたくなって声を「売った」となればあまりにも格好が悪い。俺としては、かっこいいミュージシャンのまま最期を迎えたいと言う氣持ちも少なからずあった。

『どうした? 私と一緒に来る氣はあるか?』
 白い手がぐっと近づく。まるでこっちへ来いと誘うかのように。

 俺自身はもう意識だけの状態で肉体がなく、その手を直接取ることが出来ない。が、意識をそこに集中すればきっとあちら側の世界に行けるんだろうということは分かる。

 二人の歌声を聞いてもなお氣持ちがぐらついているのは、実はこの「白い存在」のせいかもしれない。口では選択肢があるようなことを言っておきながらそれはすでになく、この手を取るよう仕向けられている可能性は充分考えられる。

 意識がぼんやりしてくる。今にも白い手のほうへ吸い込まれそうになる……。

 ――ごめん、拓海。

 その時、声が聞こえた。智篤の、声だ。


36.<智篤>

「ごめん、拓海。僕が悪かった……」

 歌い終わったからといっていきなり奇跡が起こることはなかった。相変わらず横たわったまま、今にも死んでしまいそうな拓海を見下ろしていたらいても立ってもいられなくなって、氣付けばそんな言葉が口をついて出た。まるで「何でもする」と言った僕自身の言葉に突き動かされるかのように口が動き続ける。

「君を巻き込んでレイちゃんを恨めと言い続けてきた僕を赦してくれ……。でも……僕の氣持ちも分かって欲しい。あの時はああするしかなかったことを。それが結果的に僕らの、ウイングの音楽の原動力になったことを」

「智くん……」
 呟いたレイちゃんと目が合う。僕は腰を下ろして目線を合わせ、それから頭を下げた。

「ごめん、レイちゃん。そしてありがとう、こんな僕を受け容れてくれて。おかげで自分を取り戻すことが出来た。……ホントにありがとう」

「うん……」

「僕はただ、あの時の悲しみを聞いてほしかっただけなんだ。それを嫉妬や恨みという名に変えてくすぶらせていただけ……。でも君と再会し、手紙を介して直接伝えたことで氣持ちの整理がついた。そして君との共作を拓海に聴かせることで悲しみは浄化された……」

 僕は胸に手を当て、自分自身に語りかける。
(……そういうわけだから、用済みの僕はお前と入れ替わることにするよ。長い間閉じ込めてしまって悪かったな……。)

 ――分かってないな、君は。どうして残るか消えるかの二択しか思いつかないんだ? これだから頭でしか物を考えられない人間は困る。

(え……。だけど、主人格はお前の方だろう? だったら僕が引っ込むしか……。)

 ――闇と光が一つになればニューワールドに行けると分かったはずじゃなかった? 僕らも同じだよ。優劣をつけるんじゃなく、共存するんだ。

 「本当の僕」からの思いがけない言葉に戸惑う。

(……共存。だけど、お前はそれでいいのか? だってずっと……言うなればひねくれ者の僕に虐げられてきたってのに……?)

 ――だ・か・ら! 赦すんだよ、そんな君のことを。君は僕を閉じ込めてきたと思っているようだけど、あの時レイちゃんに抱いた憎悪を音楽作りのエネルギーに変換できたのは、間違いなく君が前に出てきてくれたおかげだ。優しいだけの僕じゃ、ああはいかなかったはずだもの。君こそずいぶん頑張ってくれた。ありがとう。これからは君と僕と、力を合わせてニューワールドで生きていこうじゃないか。

(出来るだろうか、そんなことが……。)

 ――君が僕を、「自分」を赦せば、きっと出来る。

(…………!)
 いまの言葉を聞いて「自分を赦す」ことの真の意味がはっきりと分かり、腑に落ちた。

(過ちを認めればいいだけじゃなく、僕がここにいること自体を赦す……。そういうことだな……? だけど、いていいのか? 本当に。こんな僕でも……。)

 ――もちろんさ。君は僕で、僕は君なんだから。

 心のどこかでずっと「こんな自分じゃダメだ。もっと強くなければ」あるいは「もっと優しくあらねば」などと言い続けてきた。だけどそれは誰かと比較したときに劣っているように感じられたからであって、本当はありのままの僕――強さ、優しさ、幼さや涙もろさなど、様々な面を持ち合わせた僕――でいればよかったのだ。僕らの仕事は場面場面に応じて前に出、協力してこの身体を生かすこと。一つの性格が頑張って、他の性格を殺す必要などはじめからなかったのだと知る。

(不器用だな、僕らは……。それに氣付くのに何十年もかかってしまった……。)

 ――ああ。だけど今、氣付けた。幸いなことに、僕らの寿命はまだ残ってる。あとは……。

(あとは……拓海だけ、だな。)

 ――そういうこと。

 僕はうなずき、拓海の手を握るレイちゃんの手をまるっと包み込んだ。そして拓海に呼びかける。本当の僕と一緒になって。

「……拓海、聞こえているか? 僕はなぁ……僕は君がいなきゃ生きてけないんだよ。知ってるだろう? 知ってて置いてくなんて、そんな薄情なことがあるかよ……。ああ、そうだ、また作ってくれよ。しゃばしゃば、、、、、、のルーをかけたカレーライス。あんな、飲み物みたいなのは君にしか作れない。でも、今は無性にあれが食べたい……。他にもある。僕は君の隣でギターを弾くのが好きだ。君と、目と音を合わせる瞬間が好きだ。もしもそれが出来なくなったら僕は本氣で泣く。君のギターを濡らして泣き続ける。そんなの、嫌だろう? 嫌だと思ったら早く戻ってこい。僕は待ってる。何時間でも、何日でも、ここで待ってるから……」

「今の言葉遣い、何だか昔の智くんを思い出すわ」

「そりゃそうさ。だって戻ってきたんだもの、昔の僕が。君と拓海のおかげでね」

「そう……。じゃあ、あとは拓海だけだね」

「うん。あとは拓海が戻るだけだ……」
 僕は力強く頷いた。
「……もう一度、いや、拓海が戻るまで繰り返し歌おう。そうすれば必ず想いは届くはずだ」

 今度は僕が歌を歌い、レイちゃんがハモる。僕らの祈りが通じるようにと願いながら。


37.<麗華>

 お前は自分の歌の力を過大評価し、まるで万能薬のように思ってる。歌に力が宿るのは心の底から生まれた歌詞と曲を歌うときだけだ――。

 拓海にそう言われたときはショックを隠せなかったが、今のあたしにはその言葉の意味がはっきりと分かる。

 あたしはずっと神様の言葉、つまりは万人に響く言葉を歌にしてきた。それはプロの歌手なら当然求められる能力であり、事実多くの人があたしの歌に耳を傾けてくれた。けれど万人に受け容れられるが故に、深く心を病んだ人や世を憂えているような人の心を癒やすほどの力がなかったのは、ある意味当然のことであった。

 そんなあたしは今、何者でもない自分として「名もなき歌」を歌い続けている。拓海専用の秘薬が効くことを信じて……。


38.<拓海>

 智篤の謝罪と自己の赦し、そして繰り返される歌を聞くごとに意識を覆っていたモヤは晴れ、氣付けば再び病室内に舞い戻っていた。今はさっきと同じように少し高いところから自分と彼らを俯瞰している。

(もういい……。もういいよ……。)

 必死すぎる二人をこれ以上見ていられなくなった俺は二人の心に語りかけることにした。

『麗華、智篤』
 二人が揃って顔を上げたのを確認し、続ける。
『俺のために歌ってくれてサンキューな。二人の想いはしっかり受け取った。だからこれ以上、そんな顔で祈り続けるのはやめてくれ……』

「君が戻るまではやめないよ」

「そうよ。やめるときはここにいる拓海が目を覚ますときよ」

 そう言われて、嬉しいやら戸惑うやらでどう返事をしたものか悩んだ。が、再びこの世界に意識が戻って来たのはきっと二人が祈りを込めて歌ってくれたおかげ。それが確かなものだったと証明するために俺が取る行動は一つしかなかった。

(俺をあの世に連れて行こうとした声の主、聞こえてるか……? こいつらとの約束を果たしたいからあの世に行くのはもう少し先にさせてもらいたいんだけど、いいかな?)

 問いかけるとすぐに返事がある。
『無論。生きるも逝くもお前次第。だが、現世に舞い戻るには……』

(声を置いていけ、って言うんだろう? ……この声は俺の宝物だった。捨てたくないからこのまま死ぬつもりで手術さえ拒んだ。……だけど、こうも引き留められたんじゃあ引き返さないわけにもいかない。約束を破った男だと後ろ指を差される方が格好悪いからさ、取引に応じることにするよ。)

『それが、お前の出した答えか。後悔はしないな?』

(ああ……。こっちの世界でもうちょっと足掻あがいていくわー。んで、こいつらと新しい世界を築き上げたら今度こそそっちに行くよ。でもその前にひと言だけ、こいつらに伝えさせてくれ。声はそのあと置いていく。)

『気の済むまで語り合うがよい』

(サンキュ。)

 「あの世の水先案内人」に礼を言った俺は、俺の手を握り続ける二人の前に立った。そして最後の言葉をかける。

『麗華、智篤。俺の声を愛してくれてありがとう。この声で語りかけられるのはこれで最後だ。最後だからよーく覚えておいて欲しい。そして、宝物である声を捨ててまで俺が守りたいものは何か自分の胸に問いかけ、自覚と覚悟を持って欲しい』

「最後……?」
「声を、捨てる……?」

 二人は戸惑い、顔を見合わせた。

『愛してるよ、麗華。ありがとう、智篤。そしてさよなら、俺の声……』

 意識の上で喉に手を当てた俺は、あの世の水先案内人に声をかけた。
『挨拶は済んだ。戻るよ』


39.<智篤>

 拓海の言葉を聞いた僕らは青ざめた。いよいよ最期のときが来てしまったのかと思ったら悔しくて涙が込み上げる。やはり僕らの歌では拓海を救えなかったのか、と……。

 悲しみの感情が溢れそうになったとき、隣にいるレイちゃんが息を呑んだ。そして拓海に目いっぱい顔を寄せた。

「レイちゃん……?」

「……今、目が開いたような氣がして」

「えっ……!」
 慌てて立ち上がり、彼女と同じように拓海の顔をのぞき込む。
「おい、拓海……。生きて……いるのか……?」
 問いかけると、声に反応するかのようにまぶたが動き、ゆっくりと目が開いた。

「ああ、拓海……!」
 僕らは彼にしがみついた。
「よかった、本当によかった……!」

 興奮状態の僕らとは対照的に拓海は穏やかに微笑み、静かに呼吸を繰り返していた。その様子を見て違和感を覚える。

「もしかして……声が出せないのか……? あっ……。さっきの『声を捨てる』って言うのは……」
 拓海はゆっくり頷いた。レイちゃんの表情がさっと変わり、今度は悲しみの涙がこぼれる。

「自慢の声を犠牲にしてまで戻ってきてくれたんだね、ありがとう拓海。あたしたちのために……。本当にありがとう……」



 僕らはすぐに医師を呼び、拓海の身体を診てもらった。医師は診察しながら何度も首をかしげ、最後には驚愕した。

「……峠は越えたようです。肺の雑音も聞こえなくなりましたし、顔色もいい。これならもう心配はいらないでしょう。それにしても、不思議なことが起きたものですね……」

「不思議なこと……?」

「重度の呼吸器疾患がみられたにもかかわらず、数時間安静にしていただけでここまで回復するなんて通常ではあり得ないことです。これが……歌の力なのでしょうか。まだ信じられない……」

 止めには来なかったがきっと僕らの歌を聴いたのだろう。医師はしばらくの間、不満そうにうつむいていた。

 その後すぐに精密検査が行われ、拓海が患っていた病が綺麗さっぱりなくなっていることが分かると医師は再び驚きの声を上げた。また、異常が見られないにもかかわらず声が出せないことにも納得がいかないらしく、頭を悩ませている様子だった。

 しかし僕らにとっては、医師が現実を受け容れられるかどうかなど、どうでもよかった。僕らの願いが、祈りが聞き届けられ、拓海が生きて僕らの目の前に戻ってきた。それがすべてであり、何よりも重要なことなのだから。


◇◇◇

 拓海は程なくして退院、数日ぶりに僕らと彼の住むやすアパートに戻った。いつもなら真っ先に拓海がだらけた声を発するが、今日はそれが無い。帰ってきたのに、少しだけ寂しさを覚える。二人も同様に感じたのか静かに靴を脱ぎ、黙ったまま腰を下ろした。

 静かな部屋。これまでいかに拓海の「声」に助けられてきたかを痛感する。唐突にその声が聞きたくなるが、もう二度と聞くことが出来ないのだと思ったら鼻の奥がツンとしてきた。隣を見るとレイちゃんも静かに涙を流している。

 その時、拓海が急に立ち上がってギターとスマホを取りだした。慌ただしく画面を操作したかと思うと「よーく聞いとけ!」と言わんばかりに音量ボタンを最大値まで連打する。

「いったい、何が始まるんだ……?」

 僕とレイちゃんが顔を見合わせていると、ギターの生演奏と共に拓海の「声」が聞こえ始める。

 #

命芽吹くとき 大地は光り輝く
朝日昇るとき 鳥たちは歌う
手を伸ばそう 夜明けの空に
オレンジに染まる手は 君の温もり

抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの世界を
命ある今に 君に出会えた歓びに
ありがとう

命生まれゆく 日の出と共に、ああ
新しい日常ひびが 今日も始まる
手を伸ばそう 未来の空へ
虹色に染まる道は 希望の架け橋

越えていこう 不安も悲しみも 共に
生きとし生ける すべてが笑う世界へ
怖くなんてないさ 君となら
手を繋いで一つに

抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの世界を
越えていこう 不安も悲しみも 共に
生きとし生ける すべてが笑う世界へ……

 #
(※歌が聴きたい方はこちらの記事へ※)

 すぐに、倒れる直前に録音した曲だと分かり、涙が止まらなかった。これが最後の声だと言うこと、そして拓海がこの世で生きた証しを残そうとしたときに感じた想いの美しさに心動かされる。

「生きることを選択してくれてありがとう……」
 レイちゃんが涙ながらに言い、拓海に抱きついた。僕も拓海の正面に立ってその手を取った。

「これからも響かせよう、僕らの音楽を。そして一緒に行こう、三人で新しい世界へ」

 拓海はちょっと照れくさそうにはにかみ、頷いた。そしてベッド脇に置いてあったメモ帳を手に取り、何やら書き始めた。のぞき込むと、紙にはこう書いてあった。

 ――生きよう、一緒に。これからもよろしく!


続きはこちら(#13)から読めます

✨次回でラストの予定です✨


※見出し画像は、生成AIで作成したものを修正して使用しています。

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いろうた@「今、ここを生きる」を描く小説家
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