若者の日常小説(2)

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20時。夏といえども既に日は落ちて、虫の声と車の排気音が響く中、自転車で出かけた僕がマスクをしていなかったのはそんな感じで退屈で期待はずれな日常にほんの少しの刺激を求めたからであって、本気で病気にかかって苦しむ覚悟があるわけじゃなかったし、家族や知り合いにバレたらマスク忘れちゃったと誤魔化すつもりだったし、実際入店したコンビニで店員のお姉さんと客のおばさんにじろっと睨めつけられて僕は日用品の棚に直行してマスクを買ってしまった。夜食買うつもりだったんですけど……。
コンビニを出て駅の反対側に向かって少し行ったビルとビルの間にひっそりこじんまりとその公園はあって、普段からビルの陰で薄暗いんだけど夜になるともうかなり、一本だけある街灯の光が届かない奥の方ははっきりと闇だ。そこまで足を踏み入れる気はなくて、入り口の黄色い車よけの近くに自転車を停めると街灯下のベンチに腰掛けた僕は買ったばかりのマスクをずらして顎に引っ掛けた。装着時間わずか数分。こもった熱が開放されて、蒸し暑い夜ではあるがいくらか心地いい。ビニール袋からコンビニPBのアイスカフェラテを取り出す。このカフェラテが特別にうまいんだよな、なんていうわけではなくてただマスクだけ買うのは恥ずかしかったし、かといって元々予定していた昆布出汁醤油ラーメンを買うには予算オーバーだったし、とはいえせっかく来たのだからコンビニでしか買えないものを、で咄嗟に手にとったのがコンビニPBのアイスカフェラテだったというそれだけで、ここでも特別なことなんてひとつもない。
スマホを見ながら3分くらいで飲み終えた僕は更に5分かけてLINEとSNSをチェックして、そして立ち上がって、空になったプラカップと顎に引っ掛けたままで忘れかけていたマスクをビニール袋の中へ捨てた。家を出てから一言も口を利いていないし、誰とも目すら合ってない。レジの店員くらいこっち見て挨拶してくれてもいいのにね。そんな状況の僕がコロナかかるわけないしかかったら逆にレアじゃない? メモ帳にレポぎっしり書いてツイートしたらバズれる。
ポケットにスマホをしまって代わりに自転車の鍵を取り出して顔をあげて、僕の自転車のすぐ側に誰か立っているのに気がついた。

つづく

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