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声に出して読む「背教者ユリアヌス」

 こんばんは、いたるです。
厳しい寒さと雪が続いていますが、体調を崩されていませんか。
今日は先日読み終えた、辻邦生さんの「背教者ユリアヌス」の感想を投稿させていただきます。

書籍情報

作品名:背教者ユリアヌス
著 者:辻邦生
出版社:中央公論社 中公文庫
発行日:1974年12月10日(上)
    1975年1月10日(中)
    1975年2月10日(下)
    (現在は4巻構成)
ジャンル:歴史小説(欧州、ローマ帝国)


背教者ユリアヌス

 本作の主人公はローマ皇帝ユリアヌスです。ローマ皇帝の中では比較的なの知れている人物ですが、世界史的にはマイナーな人物ではないでしょうか。彼が比較的知られているのも、「背教者」という刺激的な二つ名のため。ユリアヌスの生涯を山川世界史小辞典2版の引用をもって紹介します。

ユリアヌス 331~336(在位3361-363)ローマ皇帝。コンスタンティヌス帝の甥。ギリシア古典に親しみ、即位後異教の復活を企てたが、サーサーン朝ペルシアと戦って死ぬ。後代「背教者」とよばれる。(秀村)

世界史小辞典2版P.673

長い迫害を経て、コンスタンティヌス帝により公認され、後年、ローマ帝国の国教となるキリスト教に対して、異教(ギリシャ・ローマ神話)を復興させようとした反動政策をとった皇帝。ユリアヌスは在位2年足らずで没し、彼の企てはとん挫したものの、「背教者」という強い言葉が彼を表す言葉となって残されています。

日本人が好む物語

 ユリアヌスを主人公にした物語は、私たちとって馴染みやすいものではないでしょうか。天涯孤独な青年が周りの人々との交流のなかで学問を支えて暮らしていく。ある時に歴史の表舞台に出た彼は自らの理想とする古き良き共同体を取り戻すために理想と現実の間で奮闘する。南北朝時代の公家武将、北畠顕家を扱った北方謙三さんの「破軍の星」を思い出し、多くの方に楽しんでもらえる成長物語でもある、と感じています。

 上巻のあらすじを紹介します。

ローマ皇帝の家門に生まれながら、血をあらう争いに幽閉の日を送る若き日のユリアヌス。やがて訪れる怒涛の運命を前にその瞳は自負と不安にわななく 毎日芸術賞にかがやく記念碑的大作!

背教者ユリアヌス(上)背表紙

声に出して読みたい 背教者ユリアヌス

 youtubeでこの作品について紹介されていないか、と検索をしたところ、朗読されている動画に出会いました。学習院大学資料館さんのチャンネルで放送部に所属する4名の学生さんがいくつかの場面を朗読されてる50分ほどの動画でした。読み進めながら聞くうちに、もし私が朗読をするならどの場面だろう、と思いながらページをめくる様になりました。
 というのも、私は高校生の時、放送部に所属していました。夏のコンクールで「朗読」部門に参加したことがあります。「朗読」は課題図書の中から任意の場面を2分以内で読むというもので、一番印象に残った場面を選んで読み上げました。朗読を聞くなかで思い出して、自分ならどの場面を読むだろうと考えるようになりました。

 思いつくままに付箋を貼り、最終的に私が選んだのは、下巻389~392ページ、サーサーン朝ペルシアの首都クテシフォンを目前にしてユリアヌスが古くからの友と邂逅し、言葉をかわす場面を選びました。一部を引用します。

 ディアは涙があふれるのを辛うじて押えていた。昔ながらの、人の好い、おだやかな、夢を見ているような灰青色の眼が彼女のすぐ前で笑っていた。口のまわりの髭のせいで、何となく飄逸な、とぼけたような感じが加わったが、それでも、二コメディアの頃の、生真面目な表情は残っていた。

背教者ユリアヌス 下 391ページ

 終盤でユリアヌスの人柄と彼に惹かれた人々の姿を描くことで、皇帝としてでなく一人の青年の来し方を追体験していきたことを思い出して、印象に残る場面でした。

付箋だらけ

「眼」の表現

 上記の引用にもありましたが、本作では「眼」の表現が登場人物たちの生き方や内面を表すことに用い垂れていると感じました。ユリアヌスは「灰青色」、叔父のコンスタンティヌス大帝とその子どもたちは「大きな灰暗色の眼」。ユリアヌスを支えるマケドニア出身の皇后エウセビアの眼は「茶色い明るい眼にはどことなく涼しげな、甘やかな感じ」と表現され、他にも「濃い青い眼」や「黒いきらきらした眼」をもつ人物たちがユリアヌスと出会い、ともに生きていきます。それぞれの人物、まとっている雰囲気が伝わってくるとともに、ローマ帝国という大きな共同体に所属する人々の多様性も表しているように感じました。

こんな人にお勧め

ローマ帝国に興味のある方
歴史小説が好きな方
貴種流離譚が好きな方
青年、貴公子の成長と挑戦、苦悩がツボな方

妄想キャスト(ラジオドラマ)

ラジオドラマ「背教者ユリアヌス」(妄想)キャスト

ユリアヌス:梶裕貴さん
ガルス:細谷佳正さん
コンスタンティウス:杉田智和さん
エウセビア:恒松あゆみさん
サルスティウス:中村秀利さん
ディア:花澤香菜さん
ゾナス:宮野真守さん
コンスタンティア:小林ゆうさん
エウビウス:宮本充さん
ネヴィタ:小西克幸さん
 NHKの「青春アドベンチャー」でドラマ化してほしいです。20回で。

おわりに

 ユリアヌスに感情移入しながら、見守る様に読み進めました。「ガリア戦記」や「自省録」を読む場面では、私も同じもの読んだ!と時空を超えて勝手に親近感を感じていました。おかしいですよね。
 うまく紹介できたか怪しいですが、出会えてよかったと思える作品でした。古書店での偶然の出会いに感謝しています。辻邦生さんをこの作品で知り、他の著作も読んでみたい、と思っています。今年は辻さん生誕100年の年とのこと。ラジオドラマ化されないかな。  
 次は読書報告か100の質問に挑戦してみようかと考えています。その時もお付き合いいただけると嬉しいです。ありがとうございました。それでは、また。


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